第199話

「で? 魔物ってどこに居るの?」

「学園の訓練で使ってる森があるんだ。そこに行こう」


 という訳で、ゲイツの道案内——というか指さす先に飛んで行くだけなんで、目的地にあっという間に到着したのはこの間の森だ。

 早速探索魔法を使って内部調査してみるけど……強そうな魔物が居る気配がないから金を稼ぐのは面倒臭そうだなー。


「じゃあ行こうか」


 訓練で使うだけあって道はそこそこ整備されてるけど、そう言った場所にはそう言った魔物しかいないっぽいからあえて道なき道を突き進む。土板に乗ってりゃ歩く手間も魔物を運ぶ手間もない。


「見つけた」


 第一魔物は緑色のウルフ。若干視認しにくいとはいえ魔物には魔石があるから、俺からすれば丸見えと何にも変わらないんで、誰かに取られる前に接近して風魔法で首ちょんぱ。


「魔法は凄いね。こんなにあっという間に終わるんだから」

「便利だよねー。それよりこれっていくらくらい?」

「え? 知らない」

「知らないの? 訓練で狩ってたりするんだよね?」

「いつもまとめて売ってるからね。詳しい額は知らないけど、大体どのくらいの量で銀貨1枚になるかどうかは知ってるつもりだからさ」


 とりあえず、1匹じゃあ銀貨にはまったく届かないらしいんで、引き続き探索魔法で魔力を探って森の中をウロウロしては魔物の首ちょんぱしては土板に乗っけていく。


「何体くらい必要なの?」

「そうだね……とりあえず15くらいかな?」

「うへーそんなに?」


 と言いつつもう1体首ちょんぱ。こういうのを後10体くらいやんないといけないのか……面倒臭いね。


「ちなみに、ゲイツ兄さんって1人でどのくらいの魔物を狩れるんだっけ?」

「一応オークまでなら大丈夫かな」

「じゃあもうちょい奥に行こうか」


 緑ウルフを狩るよりそう言う大物? を狩った方が労働時間と回数が減るんで選ばない訳がないでしょ。

 可能ならワイバーンとかドラゴンをサクッと狩りたいんだけど、ここでゲイツでも討伐出来ないような魔物を狩っても出所を疑われるだけだしね。それで余計な時間を使うより、こうしてちまちま魔物討伐をしてる方がまだマシだろう。


「お。発見~」


 魔力を頼りに適当に飛び回ってると、とうとうオークとご対面。

 といっても、こっちが一方的に発見して首を刎ねるだけの簡単なお仕事なんだけどねー。


「リック駄目だ!」

「んぅ?」


 ゲイツの慌てたような声に疑問に感じてももう遅い。言い終わる前にオークの首はすぽーんと吹っ飛んで、噴き出した大量の血が周りに居た冒険者っぽい連中に降りかかった。


「「「うぎゃー!」」」

「あーあ。よく確認しないから」

「いやー。まさか人が居るとはね。悪い事しちゃったなー」


 どうやら横殴りしちゃったみたいだな。魔力を感じなかったからてっきり誰も居ないもんだとばっかり思いこんでたせいでちょっと面倒な事になった。反省反省。


「とりあえず謝罪しないとね」

「だね。おーい。大丈夫ー」


 すいーっと近づいてみると、冒険者は男女2・2のパーティーで、全員が血だらけで酷い有様になってるね。


「ぺっぺっ! 大丈夫な訳ないだろう! 人の得物横取りしておいて謝罪もなしとかどういうつもりだ!」


 怒鳴って来たのはリーダーなんだろうね。眉間にしわを寄せて凄んでくるけど、エレナの圧に比べれば屁でもない。そんな事より血生臭いから近寄らんでほしい。


「ごめんごめん。人が居るとは思わなくて」

「うん? 君は……孤児院に居たガキか?」

「あら? そう言われれば似てるわね」

「リック知り合い?」

「うーん……多分?」


 王都に知ってる孤児院はあって、そこに冒険者が1組訪ねてきたのは覚えてるけど、それがこいつ等だったかどうかまではさっぱり覚えてない。


「何で覚えてないんだよ」

「あんま近づかないで。血生臭い」

「貴方のせいなのだけど?」

「ごめんごめん。じゃあ洗ってあげるから動かんでねー」


 いつもみたいに水魔法で全員を包んでやったら、急に全員が暴れ出したけど面倒なんでそのままじゃぶじゃぶと洗ってやってやる。多少痛いだろうが血が出るほどじゃないんで無視無視。


