第218話
「さて……ぐーたらするか」
鉄級2人を地獄送りにした俺は、家に戻ってきてすぐに庭のハンモックに全身を委ねてぼけーっと空を見上げる。
いくらぐーたらのためとは言っても、最近マジで働きすぎだよなー。このままだと成人を迎える前に過労死しちゃうんじゃなかろうか。そうなったらどうにかしてあのクソ神の所に行ってフルボッコにしてやりたい。
しかし……本当にこの土地はちょっとおかしいよなー。年のほとんどが熱期と冷期の2つだけだし、土にどれだけ栄養を注ぎ込んでもあっという間に減っちゃうから頻繁に魔法を使うためにあっちこっち移動しなくちゃなんない。
このままだと、腐葉土を混ぜ込んだところで似たように栄養がすぐ無くなっちゃうんじゃないかな? って事なら何かしらの解決策が必要になる訳だけど、どうしたらいいんだろうな。
……真っ先に思い浮かぶのは、栄養が分散しないように村と畑全体を鉢植えみたいにする事だけど、これには滅茶苦茶労力がいるし、失敗でもしたらかけた労力が全部無駄っだってショックから立ち直るのにとんでもない時間を費やすし、それをこうして妄想するだけでぐーたら力が減ってく気がする。
なにより。ヴォルフとエレナがそんな許可を出してくれるとは考えにくいかな?
「実験……するか?」
範囲が小さけりゃ労力もさほどかからないし、成功すると分かればヴォルフやエレナも許可を出してくれるんじゃないか?
「……でも、動くの面倒臭い」
とりあえず今は考えるだけにしておこう。働き過ぎはぐーたらの大敵だからな。腐葉土が来るまで1か月近くかかるんだ。それまでにでも試しておけば何とかなるだろう。
「……1か月?」
あれ? ちゃんとした腐葉土を頼んだのが今回で、王都の店に連絡が行くのに半月。そこからあれと同じ物を集めるのに……どのくらいかかるんだ? さすがに1年とかはかからないとは思うけど、数か月は待つ事を覚悟しないと駄目なんじゃなかろうか。
別に待てない訳じゃないけど、長いなーとは思う。さっさと解決させるんであれば、俺がルッツか副会頭に取ってきた場所を聞いて買って来る事は出来るけど、流石に切羽詰まってる訳じゃない以上は、他人に任せたいのがぐーたら道。
「まぁ、気が向いたらでいいか」
腐葉土が遅れるんであればその分、実験に取れる時間が増えたとポジティブに考えよう。どっかの誰かに問題の先送りだろと言われてるような気がしないでもないけど、それが俺という人間でありぐーたら道の精神なんで直すつもりはない。
「リックちゃーん。そろそろお昼ご飯の時間よー」
「ふえーい」
どうやらボケーっと考えてる間に随分と時間が経てたみたいで、気が付いたらもうお昼ご飯を作る時間になってたらしい。
「今日のお昼は何にするの?」
「そうねー。何かリックちゃんのお任せをお願いできるかしらー」
「お任せねぇ……」
今ある材料で出来る新しい料理ねー。
麦・ウルフ肉・乾燥野菜。正直この3つですいとんとかケバブもどきとか作れただけでも大分すごいと思う。ここからさらに新しい料理ってなるとさすがにシンドイかな。料理人じゃなくてブラック勤めのおっさんだからね。
「新しい料理は無理かなー」
「あらそうなのー。でも、あまり食材が無いのだから仕方ないわねー」
「だねー。贅沢は言ってらんないし」
ここは日々生きる事すら贅沢じゃね? ってくらい酷い土地だからね。こうして3食作れるだけでも十分すぎるのに、キノコ共のおかげで最近は新鮮なウルフ肉が食卓に加わってより豪勢で栄養が豊富になった。
ここに、数か月後には新鮮野菜が食卓に並ぶようになる予定。うん。少しづつぐーたらライフに向けて進んでるって実感するなー。
未来の食糧事情にほほを緩ませながらすいとんを作る。
「こんなモンかな」
「それじゃあアリアちゃんを連れて来てちょうだいねー」
「……グレッグが教えてくれるでしょ」
庭が静かって事は、アリアはグレッグの所の訓練に参加してるという確かな証拠な訳で、そこまで土板に乗って移動すればあっという間な訳だけど、エレナがどんな人間かを知ってるんであれば、飯の時間に遅れるって事がどんな意味を持ってるのかも分かってると思う。
だから、別にわざわざ迎えに行かなくても適当な時間になればグレッグが訓練を切り上げてくれるし、ごねたりしたら母親が怖いぞ? という脅しもセットでついて来るだろう。
この辺り、熱中すると時間を忘れるヴォルフだと無理だから、呼びに行く事に否はない。
「お母さんもそう思ってるんだけどー、いつもならもう帰ってきてもいいはずなのに帰ってこないのよー」
「そういえばそうだね」
なんて命知らずなんだろう。そう言う危機管理能力が無いから未だに脳筋というレッテルが消えないんだとどうして考えられないのかね。と内心で馬鹿にしてると突如として後頭部をぶん殴られた。
「あらーアリアちゃんお帰りなさーい」
「ただいま母さん。今日のお昼は何?」
「リックちゃんが作ったスープよー」
「ふーん」
そうして繰り広げられる俺を無視したやり取り。ヴォルフの時もそうだったけど、家族は俺がぶん殴られたのに叱らないんだよね。普通暴力沙汰があったら親として叱るべきだと思う。
「ちょっと母さん。姉さんに言う事あるんじゃない?」
「そうねー。駄目よアリアちゃんー。いきなりリックちゃんを叩いたりしたらー」
「はーい。ごめんなさーい」
うーん。いつもの怒りと違って迫力がないねー。アリアの方も生返事だし。
こんなんで教育にいいのかなーとか考えてると、急に空気が重くなったと感じてエレナに目を向けると、ニコニコ笑顔の圧がなんでか急に強くなったんでなんで? と思った次の瞬間にはアリアの目の前に。
「アリアちゃーん。どうしてそんな恰好でここに入って来たのかしらー?」
「あ……」
いつもであれば俺が全身洗濯機で洗ってるからなんも言われないけど、今のアリアは訓練帰り。しかもグレッグの方だから土埃もすごい事になってる状態でキッチンに入って来たらそりゃあキレるか。
「すこーしお話ししましょうねー」
うん……ぶん殴られた事を大して怒らなかった分シッカリ怒られてくれた事で俺の溜飲は大きく下がった。余は大変満足じゃ。
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