第221話

「うん……確かに金貨7枚受け取った」

「ほんならこれ、調査の結果報告や」


 交渉が成立し、金貨と羊皮紙を受け取る。ララからじゃなくて親方からだけどね。

 もちろん親方の表情を良くない。何せ冷房1つに金貨7枚なんて大金を支払ったんだ。生活費の何割を吐き出したのか知らないけど、しばらくはひもじい食生活を送る事になるだろう。

 さて……そんな事より報告書だよ。

 ふむふむなるなる……どうやら粉末の割合は0.5%くらいが一番長持ちするっぽいけど、それでもやっぱり長時間使うと駄目になっちゃうか。

 今の所、数時間稼働させて数十分休憩を挟むと劣化がかなり抑えられるらしいとの事だが、それを知るために魔法陣が駄目になったらしいけどこれはいい情報だな。これで長持ちするんなら、魔法陣を数枚搭載して数時間おきに切り替えれば相当長持ちしそうだ。

 問題があるとすれば、どうやって切り替えるかだな。

 さすがに何台も魔道具を置くのは邪魔になるけど、そういう機能を盛り込みたくてもその知識は無いからどうしようもない。ううむ……解決法が分かったのにそこに至る道が無いとはな。残念で仕方ない。


「ちなみに壊れたのってどうしたの?」

「一応保管しとるで? オトンは武具に使いたがっとったけどな」

「ふーん……」


 別にそうしてもらってもよかったんだけど、どんな反応するかなーと少し責めるような目を向けてみるも、相変わらずの強面ぶりは微塵も怯んだ様子がない。


「当然じゃろうが。どうせ捨てるじゃろう龍素材を使ぅて何が悪い」

「確かにね。でも劣化した金属なんて使って平気なの?」


 勝手なイメージだけど、屑鉄で作った物って品質が良くないっぽい気がする。いくら龍の成分が入ってたとしても、元が良くなければそれは粗悪品と何ら変わんないんんじゃないかなー?


「フン。心配せんでも鋳溶かしてしもうたら関係ないんじゃ」

「へー。そうなんだー」

「で? 使ぅてええんか?」

「1回確認してからだねー」


 処分するにしても、どの割合でどの程度劣化するのかを見ておく必要がある……のかな? 正直、確認したところで知識皆無だからなんも分かんない気がするぞ。


「ほんなら持って来るわー」


 やっぱりいいやー。という間もなくララが隣の部屋に消えていった。

 そうして残った俺と親方は、何をするでもなくソファに腰かける。


「あれ? 鍛冶に戻らないの?」

「当然じゃろうが。ララと2人きりにさせる訳ねぇじゃろが」

「相変わらずの親バカぶりだね。そんなに警戒しなくても、そう言うのには興味ないから心配しなくてもいいって」


 結婚を悪く言うつもりはないけど、ぐーたらライフを至上命題として生涯を終える予定の俺からすれば、色恋や結婚なんかしたら邪魔されるのはもはや必然。であれば関わり合いにならないのはもはや運命!

 まぁ、成人する頃には興味が出て来るかもしんないけど、そうなった時には娼館を利用すればいいだろ。


「オドレ……ララが可愛くない言うんか!」

「うっざ……」


 どっちにしたって絡まれる。本当に面倒臭いなーと本音を隠しもせずに吐き出しながら工房の外に目を向けると、なんかビックリしたような顔をしてる大人の女性——獣耳があるから獣人だろう人が居た。

 背がめっちゃ高いなー。それにすらっとしててしなやか? って言うのかな。後、メッチャ薄着だ。かろうじて胸当てがあるから冒険者なんだろうと判断できるけど、それが無かったらその辺を歩いてるモデルみたいにしか見えないな。

 それでも、ここに居るって事は親方に認められた実力者って事になる訳で、見た感じ20代っぽく見えるくらい若いのに、実はすごい獣人なのかな?


「ん? なんじゃお前か。何しに来たんじゃ」

「砥ぎ」


 言葉身近に呟くと、腰に佩いた剣を投げ渡し。受け取った親方が少し抜いた。


「すっげ……」


 めっちゃ綺麗な剣だなー。薄い緑色でなんか紋章っぽいのが刀身に刻んであるけどそれ以外は武骨な感じだ。余計な装飾など邪魔以外の何物でもない――まさに親方が作りましたと言わんばかりの飾り気のなさだ。


「親方が作ったの?」

「当然じゃろ。どうして儂が他人の打ったモンの手入れをするんじゃ。しかし刃こぼれが酷い。何を斬った」

「鋼のゴーレム」

「またとんでもないモンを……」


 困ったように頭を掻く親方に対し、凄腕獣人は心なしかどうだ! と言わんばかりの表情をしてるように見える――気がする。無表情すぎてよく分からんけど、なんかこっちをじーっと見てくるのはちょっとうざい。


「まぁええ。これだけ酷いと数日はかかるのぉ」

「そう。任せる」


 仕事が入った以上、いつまでもここに居る訳にはいかない親方は、なーんかこっちをギロリと睨みつけながら工房があるだろうカウンター奥の扉に消えていった。

 そうして残った凄腕獣人と俺だけど、何故かこいつは座りもせず店中をグルグル見渡し、ある一点——冷房魔道具が置かれてる場所を見つけるとゆっくりと歩み寄り、ふにゃりと表情を緩ませた。


「涼しい。最高」


 そう呟くとその場に腰を下ろし、丸くなって1分もしないうちにすーすーと寝息が聞こえて来た。マジ? この短時間で眠っちゃったんですけど?


「リック持って来たで――って、なんやコレ?」


 まぁ当然そうなるよな。冷房魔道具自体結構目立つ位置に置いてあり、その真ん前で丸くなって寝てる大柄獣人が居るとなれば気付かない方がどうかしてる。


「ん? 武器の研ぎ直しに来た獣人」

「ちゅうとレオ姉か……ちょいレオ姉。こないなとこで何してんねん」

「ここ涼しい。研ぎ、時間かかる。ここ。寝泊まりする」


 説明終わり。と言わんばかりにまた眠り始めた。随分とフリーダムだなー。

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