第223話
「なんで?」
「何でって……壊したんやから直すのが筋やろ!」
「いやいや何を言ってるんだララ。壊したのはそっちだぞ?」
やっぱり分かってないようなんで、ミスリルを使った事やそれを主導したのがララであって、そのせいでかなりの出力が出てしまった結果。素材が耐え切れずにこうなってしまった事をザックリと説明をしてやる。
「——って訳だ。理解できたか?」
「そんなん言われたかて納得できるわけあれへんやん!」
「じゃあ止めておけばよかったんだよ。それか追加で修理の依頼もしとかなきゃ」
それであれば、こうなった場合でも1から作り直したところなんだけど、そう言う契約は無かったからさすがにサポート外ですよ。
「えぇ……それはさすがに酷すぎひんか?」
仕方ない。あまりいじめて親方にブチ切れられるのも面倒臭いから、この辺りで止めておくかね。さすがに金貨7枚も貰ってるからな。そのくらいのサービスくらいはしてやろう。
「まぁ、いつもお世話になってるから別に直してもいいけど、貸し1ね」
「直してくれるんやったら貸しの1つくらいくれたるわ」
随分あっさり承諾するんだな。言質を取った以上は絶対に使うつもりだけど、金貨7枚分ともなると結構なお願いを叶えてもらえると思うんだけど、その辺りの事をちゃんと考えてんのかな?
冷房に毒されて冷静な判断が出来なくなってんのかもしんないけど、俺には関係ないか。さっさと直してさっさと帰ろう。
「しっかし凄い威力だったなー」
「せやなー。一瞬で壊れる思ってなかったわー」
「こうなると、粉の割合を増やすか魔道インクの量を減らすかしないと使い物にならないね」
とりあえず鱗の粉末をドバっと追加投入。グニャグニャと均一になるように混ぜ込んでからちょろっと魔力を流してみると、少し通りが悪いから割合が多いから少し減らしてってのを何度か繰り返す。
「こんなモンだろ」
一応魔力の通りも悪くないし、かと言って速攻で霜だらけになるって事もない丁度いい具合の魔道具になったんじゃない? 使ってみない事には分かんないけど、とりあえず使える状態だからいいだろ。
「ええ感じなん違う?」
「じゃあ俺は帰るとしますかね」
用事が済んだらさっさと帰る。そして夕飯までぐーたらしたい。
「ちょ……何しとんねん」
「なにって……魔道具の回収だけど?」
研究結果が出た以上、これ以上ここに置いておく理由はないし、なにより俺のなんだから回収する事に文句を言われる筋合いはどこにもない。
だから、魔道具を取り外して、亜空間に放り込む。魔道具を外して亜空間に放り込む。という事をしてもいいはずなのにどうして止めるんだろう?
「そ、そうかもしれへんけど、どうせなら1つか2つは残してくれへん?」
「あー無理だね。ウチで使うから」
すぐ壊れっかもしんないけど、こういう魔道具が出来ましてん。というお披露目の意味で使うには十分だろ。壊れたら壊れたで試作品だから。とても言っておけば――すぐに次を作れって言われるよなー。
それでも数日は時間を稼げるはず。その隙にぐーたらしてぐーたら力を充填し、魔道具作りをするための気合を入れないといけないためにはこいつが必要不可欠だから――
「あ?」
最後の1つを取り外そうとした俺の手に、丸くなって寝転んでた凄腕獣人が掴みかかって来た。
一体なんだと目を向けたら、さっきまで眠そうで気怠そうな顔が一転。めっちゃ真面目そうな表情で首を振ってる。
「持って帰るの駄目。暑くなる」
「そっちの都合は知らないし。これは俺のなんだからどうしようと自由だろ」
暑いの苦手ってのはさっき知ったけど、そんな都合にこっちが合わせる義理はないし、つい十数分前に出会ったばかりの相手にかける情けなんて当然ない。だから普通に無視して亜空間に全ての魔道具を放り込み――
「……駄目。暑くなる」
やれやれ。いくら暑いのが嫌だからって、ガキ相手にマジ――になってるかは知らないけど、妨害するためにとんでもない力で腕掴むの止めてくれないかな。結界で守ってるから何ともないけど、普通だったらとんでもない事になってるぞ。
「そうだろうねー。でも、そっちの都合で俺が生きてる訳じゃないから」
俺の手を抑えたところで魔法があるからな。無魔法でひょいと持ち上げて亜空間に放り込めばハイ終了。
「……暑——涼しい」
「ぐえ……っ⁉」
冷房が無くなれば、暑くなるのはあっという間。さっさと手を放してここから去ろうとした俺より早く、俺の周囲が魔法で常時適温になってるって事に腕につかみかかった事で気付いたようで、一瞬のうちに抱き枕みたいにされた。
「ちょ⁉ レオ姉何してんねん!」
「涼しい」
「……ホンマや。リック、自分ここに来といて随分平気そうな顔しとったのにはこんな秘密があったんか!」
「当たり前なんだが?」
ぐーたら道を究めるには、快適な環境づくりは必須事項。衣・食・住そして気温。この辺りがしっかりしてないといつまで経っても昇段は望めないからな。
だから魔法技術の向上を怠らないし、魔力量を増やす事も毎日やってる。すべては未来のぐーたらライフという目的のために集結するのだ。
「いい加減離れろ」
無魔法で凄腕獣人を引きはがし、また抱き着いてこないように端の方に体育座りをさせると、よほど暑いのが苦手なんだろう。あっという間に汗がだらだらと流れ始めた。
「暑い」
「ララに涼しくなる魔道具売ったからそっちに頼んで」
「ちょい待ち。すぐに設置するわ」
慌てた様子でさっきまで俺の魔道具が置いてあった場所にミスリルが混ざった魔道具を設置して魔石を置くと、すこーしづつだけど工房の中が涼しくなり始めた。
「……まだ少し暑い」
「時間が経てば涼しくなるんじゃない? じゃあ俺はそろそろ行くね」
「おう。また来ぃや」
確か……砥ぎには数日かかるって言ってたっけ。それだったら、次にここに来る時にはここに凄腕獣人は居ないだろうから大丈夫か。
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