第226話
「おーいリックー!」
「んあ?」
エレナを怒らせる事無く平穏に朝食も食べ終わり、いつも通り村にやって来て広場の氷柱を作り、頭上の風の魔道具の魔石に魔力を充填してたら下から声がしたんで覗き込んでみると、数人のガキを引き連れたリンがいた。
「どーしたー?」
「こいつらが村の外に連れてけってうるせーからなんとかしてくれー」
「村の外? グレッグとかと一緒に走りたいってこと?」
その位であれば、別に結界を張ってれば問題はないと思うけど、そういう話は俺じゃなくてグレッグとか腕っぷし自慢の村人連中の誰かにもっていくのがいいと思う。わざわざ危機に行ったりするの面倒じゃん?
「違うよ! 前のしゃかい何とかってやつだよ」
「あぁそっちか。でもあれは母さんの一存でダメになったって話しなかったっけ? 皆に言ってなかったの?」
確かそんな感じの話をリンとシグにしたような記憶がある。ちゃんと全員に話をするように言ったかどうかは知らないけど、このくらいのガキであればリンにどうなったか聞きに来るくらいはすると思うんだけどなー。
「言って聞く訳ないだろ……」
「まぁ、言わんとする事はなんとなくわかる」
「だろ? だから何とかしろ。領主の息子だろ」
飯を買いにスーパーとかに行った時、親とここに来る前になんか約束してただろうこのくらいのガキ連中が叱られても、お菓子買いたいだのゲームがやりたいだのとわがままを喚き散らしてたっけ。
今回のこれも、度合いは違えどそんな感じってか? となると面倒だよなー。そういう役目はこいつらの親がする事なんじゃないかな? 俺も中身はこんなんだけど、外見は普通のガキだぞ? 荷が重いって。
「こういう時だけ権力者扱いしやがって……」
何とかしろって言われてもなー。正直いかんともしがたいってのが素直な答えかな。さすがに人攫いなんかに合って息子・娘を失った。なんて事になれば、村を出ていくんならまだしも、謀反を起こされて滅茶苦茶にされたらぐーたらライフなんて夢のまた夢になっちまう。
うーん……ガキ連中を満足させるイベントかつ村から出ない事ってなると――
「じゃあここでやるか? 社会見学」
「何言ってんだよ。この村にはなんもねぇじゃん」
「「「そうだー!」」」
「無けりゃ作りゃいいだろ」
「店があったってなんもないじゃん」
確かにリンの言う通り。建物は魔法でいくらでも作り出す事ができるんで、それ自体は何と伝なるけど問題は店員と商品だよなー。
このためだけにいちいち村の外から商人を連れてくるっていうのも手間だし、かといって大人連中に頼もうとしたところで読み書き計算に不安が残るし、そもそも農作業に従事してほしいからなぁ……。
「そうだ……あれがいいんじゃないか?」
大人が駄目ならガキ同士でやるしかない。確か日本でもそんな施設があって非常に人気だとのニュースをやってたりしてたよな。それをここでやれば、読み書き計算を一部使用して身になってるってことが実感できるかも?
他にも舞台演劇や吟遊詩人だったり。冒険者の真似事をしたり衛兵として村の見回りなんてことをさせてもいいかもしんないな。
鍛冶師見習いとか薬師見習いとか商人見習いとかいろいろな職歴の元・奴隷が手に入ったのも大きい。こいつらにそういう体験をさせるのも悪くないんじゃないか?
「おいリック。あれってなんだ?」
「社会見学が無理っぽいから、職業体験ならここでも出来るんじゃないかなーって」
「なんだそれ?」
「鍛冶やってみたり商人の真似事したりするって事だ」
「「「おー! なんか面白そー!」」」
ガキ共の食いつきはいい感じだ。これであればエレナもヴォルフもノーとは言わんだろ。1番肝心な悪人に連れ去られるって可能性がゼロなんだからな。これで文句があるんだとしたら、忙しくなる事だろうけど、俺には関係のない。
「じゃあこの線で母さんと父さんに進言してみるよ」
「よし! じゃあ今すぐいくぞー!」
「「「おー!」」」
「じゃあ頑張ってな」
俺は畑仕事があるんでここでお別れ――と思ってたんだが、ガキ連中が次々土板に乗り込んでくる。狭いし汗だくなんだからあんま近づくなよ。
「よっしゃ行くぞー!」
「いや、俺は畑に行くんだけど?」
「おれ達もついてってやるよ」
「何も出来ねぇだろ」
俺の仕事は魔法を使う。魔力のないこいつ等がついて来たところで見学以外にする事なんて何もない。むしろ邪魔でしかない。
「何言ってんだ。リックがおじさんおばさんに言うのを忘れねーか見張る必要があるからついてくんだよ」
「「「だよー」」」
うーわ。とんでもなく信用されてないな。いや、むしろ信用されてるのかな? 俺が忘れっぽい人間だと言う事が良く分かってるからこその行動か。でも邪魔だ。それにうるさいから空を見上げてボケーっとできないし。
「おーいリックー。畑通り過ぎてるぞー」
「うん? 悪い悪い」
考え事をしてたらうっかり通り過ぎてしまった。下をのぞき込めば村人が不過ぎそうな顔をしてやがるのも仕方ないことだろう。
「お待ちしておりました――って、なんでお前等もいるだ?」
「「「「見張りー」」」」
「まぁ、気にしないでいいよ。それよりさっさとやっちゃうよー」
「へ、へぇ。それではおねぇげしますだ」
さて、いつも通り畑に栄養をいきわたらせる。
「はいおしまい。それじゃあまた明日な」
「お待ちしておりますだ。おめ等もリック様さ迷惑かけんでねぇぞ」
「「「「はーい」」」」
まぁ、迷惑はすでに掛かってんだけどね。
とりあえずさっさと仕事を終わらせて、こいつ等にはいなくなってもらおうか。じゃないとぐーたら出来んからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます