第219話
「ごちそうさまでしたー」
「はーい。お片付けお願いねー」
精神的にボッコボコにされたアリアが静かだったこともあって、昼食は非常に静かに始まり。静かに終わりを告げた。まぁ、エレナは説教を終えたんで食事中重苦しい空気になる事はなかったけど、ピンと張りつめてたのは確かだ。
「ちょっと外でぐーたらしてくるねー」
「ちゃん晩御飯までには帰って来るのよー」
「分かってまーす」
そこから逃げるように食べ終わった食器を片付けて家を出る。目的地はいつもの洞窟。最近8人も村人が増えたんでいつもよりシッカリ探査魔法で人が近くに居ない事を確認してから転移。
こっちでも人の気配がないかを魔法で確認してから転移で外へ。
「相変わらずうるせー場所だよなー」
文句を言ったところで、ドワーフはそれで生計立ててるんだから、うるさくてイライラするから今すぐ止めろなんて無理は言えんわな。俺もここでルッツに卸す調理器具を作ってもらってんだし。
「よい……しょっと」
もはや体の一部と言っても過言じゃない土板に乗っかって、そのまま大通りに向かって進み始めると、金属を打つ音に混じって人の声が混じり始め、それがどんどん大きくなる。
相変わらず騒がしい所だよなー。王都も王都で騒がしくて嫌になる所だけど、ここもここで入り口に近い辺りは騒がしくて好きじゃないんで、そこから少し離れた通りをスイスイ進んで地下へと続く門の前までやって来る。
今回はドワーフの姿以外見かけない。まぁ、ここは本来貴重なミスリル鉱山なんだから関係者以外立ち入り禁止だからね。転生姫みたいに常識が欠如してる人が来ちゃいけないんだよ。
俺? 俺はこの鉱山を作るきっかけになった最重要関係者なんだから入っちゃいけない道理はないでしょ。
「うん? なんや坊主やないか。最近よぉ見かけるけどどないしたん?」
「不本意なんだけどね。そんな事より親方はいるよね?」
「当然やん。今日も坊主の為に槌振るっとるわ」
周囲のドワーフに認識されてるほどちゃんと仕事はしてるっぽいね。感心——はしないか。ちゃんと十分な報酬を払ってるんだ。むしろそれが当然だろう。
「じゃあ通してもらっていいよね」
「それやったらそこに居る連中に戻って来いって言っといてくれへん?」
「まぁ、そのくらいであれば別にいいけど……なんかあったの?」
俺に頼み事なんて……と思ったけど、別に声をかけるくらいならぐーたらにはあんまり影響はなさそうとはいえ何で声掛け? とは思う。
「……今の親方の家の周りは危険地帯なんや」
「ナニソレ。ドラゴンとか出たの?」
「それも危険やけど、ある意味比べ物にならへんくらい危険なんや」
この世界でドラゴンより危険ってなんだ? 噴火だの地震だのが起きてたら既にここは地獄絵図になってるはずだし、こいつからマイナスな感情を感じられないから一般的な危険じゃないっぽいな。
「なに? ララに恋人でも出来た?」
「そんなん居たら今頃この集落は無くなっとるて」
「かもねー」
確かに。そんな事が分かったらあの親方の事だ。そいつが見つかるまで仕事は当然ストップになるだろうし、彼氏に選ばれた男は間違いなく死ぬだろうねー。精霊使いとか言う本当かどうかも分かんない力が使えるからね。
「ま。ホンマは過ごしやすぅなっとるからやね」
「過ごしやすい?」
「せや。ここ最近、親方の家の周りが涼しくてな。用もあれへんくせに入り浸っとる連中が多いんや」
「あー。それの原因はきっと俺だわ」
そういえばララも冷房に対して幸せそうな顔をしてたし、親方が前に立つとどけろって言ってたって事は、テンプレとしてドワーフが種族的に暑さに強いらしいって言っても限度はあるんだろうね。
そんな生活に、突如として現れた快適な気温で仕事が出来るという環境はきっと初めてなんだろう。氷の魔道具自体とてつもなくレアだから仕方ないっちゃ仕方ないけど、やはりこれには抗えないようだ。
「なんや坊主の仕業かい。まぁ、ここで起こる変な事は、大抵坊主が関わっとるからそんな事や思ぅとったわ」
「なんだよ変な事って」
「事実やろ? 親方が調理器具なんて作り始めたり。帝国の姫がドワーフ引き連れて船っちゅうモン作ったり。挙句の果てにはミスリル鉱山やろ? 坊主のおかげでこの里は毎日大賑わいで困っとるんや」
どうやらこの里に来るとミスリル製の武具が購入できるという噂は少しづつ広まっているらしく、毎日毎日とんでもない数の冒険者だの商隊なんかがやって来るんだとか。
「いい事じゃん。あと船は俺関係ないけど?」
俺自身はぐーたら出来なくなるから人が多いってのはまったく好きになれないけれど、客商売で生計を立ててる側としては願ったり叶ったりでしょうから、これは所謂嬉しい悲鳴ってやつだね。
と思ってそう返答したんだけど、このドワーフの表情を見るに少し違うっぽい。
興味が湧いたんで話を聞いてみると、ミスリルが手に入れば単純に強くなると勘違いしてる馬鹿な客が噂が広がるとともに多くなってきたらしく、ドワーフ製の武具を扱うに足らない雑魚冒険者の一部の馬鹿が店先で暴れたりするらしい。
「アホが多くて困るわ」
「でも対処できるでしょ。精霊だっけ? それ使えば大丈夫なんじゃない?」
親方が火の精霊と契約してるってのは知ってる。なんか結構強いっぽいけど、俺は強さより万能性を重視してる。ぐーたらするにはその方が都合がいいし、月に1回ペースであのクソ樹の枝をくれてやらにゃならんというのは非常に手間だから欠片も興味はない。
「まぁそうなんやけど、使える連中は総じて腕がええねん。鍛冶も喧嘩もな」
「ふーん……。とりあえず、親方に被害が行くようだったら教えてね。そんじゃ」
俺のぐーたらの邪魔をするんであれば、誰であろうと滅ぼすのみだけど、今の所こっちに被害がなさそうだからほっとこう。
そんな事よりクーラーだよクーラー。
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