第212話
「どうぞ。王都で人気のお菓子よ」
「はぁ……」
なんか知らんけど、俺は支配人に胸ぐらをつかまれたまま別室まで連行されて、紅茶とよくも知らんお菓子らしい茶色い四角の塊をとりあえず食ってみる。
……うん。そこそこ美味い。中にトロッとした何かが入っててニガ甘い――というより苦みが強いから砂糖焦がしただけっぽいな。これで人気とか王都の人間の舌は狂ってんのか?
「それで奴隷の件だけど、ちょっと事情があってあの子たちはどうしても売れないのよ。だから諦めてくれないかしら?」
「断るけど? 理由があったとしても、俺の知ったこっちゃないし」
理由ってのが多分エルフだって事なんだろう。
とはいえ、そんな事は俺には関係のない事だ。それに、売りたくないっていうんであれば最初から商品として並べなかったらよかったんだ。大方、農家に金貨10枚も払うような馬鹿なんて要る訳ねぇだろとか温い考えをしてるからこんな目に合うんだよ。
「どうしても?」
「どうしてもだねー」
「坊や、あの子達がエルフだって気付いてるでしょう?」
ふむ……そう言う素振りを見せたつもりはなかったんだけど、どういう訳か支配人は俺が気付いてる事に気付いてるらしい。そう言う類の魔道具なのかな? だとしたら……内容は鑑定? いや、この場合は察知って感じかな?
「だったらどうだって言うの?」
「何が目的かしら?」
「ん? 普通に農作業してもらうけど」
今回は農作業に向いてるだろうエルフを買った訳だけど、あれがエルフだろうがドワーフだろうが何だろうが、やってもらう事に変わりはない。その為に購入した以上は俺のぐーたらライフのためにだけ働いてもらわないと。
「坊や……エルフってとても気位の高い種族なの知ってるかしら? そんな連中に農作業させるって言うの?」
「だってそのために買ったんだし。それに、こっちを下に見てるって言っても奴隷なんだから従う以外に方法なんてないでしょ」
すでに俺の奴隷となってる以上、従わなければ痛い思いをするのはあっちだ。それで死なれるのは困るけど、流石に命は惜しいと思う訳よ。何せエルフの寿命は人間と比べてはるかに長いのがテンプレ。フェルトだって万年生きてるとか言ってたしね。
であれば、たかが100年程度奴隷だったとしても問題ないでしょ。そもそもすぐ開放する予定だし。
「別の奴隷を用意するのでは駄目かしら?」
「今すぐ用意出来るならいいよ」
別にエルフにこだわってる訳じゃない。ちゃんと農家として俺のぐーたらライフを支える一員であるなら誰だっていい。モチロンきちんと労働をする事が大前提なのでギャンブル中毒みたいなのはNGだがね。
「さすがにそれは難しいわね。数日待ってもらえないかしら?」
「無理。今日中に帰らないといけないからね」
「王都に住んでるんじゃないの?」
「兄さんを王都に送り届けた余暇の最中だからね」
なのでその提案は受け入れられないな。それに、既に金を払ってるから別の奴隷を用意された程度じゃ納得は出来んわね。20? エルフ4人をそんな安値で売ると思いますかー?
「困ったわね。それじゃあ用意できる奴隷4人で手を打たないかしら?」
「倍ならいいよ」
すぐに用意出来るなら文句は言わん。しかし。同数なのは看過できん。何せこっちの奴隷はエルフだ。並の奴隷程度じゃ価値が釣り合わないし、どうせなら数が多い方が農作業の手が増えて万々歳だ。
俺の提案に、支配人のこめかみにわずかに青筋が立つ。
さぁどう出る? ここで武力を行使するんであれば遠慮はしない。簡単石付きの腕輪を付けてるとはいえ、俺にとっては無いに等しい吸収量なんで、魔法を普通に使って店をぶっ壊す事も難しくない。
「……いいわ。それで手を打つわ」
「よし。交渉成立。じゃあ適当に選ぶから変更お願いねー」
「ちょっと待ちなさい! さすがに誰でもいいって訳じゃないわよ。こっちだって商売があるんだから」
「わーかってるって」
こっちだってそう言うのはお断りだ。世間一般的に奴隷に嫌悪感が無けりゃそう言うのを選んでもよかったんだが、説明が色々面倒臭そうになるんでやっすい奴隷で十分よ。その方が道中で拾ったと言っても信じてもらえそうだしな。
——————
「うん。こんな感じかな」
最終的に鉄級冒険者3人に商人見習い1人。鍛冶師見習い2人に薬師見習い1人に狩人1人って感じのラインナップになった。
正直、農家以外欲しくなかったんだけど、居るのは博打で奴隷になった連中しかいないんで、仕方なくこんな感じになった。一応農作業に従事するけどOK? と聞いたら全員ちゃんとOKといったんでこんなメンバーになった。
「それじゃああの4人は諦めてもらうわね」
「いいよ」
金は返してもらえなかったけど、8人の合計は10枚を超えてるんで良しとしよう。
最後にエルフ4人の所有権をまた奴隷商に戻して、今回の買い物は完了——
「あ。すっかり忘れてた」
「今度は何かしら?」
「奴隷ってどうやって開放すんの?」
これが出来ないと村まで持って帰れないからな。道中でしっかりと開放する必要がある。個人的には奴隷であろうがなかろうがぐーたらライフのために働いてくれれば何も問題はない。
「奴隷紋に触れて『解放』と言うだけよ」
「簡単すぎない?」
なんかうっかりやっちゃいそうなほど簡単な方法だし、逆に寝てる時に奴隷側からさせられそうで、世間一般的には不安になるんじゃないか?
「大丈夫よ。坊やから行動しないと解除できないようになってるから」
「ふーん……」
本当にそうだとしたら、寝込みを襲われるって事もなさそうで安心だね。
俺的はどうでもいいけど。
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