第211話

 見た目はめっちゃ大きいな。某ダンスゲームの足場くらいの大きさ2つ分くらいの面積に、大きめの魔法陣が2つと小さい魔法陣が無数にあって、それぞれの大きな魔法陣とを線で繋げてある。

 うーん……魔法陣の内容はさっぱりだけど、こんな魔法陣で本当に起動するんだろうか。そして起動するっていうんであれば、俺の魔法陣ライフは大きく前進するんじゃね? 何せダンジョン産だ。分解して線の繋がり方とかまだ見ぬ回路なんかがあるかもしれない。


「なぁ。これ解体してもいい?」

「金貨1億枚出せるのであれば構いませんよ」


 俺の提案に、まるでそう答える事が決まり切ってるんじゃないかって思えるスピードでの返答に、一応魔法陣だけ記憶しておくことにしよう。

 そもそも奴隷関連の魔道具とか買ったり作ったりしても、俺には使い道がなくとも領地って観点で見ると、犯罪者が出た時に奴隷としての労働力に変換できるから、一応覚えておいて損はない。まぁ、すぐに忘れそうだけど。


「……もうよろしいですかな?」

「……よし。大丈夫」


 一応全部覚えた。後は奴隷購入の一連の流れがパパっと終わる事を祈っておこう。


「では手始めにこちらをお読みください」


 渡されたのは羊皮紙数枚。中身を確認してみると、奴隷に関する説明書みたいなもんで、大体の事はネット小説で描かれてるのと大差がない。

 人権がちょびっとある。

 衣・食・住の世話は購入者——この場合俺の義務。

 奴隷には購入金額分の労働が済めば自由になる。

 等々テンプレオブテンプレの内容がつらつらと書かれていたんですぐに読み終わる。というかほとんど見る必要がない。


「読み終わり、了承が得られたのであれば代金のお支払いを」

「はいよー」


 言われるがまま金貨を支払う。


「……確かに金貨10枚受け取りました。続いて奴隷の所有権の変更を行いますので、こちらにお立ち下さい」

「あーその事なんだけどさ。ちょいと事情があって今すぐ開放してほしいんだけど」


 奴隷を連れて帰った。なんて事になれば村の人間がいい目で見ないってヴォルフとエレナが判断した以上、奴隷のまま連れて帰るのは不都合らしいからね。だったらさっさと奴隷から解放したほうが、余計な手間が無くなって面倒が減るだろう。


「それでしたら所有者変更後にお伝えする事になっておりますので」

「今すぐじゃ駄目なの?」

「今はまだ我々の奴隷ですので」


 つまり、勝手に開放させられて暴れられたり逃げられたりしたくないって事か。当然っちゃ当然なのが分かるんでここはいいておこう。


「では始めます」


 所有者変更に関しては1人づつしかできないらしく、いちいちエルフ側が乗って降りてをちんたら繰り返すうえに、変更するにしても妙に時間がかかってそれもさらにイライラさせられる。

 ここまで来ると役立たず魔道具って事で魔法陣を忘れちゃってもいいかなーと考えてると、扉近くに居た青年がゆっくりと扉の方に向き直った。


「どうしました?」

「支配人が来ます」

「支配人が?」


 青年がそう言って数秒後。扉を蹴飛ばして入って来たのは、随分と背の高い女だった。

 紫の髪に鈴が付いた簪っぽいのをいくつもつけてて、左目には魔力を感じる眼帯。随分と金がかかってそうな真紅でキラキラと光るドレスは俺の頭位あるんやないかってくらいデカい胸が半分以上露出してるし、スリットもメッチャ深いというか横が紐で繋がってるだけの何とも変態ないで立ちだな。

 そんな支配人らしい女は、ハイヒールっぽい靴をカツカツ鳴らしながら真っ直ぐ爺さんの元まで歩み寄ったかと思うと、胸ぐらをつかんだ。


「レンネル。これはいったいどういう事かしら? その奴隷達はまだ売る予定じゃないと申し付けたはずだけれど?」

「どういう事だと申されましても、購入者が現れた以上はお売りするのが決まりですので」

「購入者ですって?」


 そこで初めて俺を視界に入れた支配人は、今度は真っ直ぐ俺の方に向かって来る。なんか面倒臭そうな事に巻き込まれたかもとボケーっと考えてると、俺も普通に胸ぐらをつかまれた。一応客なんだがねー。


「悪いけどこの子達はまだ売れないから返しなさい」

「は? 嫌だけど?」


 値札があって商品として紹介された以上、目的にそってれば売り買いが成立するのが商売で、既に契約が済んだ以上はあの4人はすでに俺の奴隷だ。それを奪うって事はぐーたらライフを邪魔する不届き者になる。

 そんな奴の指示や願いを聞く価値などこの世に存在しない。だからノータイムで拒否したのは当然の行動なんだが、どうやら支配人は事われられると思ってなかったっぽいな。眉間にめっちゃしわ寄せて、凄ぇ睨んできてる。


「もう一度言うわ。大人しく奴隷を返しなさい。今なら金貨20枚で買い取ってあげるわよ」

「だから嫌だって。ってかたかが農家の一家になんでそこまで執着すんの?」


 普通に考えて、どこにでもいるような農家に金貨20枚を出すなんてもはや正気の沙汰じゃない。後ろに居る爺さんも青年も何言ってんだこいつ。正気か? みたいな顔をしてて、俺の問いかけにナイス! みたいな顔になったって事はあいつ等も聞きたいらしい。


「君には関係のない話よ」

「じゃあこの話は無しで」


 別に受ける必要なんてどこにもないなかな。金もあればあるだけ嬉しいが、今の所必要に迫られる案件はないし、亜空間に金貨90枚近く残ってるからね。今は金より農作業をしてくれる人手の方が何倍もぐーたらライフにとって有益。

 さて……諦めるかなーとボケーっとしてると眼帯の魔力が少し動いたなーとボケーっと考えてると、なんか急に笑みを深めたんですけど。


「……君もしかして、分かってて買ってるのかしら?」


 ふむ……どうやらあの目はなんかを調べる魔道具っぽいな。

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