第222話

「まぁええわ。ほい。これが例の魔道具の残骸や」


 手渡された箱の中を見ると、粉々になってるのから多少ひびが入った程度のまでの物まできちんと分類分けされてた。

 てっきり一緒くたにごちゃ混ぜにされて、龍の魔力を頼りにちまちま分類分けしなくちゃなんないのかーと思ってただけにこれはありがたいね。ぐーたら力の消費が大分抑えられる。


「……言っとくんやけど、分別するくらい普通やからな」

「急にどったの? 別に何も言ってないじゃん」

「自分の顔と態度がそう思っとるように見えたからや」


 ううむ……どうやらこの表情筋はあくどい事や失礼な事を考える時に限って仕事を全くしなくなるらしい。おかげでララからジトっと責めるような睨みを受けてしまった。


「まぁまぁ。それより、どうして一旦止めたのさ」


 こんな暑い場所で、冷房を切るなんて行為を素手のその魅力に頭の先までどっぷりと浸かっているララに出来るとは到底思えない。

 じゃあどうやって自殺行為——ほどでないにしろ、それに近い行為をするに至ったのか。気にならないと言ったらウソになるね。


「ウチがやったん違う。オトンが勝手に切ったんや」


 ふくれっ面でそう切り出したララから出てきたのは、大量の愚痴だった。

 どうやら冷房ありきの生活を続けた結果、親方はあまり冷房が好きになれなかったらしく、ここ最近は何かあるにつけて俺がまだ来ないのかと随分とイラついてたらしい。

 挙句。もう研究結果は十分じゃろうといってしょっちゅう魔石を外してしまうんで、一昔前の日本の家庭のどこでも見られたテレビのリモコン争奪戦みたいなのが繰り広げられてるらしい。その時に、一時的に休ませながら使ったら長持ちするという発見をしたらしい。


「信じられへん! オトンはこの魔道具の良さが分かっとらんのや!」

「まぁ、人によって好き嫌いはあるしねー」


 日本で暮らしてた時もそう言う人は結構いた。それに、あんまり冷房の効いた部屋にこもりすぎるとクーラー病だっけ? 確かそんな病気にもなっちゃうんだったっけか。


「これが嫌いな奴が居るとか信じられへんねんけど」

「人によっては寒すぎると感じたりするんだよ」


 一応。そう感じるのは女子側が多いんだけどね。確か、男と比べて血管とかが細いから? だったっけかな。ブラック時代もよく寒い寒いと文句を言ってたっけ。そして、俺を含めた男子社員のほとんどが――じゃあ厚着しろや! と内心怒鳴ってたけどな。


「そうなん?」

「俺もあんま強いと寒いと感じるしねー」


 それにしても、1番割合が低いのは見事に粉々だなー。最初に使って点けっぱだったんだろうからしょうがないっちゃしょうがないんだろうけど、ここまでなるかね。

 次のも粉々だけど、1つ目と比べれば随分と1つ1つの破片が大きく、割合が増えるごとにその大きさもサイズアップして、最後のに至っては一部にヒビが入った程度で済んでる。

 そうして羊皮紙に目を向ければ、稼働時間が載ってるんで照らし合わせると、割合が増えるごとに稼働時間は増えてるっぽいけど、あんま差がないのはガッカリだ。

 多分だけど、今回の小競り合いが無かったら調査結果に落ち込んでただろうなー。正直言って、冷房として使うには短すぎるもん。


「ウチはこのくらいがちょうどええけどなー」

「そっちの獣人も丁度いいっぽいしね。じゃあ強さはこのままでいいかな」


 いざ使い始めたら、ウチの村でも冷房が強い弱い論争は絶対に起こる可能性は滅茶苦茶高いけど、その時はヴォルフに頑張ってもらおう。最悪——伝家の宝刀「じゃあ取り外しちゃっていい?」を使えば大人しくなるっしょ。


「じゃあ俺は帰るね」

「待ちぃや。まだウチで使う魔道具作りが残っとるやろ」

「今あるの使いなよ」

「何言うとんねん! 金貨7枚も払ぅたんやで。サラピンのに決まっとるやん」

「サラピン?」

「サラピンはサラピンやろ!」


 それが分かったら苦労しない。とはいえ、今ある中古品じゃ嫌って事なんだから、新品を作れって事だろう。本来氷の魔道具がいくらするのか分かってるのかね。


「じゃあ作るか」


 とりあえず長持ち目的って事で、龍の鱗を1パーセント混ぜ込んだ鉄板を――


「リックリック。これも混ぜて作ってくれへんか?」


 どこからか取り出したのは、ミスリル。確かにこれを混ぜたら強度は上がるんじゃないかな? 鍛冶師でもなければ鉱石に詳しい訳でもないからどうなるは知らないけど、注文を受けた以上はやるか。


「いいよー」


 まぁ、失敗したところで責任はララにあるから、金貨7枚が無駄になったところで弁償する気はさらさらない。何せ相手が望んだ事を忠実にこなしただけなんだから文句を言われる筋合いはない。

 さてどうなるんだろうと鉄とミスリルと龍の鱗の粉末を混ぜて1枚の円盤に仕上げてじーっと眺め、記憶の中にある氷の魔道具の魔法陣を円盤にイメージ。それが固まったら一気に――


「……」

「どないしたん?」


 ミスリルが混じってるから、ちょびっとだけ強めに土魔法を使ったんだけど、思ったより溝が浅いな。もうちょい深く彫らないと冷房効果が低くなって文句を言われるかもしんない。

 1回円盤に戻して……よし。後は魔道インクを溝に流し込んで蓋をすれば完成。


「はい。一応微調整は受け付けるから試してみて」

「相変わらず仕事が早くて助かるわ。では早速」


 うきうきのララが魔石を嵌めた途端。あっという間に円盤中が霜まみれになった。

 それでも結構動いてるなーと思った矢先に、バキッ! と嫌な音を立てて円盤に大きなヒビが入った。


「「……」」


 これは、ミスリルによって魔力伝達が高まったせいと考えていいのかな? って言うか、鉄板で作った時にはこうならなかったんだからそれ以外考えられないか。


「じゃ。俺は帰るね」


 仕事をした以上、ここに留まる理由はない。実験結果もある程度良かったし、後は使っていきながらバージョンアップを重ねていくしかない。さっさと帰ってまずは家中に魔道具を――


「待ちぃや! 壊れたんやから修理しぃや!」


 と言われた。はて? なんでそんな事をしなくちゃいけないんだろうか。

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