「はいおしまいー」

「げほっ! ごほっ! いきなり何すんだコラ!」

「なにって……血を洗い流してあげたんでしょ」

「全身痛いのだけど?」

「動くなって言ったじゃん」


 なんと文句の多い連中だ。こっちが好意で全身洗ってやったって言うのに、感謝じゃなく文句が先に出るなんて親の顔が見てみたいな。


「リック。普通はいきなりあんなことされたらああなるものだよ」

「そうなの? アリア姉さんは普通に大人しかったよ?」

「魔法使いの存在は貴重なんだから、日常的にあんな事する訳ないだろ」


 ああ。そういえばそうだった。魔法使いは1割くらいしか居ないから、こういう経験はした事が無いのか。であれば溺死させられるんじゃないかとか考えたんじゃないかと思われても仕方ないか。


「まぁ、綺麗になったからいいよね」

「いいわけないだろ。痛くてしばらく動けないじゃないか」

「休憩と割り切りなよ。お詫びにこのオークあげるしさ」

「……まぁ、それなら許してやらんでもないな」

「そうね。これだけの大物なら孤児院のみんなへのお土産としては悪くないわ」


 なんで上からなのか少し気になるけど、まぁそれで手打ちになるなら別にいいか。


「じゃあね」


 余計な時間を食ったよ全く。しかもゲイツによると、あのオーク1体だけでも銀貨1枚くらいの価値があったんだとか。


「オークの肉は美味しいし、どことは言わないけどある素材が貴族に重宝されててね。高値で売れるんだよ」


 あえて濁したけど、多分あの部分を精力剤として使うんだろう。これもテンプレですな。


 ————


「あー疲れた」

「動いてなかったよね?」

「魔法を使うのって疲れるの」


 冒険者連中と別れてどのくらいかね。何とかゲイツから銀貨1枚くらいになるだろうって量の魔物を狩り終え、ようやく王都の中に入って来たんで今は土板空中浮遊から荷車に代わってゲイツに引いてもらってる。


「それにしても、あの短時間であれだけの量を狩る事が出来るとは思わなかったよ」

「何言ってるんだいゲイツ兄さん。俺からすれば時間がかかりすぎなの」


 俺としては1体2体狩ってパパっと終わらせたかったんだけど、あまりに強すぎる魔物を狩るのは出所を疑われるかも? って考えた結果、面倒だけどこうして雑魚をちまちま狩る羽目に。

 なので、他の連中はどうか知らんけど、俺からすればこれは非効率極まりない訳で、ゲイツがもうちょい強かったらもっと大物を狙えたんだけどなー。


「まぁ、とりあえず王都に入れたんだからいいじゃないか」


 確かに王都に入れたけど、ここから奴隷商を探していかなくちゃいけないのかー。正直滅茶苦茶面倒臭い。


「ゲイツ兄さんまだ時間ある?」

「悪いけど学園での手続きがあるから手伝えないよ」


 ちい……っ。ってなると、志半ばでゲイツと別れて単独で奴隷商を探してまともな農業が出来る奴隷を探さなくちゃいけないのか。どうしよう……奴隷を買おうと心に決めていたのに気持ちが折れそうだ……。


「どうしようゲイツ兄さん。奴隷を諦めたくなってきた」

「早すぎない? まだ何もしてないよね」

「いやいや。ここまで移動してきたうえに魔物を狩るなんて労働に労働を重ねてるんだよ? 俺からすればこれは数日ぐーたらしても回復しきらないほどの事をやったんだよ」

「そう……なんだ」


 困ったな。このままだと本当に奴隷商に行かずに帰っちゃいそうだ。人も多くて嫌になるし、魔法が使えないから土板で浮いて移動する事もできないから本当にやる気が無くなって――


「おい。そこの坊主。ちょっといいか?」

「うん? なんでしょうか」


 どうやらゲイツが誰かに呼び止められたようだ。正直急いでんだから邪魔すんなよと、不機嫌全開の面で起き上がってみると、兵士っぽい奴がめっちゃビックリしたと言わんばかりの顔をしながら数歩後ずさった。


「なに?」

「い、いや。なんか死体を乗せて歩いてる坊主が居るって報告が上がってな。それっぽいのが居たから声かけたんだが……お前だったのかよ」

「リック知り合い?」

「いや知らない」


 妙に馴れ馴れしい兵士だなーとは思う。まぁ、それはその人個人の仕事の仕方なんで文句はないけど、なんか俺を知ってる風の言い方は気に入らないな。


「おいおい本気で言ってんのか? 王都の案内してやったじゃねーか」

「と言ってるけど?」

「ほら。侯爵の馬車ン時一緒に居た騎士だよ」

「……ああ」


 侯爵の馬車と聞いて、重い重い記憶の蓋からそんな奴がぼんやりとだけど出て来たけどはっきりとは覚えてない。


「反応薄っ! 結構世話したしされたぜ?」

「そうなの?」


 うーん。本当にぼんやりとしか覚えてないんだけど、あっち側は結構はっきり覚えてるっぽい。だったらまた王都案内でもしてもらおうか。丁度足になるやつが欲しいと思っていたところだ。

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