ぐーたらライフ。～これで貴族？ 話が違うので魔法で必死に開拓します～

第178話

「……気づいてたのかしら？」

「え？　そりゃそうですよ。舐めてもらっちゃ困りますよ？」

　実を言うと、魔道具を作り終わって勝負だなんだと言い始めた辺りから、あのお嬢魔法使いが持ってる杖に魔力を吸われてたんだよねー。

　多分その辺りが強気の理由だったんだろうとはいえ、簡単石が吸い取って来る量と比べりゃ――え？　今なにかしました？　ってくらい少ない。なのでどうでもいい事として無視してたんだが、俺の予想通りに何の障害にもなる事なく普通に魔法を撃って終わった。

　土板に乗って移動してるのをみてあれ？　とか思わんかったのかね。普通なら気付きそうな事だと思うんだけどなー。いやー学園は以下略。

「自力での移動すら出来なくなっていると思ったけど、そうではなかったのね」

「これが俺の日常ですよー。こうしてるのは、自分の足で歩くのが面倒なだけですし。そもそも魔法使えなくなるとか考えなかったんですかね」

　最低限の体力づくり以外はぐーたらするのがぐーたら道の基本理念であり、これは魔法使いとしても立派な修行にもなる最高の移動方法なのだよ。

「なるほどね。じゃああの娘はまんまと君に騙されたって訳ね」

「別に騙してないですけど？　あっちが頭回らなかっただけですよ」

　心外だね。俺はいつも通りの事をしてただけであって、騙そうなんて気持ちはこれっぽっちもない。魔力を別の何かに吸い取られるなんて日常茶飯事だしな。勝手に勘違いしたのはそっちだ。

「とりあえずあの娘を返してくれないかしら？」

「うーん……まぁいいですかね」

　すぐに救助したら速攻で再試合を申し込んで来そうな気がするけど、１回金貨２枚も貰えるのはあぶく銭としては非常にありがたい。特に今は奴隷を買おっかなーと考えたばっかり。その資金に充てられるという期待を込めて引っ張り上げる。

「く……っ。どうしてあれほど魔力を吸われておきながらこれほど大規模な魔法が放てるというんですの！」

「どうしてって決まってんじゃん。あの程度で俺の魔力を吸いきれてなかったからでしょ」

　ぐーたらの為の繊細な魔力操作の鍛錬もそうだけど、豊富な魔力量がないとこうして常時結界で身を守ったり、氷魔法で適温に保ったりできないんだ。ここに手を抜くのはぐーたら神への配信に繋がるからね。

「う、嘘おっしゃいな！　この杖は銀級ダンジョン下層から発見された魔道具で、金貨36枚の価値がありますのよ！」

「へー。無駄に高い」

　簡単石以下で金貨36枚……まぁ、あっちは離れてても吸収できるところが利点と言えば利点だけど、俺的にあの吸収量じゃクソの役にも立たんとはいえ、魔道具となるとなんかの役に立つんじゃないかと思っちゃうよなー。

「ちょい見せて」

「何を仰っているんですの？　これは、辺境伯家に代々伝わる家宝にも等しい代物ですのよ？　それを見せてと言われて簡単に渡す訳がないでしょう！」

　まぁ、嫌だというなら別にいいか。吸い取るのが魔力だけだった場合、何の役にも立たんガラクタ(俺目線)に成り下がるしね。

　もちろん魔力以外も吸い取れるとなったら……何しよう。パッと思いつくのは除湿器だけど、この土地はカラッカラに乾燥してるんで必要性が見いだせないから、あんましつこくする意味もないか。

「あっそ。じゃあ俺はこれで」

　戦闘もあっさり終了し、お礼として金貨２枚が手に入った。これで奴隷が買えるというのであればルッツに頼もう。ちゃんと俺の意を酌んだ奴隷を選んでくれる事だろう。

　なのでさっさとキノコの回収に向かうとしよう。

「はぁやれやれ。ようやっと１人になれた」

　土板の上でぐでーっと大の字になってぐーたらを満喫する。今日は働きすぎたせいもあって起き上がる気力が全く湧かんなー。

　さて……とりあえず夕飯まで時間があるから、それまではこの態勢から微塵も変化させる事なくぐーたらを満喫——は難しいか。じっとしてるのもいいけどゴロゴロしてるのもぐーたら的には至高なんだよねー。

