第224話

「はぁ……酷い目に合った」


 まさかいきなり抱き着かれるとは思わなかったな。

 とは言え、ようやく冷房の魔道具が手に入った。問題は、長持ちさせるために一定時間ごとに稼働する魔道具が変わるようにするシステムだよなー。

 俺が持ってる知識だとそれは無理。そもそもあるかどうかも分かんないから、ない前提で作るとすると……どうしたらいいのかね。

 俺が1軒1軒回って変えるのは無いし、あっちから来てもらうのもぐーたらの邪魔になるからナシ。そんな事をするくらいなら、村人には悪いけど冷房魔道具の設置は諦めてもらおう。

 1日1回、巨大氷柱を作るのは多少手間だけど、いちいち交換する方が面倒臭いからな。


「困ったな……」


 自動化が出来ない以上、手動で何とかするしかないとはいえどうするのがいいんだろうな。

 何枚かを一遍に渡して適宜交換してもらうしかないかな? それだったら大量に作ってどっかに置いといて、駄目になったらそこから持ってってもらえば一応俺の負担は減るな。

 そうなると説明は必要だよな。交換時期に関しては、朝・昼・晩の3回にすれば時計がないこの村でも基準として分かりやすいな。うん……良い感じなんじゃないか?これなら村中に設置できるかも。


「リック様? 何か御用ですか?」

「うん? 特になんもないけどなんで――」


 うんうん唸りながら移動してたら、商人見習いの元奴隷と出くわした。どうやらいつの間にか野菜畑の辺りを飛んでたらしい。最近作ったからある事自体忘れてた。


「何やらお悩みの様でしたけど?」

「大丈夫。それよりも……1人?」

「ええ。特にやる事もないので1人で大丈夫かと。今日は私が担当でして」


 確かに。野菜の種を植えてまだ数日だからな。芽が出るのもまだまだ先だから、こいつ等がやる事と言えば水やりくらい。だったら1人でも大丈夫っちゃ大丈夫か。


「まぁいいけど。なんか困ってる事はない?」

「そうですね……今の所、暑さ以外は特に」

「あー。キッツイでしょ」

「まさかここまで暑いとは思いもしませんでした」


 まぁ、普通の暮らしをしてたらこんな暑さを体験する事は多分無いと思う。今は氷柱の冷気を風の魔道具で村中に行き渡らせる事で本当に多少はマシになったけど、そうなる前までは本当に酷かったからな。


「まぁ、その暑さも何とか解決の目途が立ち始めたんだけどね」

「そうなのですか⁉ それはいったいいつ頃になるのですか!」


 凄い圧だな。まぁ、それだけ暑いのがシンドイって事の表れか。

 えーっと……まずはミスリル入りの円盤を必要数作り。

 そこに1枚1枚氷の魔法陣を刻み込み。

 ちょうどいいくらいに効力を調整して完成ってなると――


「そうだな……遅くても多分7日後くらいには形になるかな?」

「7日ですね! 嘘ではありませんよね!」

「あ、ああ。多分だけどな」


 魔道具作り以外に何もやる事が無ければ、多分その位で作れると思う。


「ではその時を信じて待っておりますね!」


 過度な期待はきついなー。だからと言って作らないって言ったら面倒な事になりそうだし……やれやれ。不用意に7日なんて言わなけりゃ良かったな。まさか締め切りに追われる事になるなんて……すでに憂鬱だ。


「じゃ。俺はこれで」

「はい! 7日後を心待ちにしております!」


 うぅ……期待が重い。


 ——————


「ただいま……」

「あらリックちゃんおかえりなさ――ってどうしたのー?」

「えー? ちょっと色々あってねー」


 帰って来るなりエレナにめちゃ心配された。それだけ酷い顔をしてるんだろう。その自覚はちゃんとある。


「何があったかお母さんに言ってみなさーい。楽になるかもしれないわよー?」

「……いや、いいよ」


 多分、言ったら二の舞になる未来しか見えない――いや、むしろもっと短時間で作れと言われかねない。それは絶対に防がなければいけないから言う訳にはいかない。言うにしたって完成目前辺りじゃないと。


「そうなのー? それじゃあ晩ご飯作りましょうかー」

「ういーっす」


 とりあえず今日はご飯食べてさっさと寝よう。魔道具作りは明日の俺に全投げで。


「何にしようかしらねー」


 毎日毎日メニューを決めるのって大変だなー。ここに野菜が加わるとなるとさらにメニューを決める手間が増えて負担が増えると思うと少しだけため息がもれちゃうよね。


「うーん。ウルフ肉のステーキは?」

「あらーいいわねー。でもー、リックちゃんは食べられるかしらー?」

「じゃあちょっと魔法使うね」


 ステーキ肉ともなると5歳の顎には辛いものがある。なので、風魔法で隠し包丁を複数入れる事で柔らかくする。

 後は、魔道具になった我が家のコンロで焼けば完成。


「それじゃあ……そろそろアリアちゃんを呼んで来てくれるかしらー」

「ふえーい」

「あ。今日はお部屋にいるからねー」

「珍しいね」


 アリアが自室にいる? いつもであれば寝る時くらいしか居ないはずなのに……まさか訓練にならなくなるほど昼のエレナの影響が残ってるのかな?


「アリア姉さん居るー」

「何よ」


 ノックして声を掛けたら結構あっさり出て来た。その表情は特に落ち込んでるとは言い難いほどいつも通りだ。


「そろそろご飯だよって呼びに来たんだけど」

「ああそうなの」

「元気そうだね」

「あによ。元気じゃ悪いっての?」

「そんな事ないよ。ただいつも訓練してる姉さんが珍しいなーって」

「アタシだってたまには休むわよ。ほら、さっさと行くわよ」

「はーい」


 アリアに押されるようにリビングに行き、ステーキちょっとだけ悪戦苦闘しながら夕飯を終え、今日も1日お疲れさまでした。

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