第230話
「……さて、どうするかね」
あんまり回ってない頭でそう呟く。その内容は、冷房魔道具に関してだ。
あと6日で村中に行き渡るくらいってなると、どう考えたってキャパオーバーなんだよな。いくら魔法が多少得意だといっても限度はあらぁな。
特に冷房魔道具は魔法陣が滅茶苦茶細かいから、1枚作るのに結構なぐーたら力を消費する。
別に作りたくない訳じゃない。ここの熱期に冷房で抵抗できるようになれば、村人達にも快適な睡眠を与える事が出来るだろうし、それに付随して子作りに励んだりしてくれるかもしれない。
こうなれば、住民も増えてぐーたらライフの人手として10年後20年後に役に立ってくれると考えて作るのはいいんだけど……。
「やっぱ期限だよなー」
どう頑張っても1日2枚作るのが精いっぱい。やろうと思えばその何倍も作れるけど、それ以上を想像するだけでやる気が削がれるんだよ。
こうなると、当たり前だけど血みどろの争いになる。何せ家の中限定になるけど、あれだけ苦しめられてた熱期が「どこに行っちゃったの?」ってなるくらいの快適空間が手に入るんだもん。我先にってなるのは目に見えてる。
いったいどうすればいいんだろうか。これが引き金となって他の村に住む事にしますなんて言われた日には、ぐーたら神からどんな天罰が落とされるか分かったもんじゃない。
だからって作らないのもねぇ……。元々快適な暮らしを送ってもらうために始めたんだから。
「うーん……」
「朝っぱらからなに悩んでんのよ」
「おおう! アリア姉さん。ノックした?」
「したわよ? 気づかなかったアンタが悪いんでしょ」
こればっかりは考え事に集中してた俺が悪いね。防犯カメラなんて便利なものがあるわけでもないこの世界で、証拠云々なんて言ったところでどうしようもないしね。
「おはようアリア姉さん」
「はいおはよう。起きたなら母さんの所に行きなさい。アタシは父さんと訓練してくるから」
「また昨日みたいな訓練しててくれるとこっちも楽で助かるんだけど、どうなの?」
昨日は圧の訓練とか言ってもの凄く静かな訓練だったおかげもあって、わざわざ魔法を使わなくても気づいてもらえたんで本当に良かった。できれば毎日あれをやってほしいくらいだ。
「父さんとはしばらくあの訓練を続ける予定よ」
そう言い残して去って――行かない。なんか分かんないけど仁王立ちで俺の方をじっと軽くにらんでる?
「……訓練行かないの?」
「今日はアンタも付き合いなさい」
「必要ないと思うんだけど?」
魔法使いが圧とか言われたって良く分からん。そんな事のために大切なぐーたらタイムを浪費するなんてしたくない。
「まぁ、確かに要らないわね」
「それに、俺には朝食の手伝いがあるから」
日課——ってほどじゃないんだけど、基本的にエレナの手伝いは欠かさないようにしてる。そうした方が精神的に健康に過ごせるからやってるし、急に体調不良になった場合に備えて損はない。
「あぁ。それなら大丈夫よ。母さんがサミィ姉さんと一緒にやってるから」
「サミィ姉さんが? なんで?」
俺とエレナを除けばマシな部類だけど、それでもキッチンに立つのは珍しい。
「なんでも、いざという時のためにらしいわ」
「あぁ……」
つまり、砂糖関係って事なんだろう。俺としてはそのポジションは村のガキ連中に任せるつもりなんだけど、身につけておいて損はないだろうと判断したのかもね。
「だから、アンタも今日はアタシと一緒に訓練するのよ」
「拒否したいんだけど?」
朝食の手伝いをする必要がないんであれば、ギリギリまでぐーたらしたいのが偽る事のない本音とは言え、2度寝をするのはちょっと怖いから冷房魔道具でも試しに作ってみるかと考えてる。
「ダメに決まってんでしょ。ついでにアンタの日頃の運動量も確認してあげるから感謝しなさいよ」
なんて言ったと思ったら首根っこをつかまれ、引きずるように部屋を後に。
「父さーん。お待たせー」
「遅かったじゃ――ってリック? なんでお前がいるんだ?」
「見てわかるでしょ。アリア姉さんに無理矢理連れて来られたの」
「アリア。どうして連れて来たんだ?」
「リックを参加させるためよ」
「そうじゃなくてだな。こんな事をして、母さんに怒られないか?」
やはりエレナの機嫌が気になるらしい。ここで俺に稽古をつけてましたなんて言って、後で重苦しい空気の中で朝ご飯を食べたくないからね。
「大丈夫。その母さんから許可取ってきたから」
「なら問題ないな。では訓練を始める」
ちゃんと確認を取った方がいいんじゃないかなーと思ったけど、さすがの脳筋アリアでもエレナを使ってまで噓をつくような真似はしないだろうとヴォルフも判断したんだろう。すぐに訓練が始まるらしい。
「アリアは素振りを100回だ」
「はい!」
指示を受けるとすぐ、腰に下げてた木剣の素振りを始めたわけだけど、いつも見てる訓練と違って俺の目でも確認できるくらいにはゆっくりだ。
「肩が落ちてるぞ」
「はい!」
こんな感じで、時々ヴォルフからの指示が飛び。アリアがそれに答えるって感じの光景が続く。
これを見てるだけなら楽でいいなーとぼーっとしてると、ヴォルフがこっちを向いた。
「さて、それじゃあリックだな」
「俺もあれやんの?」
「……さすがに意味ないか。とりあえず走るか」
「その程度であれば」
一応毎日欠かさずやってるからな。軽くであれば特に問題はないんで、普通に走り始める。
速度に関しては期待しないでほしい。アリアやグレッグは言わずもがな脳筋側の人間で、ヴォルフは魔法は使えるけど剣も使えるハイブリットタイプだけど、俺は完全な魔法使い。貧弱なのよ。
そんなぼてぼての走りでざっと家の周りを1周して今はおしまい。
あとは数回の腕立て伏せと腹筋に、後はプランクをやって見せて終了。
「こんな感じだけど?」
「短すぎでしょ!」
「もうすぐご飯だから短いだけだよ」
いつもであれば30分はやってると思う。あくまで体感だから正確なとこは知らんけど、それでもキッチリ運動は欠かさない。これが60年後70年後のぐーたらライフにもろに影響すると思えば苦ではないのだよ。
ってなところでサミィが朝食の準備が整ったとの知らせをもって裏庭にやって来たんで、この話はここでおしまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます