第227話

「おーい母さーん。ちょっといいー?」

「どーしたのリックちゃーん……と、村の子供たちじゃないー? 何事かしらー」


 まぁビックリするよな。俺が帰ってきたら珍しく誰かを引き連れてるんだから。

 俺も昼飯が終わってからでいいだろと一応言ったんだが、俺のぐーたらぶりを骨の髄まで理解していてくれているようで、少しでも話さないと喚き散らすとぎゃーぎゃー言って来たんで仕方なくつれてきた。


「ちょっとやりたい事があってさ。相談に乗ってくれない?」


 職業体験に関して色々と相談したいことがあるんで、時間が欲しいと聞いてみたらなぜかエレナが少しだけ身構えたような気がした。どうして何か相談するだけでそんなことになるのかねー。結構有益なことばっかりしてきたつもりなんだけどなー。


「かまわないけどー、ご飯の準備もあるからあまり時間はかけられないわよー?」

「まぁ、概要だけでも話せればいいかなって。そうすりゃこいつらも満足するらしいからさ」

「だったら別に構わないわよー」

「それじゃあ早速だけど、社会見学の話覚えてる?」

「もちろんよー。でもー、あれは危ないからダメって言ったはずよー?」

「わかってるよ。俺も将来のぐーたらライフのための人員を減らすなんて行為は認められないもん。それでなんだけど、じゃあ村の中で似たようなことをすればいいじゃんとなった訳」

「そんなことできるのかしらー?」

「それを母さんに聞くんだよ」


 さて、こんなところで十分だろ。あんまり長く話しすぎるのはぐーたら力が減る。これが布教活動につながるんであればぐーたら神も大変お喜びになられる行為であるために無限に口が動くんだけどねー。


「じゃあ話を続きはお昼を食べ終わってからにしようか」

「あらー。もうそんな時間なのねー」

「ってわけだからお前らも帰れ」

「……ちゃんと言えよ」

「わーってるって。俺が駄目なら母さんがいるから」


 俺の記憶力のなさに定評はあるけど、エレナに関してはそういった欠点はあんまり感じない。度を越えた甘党ってのが最近発覚したくらいで、それ以外は特に欠点は見つからない。

 だから、俺が忘れてぐーたらに興じようとしても、エレナの方から「さっきのお話の続きはいいのかしらー?」とか言ってきてくれるから、こっちとしては全幅の信頼を置いてる。


「確かに。エレナおばさんなら大丈夫か」

「「「かー」」」


 すぐに話が終わって不満そうだったけど、リン率いるガキ連中は納得して帰っていった。ようやく静かになったな。人が多いってだけで気疲れする……。


「それじゃあー、ご飯作りましょうかー」

「……ふえーい」


 さて、疲労の残る体に鞭を打って何とかお手伝いしましょうかね。


 ——————


「で? エレナから話があると聞いたが、今度は何をやらかしたんだ?」


 昼飯を食べ終わり、さーてぐーたらしようかなーと思ってたら、首根っこをつかまれて強制着席。正面にヴォルフ。その左にエレナって配置で対面して話さなくちゃいけなくなった。

 俺としてはもう少し砕けた感じで話すような内容だと思ってたんだけど、どうしていつもこうなるんだろう。迷惑をかけた覚えもないのに……。


「なんもしてないよ。ただ社会見学の代わりのイベント――祭りみたいなのが出来るかどうかっていう相談をしたの」

「なるほど。で? それはいったい何なんだ?」

「そうねー。代わりになるものとは聞いてるけどー、お昼ご飯を作る時間だったからあまり詳しくは聞いてないわねー」

「そうだね……簡単に言えばお手伝いだね」

「「お手伝い?」」

「そう」


 多分そんな感じだったはず。あんま詳しく内容に目を通すような人間じゃなかったから覚えちゃいないけど、子供が仕事の真似事をしてお金を貰うって感じの流れだったのはと思う。

 そんな感じの事をざっくりと説明すると、2人とも不思議そうに首を傾げた。


「それは下働きと変わらないんじゃないのか?」

「まぁ似たようなもんかな。とはいえお遊び程度でいいんだよ」


 これはあくまで、勉強の有用性を教えるための催しなんだ。そこまで真剣に取り組まなくても俺はいいと考えてるんだけど、2人はあんまいい顔をしてない。


「うーん……仕事を遊びとするのはどうなんだ?」

「あくまで文句なく勉強を続けてもらうためのお試しだからね。別にその職業にならなくちゃいけないわけでもないんだから、軽い気持ちで体験してもらえばいいかなって」

「なるほどねー。でもー、そのお仕事のお手伝いをさせてくれる人はどうするのかしらー?」

「買ってきた奴隷の中に鍛冶見習いと商人見習いと薬師見習いがいるから、そいつらに任せようかなーって。ちょうど野菜の世話も暇そうだし」


 つい最近やる事がないって話も聞いてたからな。それだったら暇な時間を使って俺のぐーたらライフのために働いてもらうのは、領民としては当然の事だろう? それに、俺を差し置いてぐーたらするというのはちょっとムカつく。


「どうしましょうかー」

「そうだな……体験の内容は決まってるのか?」

「まぁ、ある程度は?」

「いったいどんな事をするのかしらー?」


 まぁ、職業体験をやる以上はどんなことをやろうとしてるのか言う義務はあるわな。危険なやつだったらノーというのは当然だし、俺も隠す気は全くない。

 ってことで、ぱっと思いつく勉強につながらお手伝いの内容をざっくりと説明する。

 薬師見習いに関しては、調合で使う薬草の数を数えさせたり。

 商人見習いであればおままごとの延長線上みたいな売買の一連の流れや、在庫管理なんかをさせれば計算と読み書きの勉強の意味が生きてくる。


「こんな感じだけどどう思う?」

「……なるほどな。確かにそれであれば読み書き計算が必須になるな」

「それにー。とても安全ねー」

「じゃあ開催してもいい?」

「いいんじゃないかしらー?」

「ああ。いいだろう」


 どうやら2人とも問題はないと判断してくれたらしいが、問題なのはこのあとなんだよねー。特に領主であるヴォルフにはたくさん働いてもらわないとねぇ……。


「じゃ、後は任せたからー」


 これでようやく夕飯までぐーたら出来るな。ハンモックに揺らり揺られて宇宙の真理の探究をしようじゃないかと席を立とうとした俺の肩に手を置いたのは、昼飯を食い終わってどっかに行ったはずのサミィが。


「リック。ちょっとお話ししようか」


 どうやらまだまだ俺のぐーたらタイムはお預けの様です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る