第214話

「ただいまー」

「はーいお帰りなさいー。その子達が例の奴隷達かしらー?」

「そうだけど、なんで外に居るの?」


 途中の村での買い物をパパっと済ませ、ようやく家に戻って来たらエレナが普通に家の外に居た。いつもであれば扇風機と氷柱のおかげで比較的マシなはずの室内にいるはずなのに、なんでだろう。


「んー? お母さんが外に居たらおかしいかしらー?」

「だっていつもは家の中に居るじゃん」

「たまたま運動しようと思って外に出ただけよー」

「あーなるほど」


 そういえばダイエットしたいんだったか。今の所、砂糖の供給がゼロになってるから成功してるのかもしれないけど、再開されたらどうなるんだろうね。


「あらー? 確か農家を買うと言ってなかったかしらー?」

「ちょっと予定が変わってね。でもよくわかったね?」


 見た目は全員農家っぽい恰好でってリクエストして服を買ってもらったから分からないかなーと思ったけど、エレナは一目で違うと見抜いたのにはビックリだ。


「筋肉のつき方を見ればわかるわよー」

「へー。それって村人にもわかる?」

「大丈夫だと思うわよー。気付くのはある程度実力がある人だからー」


 ってなると、エレナの他にはヴォルフとグレッグくらいかな? 後はアリアも見抜けるかもだけど、村人にバレる可能性ってのは大丈夫かな。


「それでー。どうしてこの人選なのかしらー?」

「ちょっと色々あってね。仕方なく」

「あらそうなのー。それにしても……金貨2枚にしては随分多いわねー」

「お買い得だったんだー」


 それで通す。何せ本当は金貨10枚使ったからな。それがバレたら一体何を言われるか分かったもんじゃない。幸いにもそういった事に関するポーカーフェイスは自信があるんで、少し疑惑の目を向けられたけどすぐに奴隷達の方に意識が向いたようでひと安心。


「あらそうなのー。全員よろしくねー」


 ニコニコ笑顔で挨拶するエレナに対し、8人は汗をだらだら流してマジでしんどそうにそれぞれがぺこりと頭を下げる。

 察するに、想像以上に暑さがえげつないからだろう。暑さに強いと自信があった南方の元・奴隷もしんどそうにしてる。


「じゃあ村に家作るかなー」

「あらそうなのー? それじゃあ晩御飯までには戻って来るのよー」

「わーかってまーす」


 すでに夕暮れが近い時間だ。あんまりのんびり作るって余裕はないから、今日は寝泊まりするためだけ専用の殺風景な長屋っぽいのを作ろう。それなら1軒分の労力で済むし、夕飯までにも間に合うだろ。


「さぁ乗った乗った」

「うげ……も、もう乗りたくねぇよ!」

「村ってすぐそこなんだろ。だったら走って行く!」


 と言って男連中は本当に走って行ってしまった。こんなクソ暑い炎天下で、慣れてもない人間がそんな事をしたらすぐにへばるだろう一方で、女子側はスピードに対して恐怖心が薄いっぽくて俺が土板を作るのを普通に待ってた。


「じゃあ行くよー」


 女子4人を乗せて村に向かって飛び立つと、すぐにへばって歩くような速度で走ってる馬鹿4人を見つけたんで無魔法で捕獲してそのまま村の端の方まで。


「一応新参者だからな。この辺りでいいだろ」


 さて……とりあえず8人なんで、細長い家を土魔法でググっと建てて。次に中に入って大体均等になるように壁代わりの板を生やして。ベッドやテーブルを作れば最低限家としての体裁は整った。


「こんなんで大丈夫かな? 確認してみて」


 全員にそれぞれの部屋を軽く確認させてみると、例外なく信じらんないものを見たって感じの顔をしながら出て来た。そんなにおかしいかな?


「不満があるなら修正するけど?」

「そんなものは無いですよ。むしろ立派過ぎると思いますね」

「こりゃあ凄ぇ。1人にしちゃあ広すぎだろ」

「本当にいいんですかいリック様。こんな家貰って」

「まぁ、俺のために働いてくれるんだから最低限の用意くらいは普通でしょ」

「……最低限?」


 俺としての最低限は8人の最低限じゃないらしい。昔に村人の家を作った時はどうだったっけ? もう覚えてないけど、こんな感じじゃなかった気がするから、大げさだなーと思っておこう。


「まぁ、好きに使いなよ。次は畑に行くよー」


 さて、ここで土板を作る訳だけどそのサイズは8人が乗るには小さい。むしろ俺しか乗る事が出来ないんで女子連中は不思議そうに首をかしげていたけど当然理由はある。


「家から近い方がいいでしょ?」


 屋敷から家までは遠かったし、夕飯に間に合わなくなる事を考慮して土板に乗せて運んだけど、畑であれば別に家のすぐ隣でも問題ないでしょ? って事で、いちいち乗せるのも面倒なんで歩いてもらう。


「えーっと。じゃあこの辺りでいいよねー」


 選んだ場所は、いつも通り水気が感じられない枯れ果てた大地で、全員農家じゃない元・奴隷とは言え、ここでの農作業が不可能な事くらいは分かるみたいでさっきまでの明るい表情が一変した。


「農業をやるという話ですが、こんな場所で一体どうやって?」

「それ無理」

「あんま文句言える立場じゃねぇけどよぉ、これは……」

「大丈夫だって。大規模な麦畑を見ただろ? あれ全部、俺が魔法でやったんだよ」


 男連中はどうか知らんけど、女子連中は余裕で土板に乗って遠くに見える麦畑を見てるはずだからね。


「魔法ってあんな事もできるんですか」

「なら安心」

「じゃあ始めるぞー」


 どんくらいがいいのかなーと考えたけど、すぐに大は小を兼ねるって言葉を思い出して、少し大きいくらいの畑を造っておく。


「……大きすぎませんか?」

「これをおれ達8人でやれってのか?」

「辛そう」

「今日はおしまい」


 さて、今日のお仕事はおしまい。1日中動き回って非常にブラックな労働だった。数日は動きたくないなーとぼんやりと考えながら家に帰った。

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