　ゴロゴロだらだらしながら移動。ゆっくりだらだらと移動してじっくり時間を使ったけど、やっぱ到着しても起き上がる気力が微塵も湧かんので、このまま対応しよう。はぁ……これも労働っちゃ労働だよなぁ。

「ういーっす」

　柵の上からぐったり登場する。また増えてるっぽいなぁとか思ってたらいつも通りよぼよぼの村長キノコがやって来ていつも通りわたわたとボディーランゲージによると、今月もいつも通り健やかに過ごせてるとの事。

「じゃあいつも通りキノコ寄越しな」

　俺の一声に長老キノコが指示を出すと、後ろの方から形が歪なボウルにフニィ茸が山盛り乗っている物が７つほど近づいてきた。

「おぉ？　なんか結構な量な気がするぞ」

　先月は――あれ？　どんなくらいだったっけ？　まぁ、見た感じ多そうだしこんなモンでいいかな？　キノコ連中も今月は豊作でして――的な事を伝えて来る。

　まぁ、確かにそうか。ここも随分と緑が増えたからな。村よりこっちの方が自然豊かだと言えるくらいにはこいつ等の働きは素晴らしいな。やはり領地を広げてやっただけはあるな。

　これで一体いくらになるんだろうなーと内心ワクワクしながらキノコを亜空間に放り込んでると、長老キノコわたわたと俺に何かを伝えて来た。

　それによると、どうやら俺のおかげで安全を確保できてる上に水資源も豊富なおかげで順調に数が増えたのはいい事らしいんだけど、そのせいか若い連中がやたら暴れているらしい。

「で？　それを聞いて俺に何とかしてほしいってか？」

　俺の問いにこくこく頷く長老。うーん……どうしたもんかねー。

　力づくで黙らせる事はそう難しい事じゃない。暴れてるとはいえ所詮はキノコ。ちょちょいと魔法を使えば物理的に静かにする事はそう難しくないけど、正直今はそんな気分じゃないんだよなー。別に被害らしい被害はないんで無視したい。

「そんな大変なの？」

　ふむふむ……話を聞くに、まだそこまで大変って訳じゃないみたいだけど、注意をしても聞かず。子供が真似をするから母親が困っているから何とかしろと長老への文句が結構あるらしい。

「……面倒なら外に出してやるぞ？」

　法があればそれに則ったりするのが前世では常識だけど、ここではそんな大層なモンはあってないようなものだと思う。５年生きてきて触れ合った事ないからな。

　なので、輪を乱してるのであれば、数を減らしながら見せしめにするのが一番手っ取り早いと思う。その方が俺も労力なく手助けできるんでいい案だと思うんだが、どうやら長老の方はあまり乗り気じゃないっぽい。

「ま。嫌なら俺は何もせんよ」

　とはいえ、そうするのが１番だと俺は思ってる。集団生活をする上で、法律がないんであれば多少の犠牲を出して如何に自分達が食物連鎖の下層に居るのかを再確認させるのが１番だと思ってる。丁度いい相手が柵を挟んだ向こうにいるんだ。

　しかし。俺のこの発言に長老をはじめ、親であろうキノコ連中がわたわた動き回って不満と文句の意を示す。マジウゼェ……。

　有無を言わさず処分してもいいんだけど、そうするとほぼ不労所得の収入が無くなりそうなんだよなー。だとしたら何か発散方法を考えるしかないかー。

　パッと思いつくのは格闘技だろうな。有り余る力を発散するのにこれ以上にないモンだと思う。問題があるとすれば、こいつ等が足しかない事だろうけどどうしようもないんだから仕方ない。

　足だけで成立する格闘技……つっても短足だから歩くので精一杯だろうから考えるだけ無駄となると、タックルオンリー……。

「相撲……がいいか？」

　あれであれば一応格闘技ともいえるし、体格の差はある程度はテクでカバーも出来てタックルだけでもある程度試合っぽくなる。うん。これはいい解決策なんじゃないか？

　一方。相撲を知らんキノコ連中が首——じゃなくて体を傾けてる。

「とりあえず若い連中を集めろ。準備してやるから」

　はぁ……本当に面倒臭い。でも体を動かす訳じゃないんだし、良しとするか。