第209話

「ほら。あいつ等がそうだよ」

「へー」


 ライオン女子に抱えられてやってきた牢の中には、じーっとこっちを見る農家の4人——の姿はどこにもなくて、代わりに耳の尖ったエルフが同じ数居た。

 この店に入った時からまぁまぁの魔力を感知してはいたけど、まさかその正体がエルフだったなんてね。

 つっても、あっちに魔力感知できるほどじゃない実力しか持ち合わせてないみたいで、ぼけーっと眺めてる俺を普通に睨んできてるのは別にどうでもいいんだけど、農家で奴隷であるはずなのにそう言う態度はどうなんだろう。

 ちょいとからかってみるか。


「ねぇ。あれ本当に農家なの?」

「あん? どっからどう見たってそうじゃないのさ」


 一応確認してみたけど、やっぱりライオン女子には農家に見えてるっぽい所を見ると、魔法で姿を変えてるのは確定でいいっぽいけど、何だって奴隷になってんだ?

 エルフであれば、世間一般では魔法に長けた種族って認識だから、冒険者でもやればこんな事をしなくても十分稼げるはずなのにどうして奴隷なんかになってんだか。


「でもなんか眼つき悪くない? なんかこっち睨んでるっぽく見えるんだけど、農家って普通あんな風になる?」

「んー? 確かにちょいと生意気が過ぎるかもねぇ」


 俺の発言をきっかけに、ライオン女子もさすがにおかしいと感じてるようで半眼でじろりとエルフたちに目を向けると、あっち側もマズいと感じたのかそっと視線を逸らした。


「それで? こいつ等を買うのかい?」

「どうすっかね……」


 エルフ4人を金貨10枚ってのは、恐らくだけど破格だと思う。俺の知ってるエルフ像から考えれば性格に難はあるけど、実力的に屈服させる事が出来るだろうし、フェルトや雑魚エルフに任せれば精神的にもべっこべこにする事もそう難しくないだろう。

 そうして従順になった後、野菜を育てさせればいい。エルフの使い方としてはこの上なく勿体ないだろうが、我がぐーたらライフという遠大な計画の前には始祖龍だろうが村人だろうが等しく労働力に変わりない。

 ふむ……であれば農家として買ってしまっても問題ないんじゃないかな。ヴォルフやエレナにこの4人がエルフだとバレた時は、そうだったんだ知らなかったわー(棒)とでも言っておけば十分だろ。


「うん。買うわ」

「聞いておいてなんだけど、そんな金あるのかい?」

「金貨10枚でしょ?」


 ポケットから取り出すふりをしながら亜空間から金貨10枚を取り出して見せつけると、ライオン女子は随分とデカいため息をついた。


「普通、金貨くらいの大金ならもう少し大切に持ち歩くもんだろ」

「まぁいいじゃん。それで? どうすればいいの」

「ちょいと待ってな。担当を呼んでくるから」


 そう言ってライオン女子は居なくなった。

 さて……これで残されたのは俺とエルフ4人。まぁ、奴隷も多少はいるけど騒ぐような輩はいない。ちょいと話でもして親交を深めるとしますかね。


「よぉ。なんだってエルフが人間に化けてんだ?」


 ドストレートに問いかけてみると、当たり前だけど何言ってんだこいつ? みたいな顔をしながらも、全員が示し合わせたかのようにお互いの顔を確認する。

 俺からすればずーっとエルフのままなんだけど、小さく頷き合ってる所を見るとちゃんと人間農家のままになってるんだろう。


「何を言ってるか全く理解できんな」

「そうね。どこをどう見て私達があのエルフだと言うのかしら?」

「うん? たかが農家がエルフを知ってるなんて随分とおかしな所に住んでんだな」


 一生を、狭い村という世界だけで完結させる可能性が高い農家が普通に暮らしてて、エルフをお目にかかれる機会なんてないに決まってるだろう。俺ですらフェルトと雑魚エルフくらいしか知らな――うん? 他にもいたっけか? 覚えてねーわ。

 とにかく。エルフが何なのかを知ってるって事は、それだけ怪しさが増すって事。事実、そんな簡単な揺さぶりに対して誰の目にも明らかなくらい動揺の色が濃く見える。

 まぁ、吟遊詩人の歌で聞いたとか。

 冒険者の話を小耳に挟んだとか。

 言い訳をしようと思えばいくつか思いつくと思うんだけどそこはエルフ。ナチュラルに多人種を見下して生きてるからそう言う情報なんざ入ってこないんだろう。フェルトもファーストコンタクトはマジで殺しに来てたからな。

 一体どうするんだろうとじーっと見てると、なんか大きくため息を吐いた。


「なぜ貴様のような下等人種の幼体如きに我等が崇高な魔法を看破出来た」

「秘密。そんな事よりなんで奴隷なんかになってんの?」

「貴様には関係のない事だ」

「いやいや関係あるって。これから俺がお前らの主人になるんだから」

「あら? 下等な人種如きに我々エルフを御せると思ってるのかしら?」


 まぁ、普通に考えたらそう思われて当然なんだろうけど、生憎と俺はその辺のエルフより魔法がちょいとばかし得意だからね。見下すような目を向けてくる親エルフの2人を魔法で地面に首まで埋めてみると驚きに目を見開いた。


「随分簡単に御せちゃったけど?」

「「「「……」」」」


 ふむ……大人しくなったって事は、御せると納得してもらったのかな。まぁ、屈服してなかろうと身動き一つできない状況ではどうしようもないだろう。


「どうする? 大人しくなるなら出してやってもいいけど」

「舐めるなよ下等な人種ごときが……っ」

「不意打ち出来た程度で調子に乗ってるようだから、少しお仕置きが必要のようね」


 まだやる気があるらしい。どうやら、エルフという種族はちょっとやそっとの実力差じゃあぽっきり折れる事は無いらしいようなので、牢の中に無数の火の玉を出し。360度の石壁を鋭利にしてギリギリまで近づけ。水で鼻と口を塞いだ辺りで娘エルフがギャン泣きし始めたんで止める事にした。

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