第217話

「おーいグレッグー」


 土板で上空から兵錬場に顔を出すと、一通り村での仕事を挟んだからか随分と地面がボコボコになった状態で、村人達が大の字になってそこら辺に散らばってるというもはや見慣れた光景の中にグレッグ1人が立ってる。


「おぉ少年ですか。その2人を連れて来てくれたという事は、どうやらエレナから話を聞いているようですね」

「そうだけど、前のやり取りを見てる立場としては母さんに相談するって大分変だなーとは思ったけどね」


 5年生きてて、エレナとグレッグの絡みを見たのって何気にあの時が初めてだからな。特別ショッキングって訳でもないけど、マジで? っては思うよね。

 だってここには、サミィだったりヴォルフだったりアリアだったり他の村人だったり直接問うてもいいのに、エレナに聞くってのは不思議な感じだ。


「……まぁ、そう見えてしまうのは仕方ありませんが、普通に接する程度であれば特に嫌悪感は無いですのでお気になさらずともよいですよ。エレナに問うたのは屋敷への道中でたまたま出会ったからですしね」

「母さんって外に出るっけ?」

「近頃は頻度が増えましたね」

「ふーん……なるほどね」


 最近増えた……きっとダイエット目的だろうね。


「とりあえずこの2人は訓練に1回試しで参加したいってさ」

「試しに1度ですか……」


 反応は芳しくないね。駄目なら駄目でも別にいいんだけどね。俺はあくまで豊かな食生活の為に購入したんであって、いつ起きるかも分からないうえにヴォルフとグレッグが居れば大丈夫だろと思える戦争の為の駒に仕立て上げるためじゃないからな。


「嫌ならいいよ」

「いえ。1度でも参加してくれるのなら奴等の手本となるのは難しくとも、実力の差というものくらいは理解するでしょう」

「……単純な疑問なんだけど、村人と鉄級冒険者ってどんだけ違うの?」


 正直、奴隷になるような冒険者の実力なんて低く見るのは当然だと思うし、低級冒険者ってのはテンプレだと薬草採取的な依頼しか受けられない新人ってイメージしかない。


「そうですね……本人の実力にもよりますが、少なくともそこに転がってる連中よりはマシだと信じたいのですが……」


 ちらっと眼を向ける先では、たった数分の飛行でぐったりしてる姿を見て明らかにがっかりしてるけど、こういう姿が俺のイメージする鉄級冒険者って感じる。


「これでも?」

「そのはずなのですがね。とりあえず参加させてみてからですね」

「じゃあその辺はグレッグに任せるけど、ここに来て日が浅いんだから無茶はさせないでね」

「何を言っているんですか少年。ワタシは一度として無茶をした覚えなどありませんよ? これでも大分加減しているのですから」


 死屍累々が手加減……ねぇ。あんまり信用できないセリフだけど、じゃあ本気の訓練をやって見せましょうか? なんて言われて実行に移されると迷惑を被るのはこっちなんでこれ以上の追及は止めよう。


「そうなんだ。とりあえず逃げ出さない程度に頼むよ?」

「分かっておりますとも。ではそこの2人をお借りしますよ」


 言うと同時くらいに手にしてた槍を振り上げ、思い切りかどうかは知らんけど結構な勢いで2人に向かって叩きつけた。

 おかしいな。確か加減をしてるって聞いてたんだけど、派手に土煙が舞い上がって普通に吹っ飛ばされたんですけど? 無傷とは言え、こちとら魔法以外はどこにでもいる5歳児なんだけどな。

 さて件の鉄級冒険者はというと、片方は爆心地から1メートルくらい離れた場所で尻を突き出したような状態で地面に倒れてて、もう1人の方は大の字にうつぶせでぶっ倒れてるけど、一応どっちにも傷らしい傷は見当たらない。


「ねぇグレッグ。加減するって言ったよね?」

「勿論加減しておりますとも。でなければ、武器が耐え切れずに壊れてしまいますし、なによりその無能共に回避させる猶予など与えませんとも」


 まぁ、グレッグもヴォルフ達と一緒に戦争を生き抜いてきた猛者だからな。そのくらい出来なきゃおかしいか。


「まぁそれはいいや。でもこういうのって俺が離れてからやってくんない?」


 魔法で結界を張ってるんで、フェルトや始祖龍レベルの一撃でなければ難なく防げるくらいには頑丈とはいえ、土埃で汚れたまま帰るとエレナにちょっと怒られるから全身を水洗いするってひと手間必要になる。


「これは失敬。まぁ、少年であれば魔法で何とかするだろうと思っていましたので」

「だからってなんでもやっていい訳じゃないから」

「次は気を付けるとしましょう。貴様らもいつまで寝ているつもりだ! さっさと立たなければ戦場では命とりだぞ!」


 なんて怒鳴りながら、槍で地面に大きいクレーターを何個も作りながら腕っぷし自慢の村人連中を強制的に立たせては外周の為だろう。村の外へと走らせる。


「まだ朝が始まったばかりなのに厳しいねぇ」

「いつ何が起こるか分かりませんからね。突然ウルフ討伐が出来る環境になるとか」

「ウルフ肉も食えるようになったしね」


 そう考えると、多少は強くなってるのかな? 出来る事ならオーク肉とかも食ってみたいけど、そうなると面倒は面倒なんだよなーとか考えてると隣でジトっと責めるような目を向けて来るけど、俺には通じませんよ?


「まぁいいでしょう。1つ確認ですが、あの2人が自発的に訓練に参加する事まで止めるつもりはありませんよね?」

「その辺は個人の自由だけど、繁忙期には参加は見合わせてもらうよ」


 連中にはあくまで農家としての役割を求めてるんだ。だから、本業が忙しくなれば参加は強制的に取り消しにするけど、それ以外は好き勝手すればいいと思ってるが、こんな訓練に自ら進んで志願するとは考えにくい。

 だけど後日、普通に参加してる姿を見て冒険者ってのはマゾが多いのかな? と思ったのは言うまでもない。

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