第237話

 さて……これで冷房魔道具のお披露目は終わった訳で、一応これだけでも村の人間は大いに喜んでむせび泣いて感謝しまくってくれてる――程ではないけど、それなりに感謝はされた。

 そんな姿をボケーっと眺めてると、あれ? もしかしてこれ1台作るだけでいいんじゃね? って結論に行きついた。

 これだけでも十分すぎる効果を発揮してくれてるし、氷で涼を得てた時も特に文句らしい文句もなかったって事は、これ1つで熱期を乗り切ってくれるかな?


「じゃ、畑仕事があるんで俺はこれで」


 とりあえずこれで様子を見よう。同じように文句が出て来なければ、この1台で済むんで非常に楽になってぐーたらライフ的にもありがたいけど、長い目で見たら一家に1台は欲しいよなー。

 見た訳じゃないけど、きっと夜は扉全開で寝てるだろうから、子作りなんてしたらアレな声が響き渡って恥ずかしい思いをするだろう。

 同じく、せっかくの冷気を遮るように戸を閉めてれば何かしてんだろうとバレて、翌日は大変な事になるな。


「こんな素晴らしい物を作っていただき、ありがとうございました」

「なんのなんの。これも俺のぐーたらのためだから」


 とりあえず気が向いたら作って、一定数溜まったら放出するって感じにしよう。それなら別に急かされてるって事にもなんないから、自分のペースでちまちま作れてモチベーションも下がりにくい。


 ——————


「うん?」


 いつも通り、畑を回って栄養を補充してさて家に帰ろうかなーと空を飛んでると、遠くの方から魔力の気配がこっちに向かって近づいてくるんで高度を上げて魔法で確認してみると、馬に乗った騎士の姿が。

 こんな辺鄙な土地にやってくるのは、ルッツ意外だと最近は姫ちゃんのぬいぐるみ輸送くらいで、前者はすでに来て帰ってる途中だから、自然と後者になる訳か。こっちとしてはちょっとした作業で金貨が5枚も稼げるのは楽でいい。

 正体は分かってるけど、とりあえずヴォルフに報告した方がいいだろう。いつもより速度を上げて家に戻ると、相変わらずエレナがリビングでゆったりしてるけど、サミィに関しては熱期だっていうのに少しだけ厚着をしている。


「サミィ姉さん。そんなに寒い?」

「あぁこれかい? まぁ、僕にはあまりこの寒さは合わないけど、かといって暑いのも苦手でね。こうしてるんだよ」

「だったらもうちょっと弱く作ろうか。我慢は良くないしね」


 あまり我慢を強いて体調を崩されても困る。そんな事になったら村のお姉さん方にバレた時になんて言われるか分かったもんじゃない。それを回避するためにも調整し直すとしよう。


「それは助かるけど……」


 サミィが視線を向ける先には、平然と冷房を満喫しているエレナがいて、今の話を当然聞いてただろうその表情はどこか悲しそうだが、娘の体調を考えるとそれも致し方なし! とでも考えてるのか口をはさんでは来ない。


「気にしないほうがいいよ。多少暑くなるよりサミィ姉さんが病気になったりする方が駄目なんだからさ」


 一旦冷房を切って……途端に暑そうにするんで仕方なく何個か氷を置いて多少マシな状況にしてから魔道インクの量を減らしては稼働させてサミィに調子を伺うってのを何度か繰り返せば、最初の頃と比べて3分の1程度の出力になった冷房になった。


「これでいい?」

「ありがとうリック。これくらいなら僕でも薄着でいられるよ」

「じゃ。俺は父さんのトコに行くから」

「あらー。何か用事かしらー?」

「うん。騎士か近づいて来てるから一応報告しようかなって」

「……それを先にしておいたほうが良かったんじゃないかな?」

「そうねー。それが大事な報告とかだったら大変な事になるわよー?」


 そういわれればそうかもな。つっても、すでに過ぎ去った時間は元に戻らないから、今からでも多少急ぎ目に執務室に。


「父さん。どっかの騎士が来るよ」

「何人だ?」

「俺が見たのは1人かな? 先触れの可能性はあるかもね」

「ふむ……それはいいんだが、報告が少し遅くはないか?」


 そうだね。微調整に熱が入った結果、すでに村の中に入っててヴォルフもそれに気付いてるみたいだ。


「うん。ちょっと冷房の出力を調整しててね」

「冷房の? もう壊れたのか?」

「そんな訳ないでしょ。サミィ姉さんが寒そうにしてたら威力を弱めてたの」

「そのせいで、急いで来客の対応をしないといけないんだぞ」


 チクリと釘を刺したヴォルフが仕事を一時中断。走ってるわけじゃないのに全く追いつけない――というか、追いつく気がない速度でのんびりゆったり歩いて玄関に向かってると、何故かリビングで足を止めてた。


「どったの?」


 そこには、さっきまでと打って変わって優雅にティータイムを楽しんでるように見えるエレナと、昼間からソファで寝息を立てているサミィという珍しい光景があった。

 あの短時間で寝るなんて……サミィもなかなかぐーたらの才がありそうだな。


「……来客があるのは聞いてるかい?」

「ええー。サミィちゃんはどうしようかしらー?」

「執務室を使うから、そのまま寝かせておいて構わん」

「そうねー。まだこれを知られるのは良くないものねー」


 どうやらこの2人は冷房魔道具を騎士に見せたりするつもりはないらしいが、その意見には俺も賛成だ。

 ただでさえ村人達の分も作るって考えるだけで全身がずしっと重く感じられるからな。


「とりあえずお茶の用意を」

「任せてちょうだいー」

「行くぞリック」

「え? なんで俺も?」

「何故って……おそらく来訪者は王女殿下の使いの者だろう? だったらお前が居ないと話が進まないだろうが」


 やっぱりヴォルフも俺の客って認識を持ってるらしい。まぁ、ここに来る騎士なんて、姫ちゃんの使いくらいしかいないもんなー。

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