第220話
門番ドワーフの所を抜け、坑道を天井すれすれを寝転がりながら進んでると、なんか声を掛けられたような気がするけど、どうせ挨拶だろう。そんな事よりクーラーの方が大事なんで、「あー」とか「おー」とか適当な声を出してササっと駆け抜ける。
「うーわ。本当にめっちゃ集まってんじゃん」
上空から親方の工房辺りを眺めると、ざっと見て十数人のドワーフが転がってたり酒盛り? っぽいのをしてたり雑談に興じてたりと、ものの見事にぐーたらを満喫してるじゃないか。
……なんだろう。ぐーたらの同門が増える事はぐーたら神にとってもいい事だと思うんだけど、俺は重労働をしているのにって怒りの気持ちがむくむくと沸き上がって来るな。
スッキリしたいけど、ここは地下深い場所。あんま派手に暴れると地盤沈下から集落壊滅なんて事になりかねないから、精神的に嫌がらせを――って事でパッと思いついたのは、黒板爪立て音。
「——————」
早速魔法で眼下に居るドワーフ連中に嫌な音を爆音でかき鳴らしてみると、一斉に耳を押さえてもがき苦しみ始めたけど、ごく少数は多少嫌な顔をしてるけどそこまでじゃないドワーフも居た。
……ふぅ。スッキリした。あまりやりすぎるとぐーたら道を止めちゃうかもしれないからほどほどほどにして工房の前に降下。
「おいっすー。上でドワーフが沢山ぐーたらしてるって聞いたけど、苦しそうにするなんてまだまだ修行が足りない証拠だねー」
「うぐぐ……今の音、自分がやったんやろ!」
「ちょっと何言ってるか分かんないね。そんな事より門番ドワーフがいい加減上に戻って来いって言ってたぞー?」
これでちゃんと仕事は果たしたんで、こいつ等が戻ろうが戻らなかろうが俺の責任にはならなくなったから、文句を言われた所で謝罪したりするつもりはない。
「こんちはー。親方居るー?」
「おーリックやんー。やっと来たんやなー」
工房に入るや否や、ソファに寝転がってぐーたらしてるララと遭遇。気怠そうに手を振って挨拶を返してくれてるけど、ここ数年見て来た姿とは似ても似つかないな。
その原因は間違いなく冷房魔道具のせいだろうね。俺は常に適温になるよう魔法で調整してるから分かんないけど、絶賛耐久実験中のこの工房内に限っては、ウチの熱期ほどじゃないけど十分暑すぎるこの集落で、唯一快適に過ごせる空間と言っても過言じゃないだろう。
まぁ、だからと言ってもちょっとだらけ過ぎだと思うけどね。まさかここまでぐーたら道への門を叩くドワーフが多いとは思いもしなかったけど、これはこれで商売が成り立ちそうなのがありがたい。
「やー色々あってね。そんで? 魔道具の結果はどんな感じ?」
「んあー。ちょいと待っててやー」
のそり……って体を起こしたララが隣の部屋へと消えていってしばし。ドスンドスンと重い足音が近づいて来る。
ララが居なくなった扉とは別の扉から、おおよそドワーフとは思えないほどの巨体を持つこの集落の領主的存在の親方ががゆっくりと現れる。相変わらず子供がギャン泣きしそうなほど怖い顔だねー。
「やぁ親方。腕落ちてないよね?」
「誰に物言うとんじゃボケ。よぉやっと来おったのぉ。オドレ、今まで何しとったんじゃ。置いてった魔道具のせいで何人かおかしなってもうたじゃろうが」
「んー? ちょっと色々あってねー。それとおかしくなったって何?」
なんだろう……全く持って身に覚えがない。魔道具と言えば冷房魔道具くらいだけど、あれはおかしくなったというより快適な住環境を手に入れたおかげで本来の姿を取り戻したと表現するのが正しい。
「外の連中じゃ。どないしてくれるんじゃ?」
「実験が終わったらすぐ居なくなるよ」
冷房魔道具は村の為にあるからな。ここに有るのはあくまで1番長持ちする金属と龍の鱗の粉末の配合の調査のしてるからであって、それが終われば当然回収させてもらう予定だから、あっという間にもとの閑散とした工房に戻るハズだ。
「なんやて! この快適空間が無くなってしまうんか!」
俺の端的な返答に過敏に反応したのは、羊皮紙の束を手に戻って来たララだ。
「そだよ」
「せやったら売ってくれへん? ウチ、もうこの魔道具が無いと生きて行かれへん」
「大げさだなぁ。今まで大丈夫だったんだから平気でしょ」
「おいララ。そいつと――」
「オトンは黙っとって!」
必死だねぇ。親方はあまり冷房を好まないのか、ここに来た時も普通に強面フェイスのままだった。まぁ、あれがほぐれてたりしたらそれはそれでめっちゃ怖いな。
「リック聞いとるんか!」
「聞いてなかったけど?」
「ちゃんと聞いといてや! せやから、売ってくれへんって」
「売る、かぁ……」
さすがにルッツに売る気はない。砂糖の権利を売って速攻で問題が起きた以上、そんな事は今後一切起きないと思うけど、ここであれば別にいいかな? まぁ、色々と面倒が起こらないように取り決めを作りはするけど、今の所否はない。
「ええやろ?」
「別にいいけど、いくらで買うつもりなの?」
正直、全部タダで手に入れたモンだからいくらでも構わないんだけど、氷の魔道具が目ン玉が飛び出るほど高いってのは今回の事で十分に思い知った。
それを、ララも知ってるかどうかは知んないけど、魔法陣の精緻さとか効力の絶大さとかを実験の間で十分すぎるほど理解しただろうから、そうそう安値はつけないだろうけど、とんでもない高値だと自分が買えなくなる。どうするのかね。
「……金貨7枚が出せる限度や」
「じゃあそれでいいよ」
随分と安値だけど、これで商売をするつもりはないから問題ない。
それにここにはいつも世話になってるからね。所謂お得意様価格って奴だな。
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