第229話

 結果として、砂糖はっぽいのは完成したけど量は少ないし雑味が多いけど、完全な失敗とも言えないせいか、2人とも特に文句もなかった。


「じゃあ。俺は夕方までぐーたらするから」

「助かったわリックちゃーん」

「おかげで次まで何とかなりそうだよ」

「そりゃよかった。最後にもう1回言うけど、勝手に畑から取っていって作ったりしないでよ?」


 やったとしてもすぐに分かるけど、忠告しておかないとまたやった時に「そんな事言われなかったものー」とか言い訳してきそうだからな。


「……分かったわよー」


 今小さく舌打ちが聞こえた気がする。エレナがそういうことをするのって何気に初めてじゃない? それだけ狂った甘党って事なんだろう。その想いの強さは、俺のぐーたらに対するものと比べてそん色ないのかもね。


「じゃ」


 やれやれ。これでようやくぐーたら出来るな。朝から昼までこんなに労働させられるとは……すべては世界が悪いな。平和だったなら社会見学が滞りなく行われただろうし、砂糖が安定供給されてたらロリ伯爵がこんなド辺境にまでやってこないで甜菜が駄目になる事もなかったんだからな。


「ふあ……っ。シンドイ」


 あーようやくぐーたら出来る。ハンモックに揺られ、何も考えずにぼーっと空を見上げるだけで、激しい労働で悲鳴を上げる四肢の声が少しづつ大人しくなっていく。

 ……うん。俺が望んだのはこういう生活なんだよなー。朝から晩までぐーたらし、意識を星の外まで飛ばしての宇宙遊泳で真理に到達しようと邁進したいのに、毎日毎日何かしらの邪魔が入ってくる。

 家族だったり住民だったりキノコ共だったりと、とにかくいろいろな事が毎日起こるせいで本当にぐーたら出来ない。このままだと精神病んじゃうかもなー。せめて1日でもいいから延々とぐーたらし続けたいねー。

 エレナに言ってみるか? これを実行に移すに際しての最大障害だからな。

 俺が望むぐーたらは、食いたくなったら食うが理想だ。しかしそれはエレナの教育方針とは相容れないから断られるのは確実だ。

 確か、ゲイツを王都に送り届けたり。ヴォルフたちを迎えに行ったりするという必要不可欠な事をする際には渋々ながらもお昼ご飯を作って渡してくれたけど、門限が設定されたから、これも廃したい。

 考えれば考えるほど難しいなー。有給休暇も取れないなんて本当にブラックだ。


「……はぁ」


 なーんかここ最近ずーっと労働させられてるなー。まぁ、出来る事が増えたんで仕方ないっちゃ仕方ないけど、もうちょい俺の代わりが出来る人が欲しいなー。

 今のところリンが魔道具作り修行中だから、いずれは俺の代わりに魔道具作ってもらうとしても、それには時間がかかるし1人だけってのもなぁ。


「また買うか?」


 一応懐にはまだ余裕があるが、正直魔道具が作れる奴隷の値段を知らんし売ってるかもわかんない。いちいちまた王都に行って調べるのも面倒臭い。ルッツにでも1回聞いてみるのもいいかも。

 あと必要なのは……畑仕事は腐葉土が肩代わりしてくれる予定だし、村の広場の氷柱作りは冷房魔道具が取って代わるし、砂糖に関してはガキ連中の何人かが手伝ってるからそこまでじゃない。


「……特にないか」


 今までは、奴隷購入だったりゲイツやヴォルフ達の送り迎えとかが重なった結果の不幸な事件ってか? それで片付けたくないけど、そう思う以外に理由が思い当たらない。

 うーん……納得できないけど、そう結論付けるしかないんであれば、もう寝よう。


 ——————


「——ック。ちょっとリック。起きなさいよ」

「んが?」


 身体がぐりんぐりん動き回る不快感に目を覚ますと、なぜかアリアが俺に馬乗りになってハンモックをガンガンに揺らしまくってるという奇妙な光景がそこに。


「……何してんの。アリア姉さん」

「母さんに起こせって言われたから起こしに来たのよ。随分ぐっすり寝てたようね」


 視線を少しずらすと、夕方——というよりはもう夜になりそうなほど日が沈んでるじゃないか。

 こんな時間になっても起きてこなければぐっすり寝てると言われても仕方ないか。


「もっと普通の起こし方があると思うんだけど?」

「普通に起こして起きなかったアンタが悪いんでしょ」


 アリアによると、最初は普通に起こそうとしてたらしいんだけど、俺がうんともすんとも言わないんで次第にエスカレートした結果が今の状況なんだそうだ。


「せめて靴脱いでほしかったなー」

「別にいいじゃない。魔法でどうとでもなるんだから」

「まぁそうだけどさ」


 水魔法を使えばあっという間に新品同様——ってのは無理だけど綺麗にはなるとはいっても、重要なのは無茶な動かし方をされるとハンモック自体の強度が心配なんだよ。何せ中古で買ったモンだからな。

 ……暗くて見えん。光魔法でパッと照らす。


「眩し……っ。魔法使うなら言いなさいよ」

「だって暗くて見えないんだもん」


 アリアの文句を無視してじっくりハンモックを確認。あれだけの事があったからどっか千切れたりしてないかとざっくり確認してみるも、一応そういった箇所は見られなかった。


「とりあえず大丈——痛っ。なんで急に殴るのさ」

「アタシが重いって言ってるからよ」

「そんなこと言ってないじゃん」

「ほとんど言ってるようなもんじゃない!」


 そりゃそうか。とはいえ俺よりは重いから強度に不安を感じるのは仕方ない事じゃないかな? 口が裂けても言わんけど。


「別に気にするような体型じゃないと思うけど?」


 アリアは基本的にずっと動き回ってるし、その内容もなかなかにハードワークなだけあって、全体的にすらりとしてて無駄なぜい肉っていうのが本当にどこにもないって感じる。

 まぁ、一部もぺったんこなんでそこは気にしてるだろうけどね。


「フン!」

「痛ぁ! 何すんのさ!」

「どこ見て痩せてるって言ってんのよ!」

「全身ですけど?」


 いたって普通に全身を眺めてたはずなんだけど、どうやら脳筋由来の野生の勘が働いて馬鹿にされてると気づいたらしい。

 つっても、あちらを立てればこちらが立たずといった感じで、その両立は難しいと思うんだけど、アリアですら気になるらしいね。どうにもできんけど。


「なーんか嘘くさいのよね」

「そんな事より、早く夕飯食べないと怒られるよ」

「……その前に綺麗にしなさい」

「ふえーい」


 言われるがままいつも通り魔法で綺麗にし、質は悪いけど糖分の補充が出来たエレナの期限が良かった事もあって、非常にいい空気で1日を終える事が出来た。

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