第213話
「さて……早速だがお前等を開放する」
奴隷商を後にし、エンジン3兄弟とも別れ、奴隷達に荷車を引かせて王都の外をしばし移動して人のいない辺りでそう宣言すると全員がぽかんとした表情をしたけど、まぁ普通の反応だろうね。
だって。誰もガキに買われて1時間も経たずに解放されるなんて考えもしなかったんだろうけど、そんな中で1番に再起動したのは商人見習いの女。利に敏いのは商人としては優秀だと思う。
「あの……それは我々を自由にするという事でしょうか?」
「いんや違うよ。奴隷からは解放するけど、ウチで農作業してもらう事に変わりはないから。その為にわざわざ買ったんだから逃がす訳ないじゃん」
「ほなら開放する意味ありますん?」
「だな。奴隷から解放されてまで従う意味ってないと思うんすけどぉ?」
「奴隷じゃない方が人として暮らしやすいっしょ? って理由もあるけど、大半は俺の為だね」
俺と出会って1時間程度のこいつ等じゃ、人生の全てと表現しても差し支えないぐーたらライフについて懇切丁寧に説明したところでなんも理解出来ないだろうから、今は説明を省く。
ぐーたらライフも大事だけど、成人して1人暮らしをするまではエレナの機嫌を損ねない事が最優先だからな。ぐーたら神もそれには納得してくれてるからね。
「あ。ちなみにだけど――「爆破」」
奴隷から開放する前に軽く魔法を見せておく。別に戦力を期待しての人選じゃないから、この程度の魔法でも脅しとしては十分だろう。
「確かに奴隷から解放されれば俺の命令に従わなくてよくなるけど、逃げたりしない方がいいよ。まだ死にたくないでしょ?」
ちゃんと忠告してあげた俺はとても優しいんじゃないかな? あくまでイメージだけど、そうなった時には見せしめとして誰かしらの命を犠牲にするのがこの世界の常識だろうから。
そんな説明が聞いたのか。奴隷から開放しても暴れたり逃げたりって素振りはなかったんで、面倒臭い事をしなくて済んで一安心ですよ。
「本当に奴隷から解放したのかよ……」
「奴隷のまま連れてって面倒事になったらせっかくの労働力が無駄になるからね」
「確かに奴隷はあんまいい目を向けられねぇわな。オイラも町と王都で奴隷を見かけたけど扱いは酷いモンだったわなぁ」
「でしょ。ってな訳で村まで帰るからこれに乗って」
パパっと土板——安全を考慮して多少箱っぽくしたそれを魔法で作って見せると、全員が少しだけ嫌そうな顔をした。
「どしたのさ」
「えと……これは一体?」
「乗り物」
「しかし車輪もなければこれを引く馬も居ませんが?」
「魔法でやるから大丈夫。ほら。乗った乗った」
ちんたらしてると間に合わないんで、魔法で強引に引きずり込んでさっさと出発。
「ちょ――速」
「あぶねぇってぇ!」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
「たああああああすうううううううけえええええてえええええ!」
「うわー。凄い速いですねー」
「これだけ急ぐ理由ってあるんです?」
「ちょっと遠いし、夕飯までに帰らないと母さんに怒られるからね」
「あーなるほど……」
「納得」
うん。やっぱり男女によってスピードに対する反応は概ね同じっぽいね。
とりあえず。こうなった以上は後は村につくまでする事はなんもないんで、村についてからの身の振り方でも説明しておこうか。
「それでみんなの事なんだけど、一応元・奴隷だと知ってるのは俺の家族だけなんで、村人に事情を聞かれたら別の領地から逃げて来たとか言っておいて」
「適当ですねー。それで大丈夫なんですー?」
「大丈夫じゃない? ウチは王国内のどこよりも僻地だからあんま外の話が入ってこないからさ」
あんな場所に来るのは月1のルッツ達か姫ちゃんのぬいぐるみ作成でやって来る誰かさんくらいのモンで、そんな適当な嘘であったとしてもへーそうなんだー。大変だったなーで終わるんじゃないかな?
「僻地……って、いったいどんなところでしょうか?」
「1年のほとんどが熱期と冷期しかない場所」
「……それって人が暮らしていい場所なんです?」
「そこで俺は5年。父さん達はそれ以上生きてるから大丈夫」
まぁ、初心者には完全におススメ出来ない土地だけどな。それでも行くしかない。飛び降りて逃げようにも無傷で済むような高度を飛んでないし、そうなったところで俺の魔法から逃れる術はない。
「そんな場所で暮らしていけるのですか?」
「大丈夫。ちゃんと家は用意するし、食料も共有の倉庫があるからそこから持ってってくれればいいからさ」
「食べれるなら十分」
「生まれが南方なのでー暑さには多少耐性がありますー」
考えが甘いな。世間一般で言う暑いと村の暑いではレベルが違う。
俺は氷魔法とか火魔法で年中適温で暮らしてるから分からんけど、ハッキリ言って今着てる服じゃあ熱期は何とかなっても冷期は確実に凍死するのは投資した金が無駄になる事を意味してるから、ぐーたらの観点から見てもそれは避けたい。
「ねー。冷期用の服って持ってたりするー?」
「ありませんよー」
「これのみ」
「無一文なので、可能であるなら用意していただきたいです」
即座に反応したのはやっぱり女子連中。まぁ、男どもはギャーギャー叫んでるんで聞いてないだろうけど、やっぱ着替えが無いと困るだろうから最低限分だけでも買って帰るとするか。
「じゃあどっか適当な村で着替え買って帰ろうか」
「助かるわー」
「感謝」
「ありがとうございます」
さて、そうと決まればどっか適当な集落はないかなーと下を覗き込んでみると、すぐ近くに村かな? って集落があったんで、そこに降りていくつか服を買った。
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