第177話
「それは……奴隷が欲しいという事かしら?」
奴隷かぁ……個人的にはそれでもいいんだろうけど、村人の連中がどんな反応をするかだよなー。
テンプレであれば、犯罪奴隷・借金奴隷の区分けがされてるだろうと仮定すると、前者はNGだ。魔法で罰則強化だったり村から離れた場所に別の村を造ったりすればまぁ……なんとかなるかもしんないけど、移動が面倒だし反乱起こされて討伐するのも面倒だ。何より金が無駄になりそうな気ぃしかしない。
となると借金奴隷かな? こっちであれば反抗心とかはなさそうだし、農業従事者であればいちいち何かを教えるという余計な手間を省けるのはいい事だな。村人にも住民が増えるのはありがたい事だろう。
「奴隷ってより住民ですね。他の領地から募集してみたい感じもあるんですけど、奴隷が1番手っ取り早いでしょ?」
一応、住民増加に対しても新鮮な野菜と肉の補充の目途が立ってるから問題ない。今からいくつかの村々を巡って、村人募集のビラでも貼り出させてもらえれば後は勝手にやって来るかもしれんけど、まぁ駄目だよなー。
居るだけで税を支払ってくれる大事な領民だしな。それを横取りするような行為が見つかったら喧嘩売られてるって思われても仕方ない気がする。そうなっても負けるつもりはさらさらないけど、面倒なんだよね。
であれば、どっか大きな街で奴隷を仕入れて領民として働かせるのが誰にも文句を言われない平和的でぐーたらにも影響を与えない最高の手段でもあるが、最大の欠点として非常に金がかかる――と思ってる。
「なるほど。つまり君は、奴隷を住民として住まわせたいのね」
「そうですね。見ての通りの場所なんで、普通に募集したところでこんな僻地で荒れ地に来る人なんていないでしょう?」
季節としてはほとんど熱期と冷期しかないけど、冷期に関しては火の魔道具であっさり解決出来てるし、熱期に関しても解決できる算段が付いた。
食事に関しても、新鮮な肉の定期的な補給が出来るようになったし、新鮮野菜も手に入る予定だ。
なので、住んでくれれば一応生きていける程度の環境は整ってるから問題ないと思うんだけど、問題なのはあのどこまでも広がる荒野だよなー。ひーこらへーこら言いながらようやくたどり着いた新天地を目にすれば、きっと棄てられたと勘違いしそうだ。
だがしかし。奴隷であれば有無を言わせず住まわせる事が出来る。そうしてここで暮らしていけば、熱期は多少キッツイが最低限暮らしていく事に抵抗感は薄れていくだろう。
「なるほどね。確かに奴隷であれば、ある程度文句があろうと『命令』させてしまえばいいものね」
やっぱあるんだー。テンプレだねー。とはいえその力があれば、奴隷を強制的に住ませる事は出来そうだな。
「しかしだ。奴隷というのを君はどこで知ったんだい?」
「前に王都に行った時にちょっとねー。それで、金貨2枚で買えますかね?」
「どうかしら? 奴隷は何度か購入した事はあるけど、いちいち値段の事を考えた事が無かったから詳しい事は分からないのよね」
チッ! これだから金持ちはよぉ……。
「どう? あなた達は知ってるかしら?」
「そうですわね……金貨2枚となりますと学園を卒業できた程度の実力者であれば購入できると思いますけれど……」
「いや。俺が欲しいのは農家でいいのよ。こんな僻地に雑魚魔法使いは要らんのよ」
「それでしたら人数にもよるでしょうが、5人ほどであれば購入できるかと」
ふむふむ。それであれば十分に買う価値はあるな。問題なのはヴォルフか。
今ここでルッツに農家奴隷買ってきてよと頼むのは簡単だ。とはいえ領主であるヴォルフの許可なしにやるのはどうなんだろうねー。別にいいでしょとも思わんくもないけど、村人にもアンケート取らにゃならんし……面倒だからサミィとかゲイツに任せよう。
「前向きに検討しようっと。じゃあ俺はこれで」
「お待ちなさい! 勝負が終わっていませんわ!」
チッ。このままスルー出来るかと思ったけど記憶力はいいらしい。まぁ、俺も覚えてるから記憶力に関してはおあいこだな。
「お金受け取った以上はちゃんと相手をするけどさぁ。俺に勝てる見込みがあるとでも思ってる?」
魔道具作りで俺の魔法の腕前的な物を一応は披露した。全員がめっちゃビビってたし、今までここに来てた魔法使い連中もみんなビビってた。ただ詠唱を短くして使ってるだけでだ。
現代的に言うと、火縄銃とアサルトライフルくらい違うと思う。一方的にハチの巣にする未来しか見えないんだけど、当の本人は馬鹿にされたと思ってるんだろう。顔が真っ赤です事よ。
「当然ですわ。詠唱の早い遅いが勝敗を分けると思っているのは浅はかですわ」
「まぁ……どう考えるかは自由だしね」
これだけの至近距離で詠唱速度以外に勝ちが見込める要素ってあるのかな? 不意打ちかな? まぁ、それをされた所で積層結界で常時安全を確保してるんで多分なんともないだろう。
「じゃあここでやると母さんに怒られるから外でやろうか」
「ついでに見学よろしいかしら?」
「いいんじゃないですか? 別に隠すような事はなんもないしね」
ぞろぞろと引きつれて家を出るとすぐに土板を作って乗り込む。いちいち歩くのが面倒なんでね。
「う……暑いね」
「そりゃあ熱期なんだから当たり前と言えば当たり前ですけど」
「その割に、君は平然としてるじゃない」
「魔法で涼しくしてるに決まってるじゃないですかー」
俺がクッソ暑い思いをするのは寝て意識が途切れてる朝方位だ。それ以外は熱期は涼しく。冷期は暖かになるように努めている。じゃないとぐーたらライフを送るのにこの地は環境が過酷すぎるからね。
「羨ましいわね……部下に頼もうかしら?」
「止めた方がいいと思いますよー。俺も最初苦労しましたし」
さすがに段階を踏んだけど、結構痛い思いをしたしエレナやヴォルフにめっちゃ心配されたし怒られたなー。そりゃあ目を離した隙に赤が血に濡れてたらビビるよなー。
だが、そんなぐーたらの為の訓練があって今がある。凍死者ゼロになり。熱期でも快適な暮らしが出来るようになる。これでようやく人としてちゃんとした生活が出来ると言っても過言じゃない。
だからこそ奴隷の購入を検討したんだ。資金は一応毎月手に入る。その中で少しづつ領民として購入し、必要に応じて手に職を持った奴隷を購入するのもいいだろう。
「あら? 君でも苦労する事があるのね」
「そりゃあ誰でも最初は初心者ですからねー。さて、この辺でいいかな」
あんま移動したくないんで、いつもアリアとヴォルフの朝練が行われてる小さい訓練場でやることにした。
「魔法戦をするには随分と狭い場所ですのね」
「魔法使いは俺と父さんしか居ないからね。それに、俺はぐーたらするために魔法を訓練してるんであって、戦うためじゃないしぃ」
結果的に戦闘にも使えるようになっただけであって、俺の根底にはとにかく楽したいって気持ちしかないので、魔道を究めようとしてる連中には煽りにしか聞こえんだろうけど、強くなったのはただのおまけくらいにしか思ってない。
「まぁよいでしょう。では勝負を始めましょうか」
「うーい」
とりあえず距離を取ると、連れ立って歩いてたロリ伯爵一団が距離を取り、老齢なのにガタイのいい騎士が一歩前に進み出る。
「ではこれより決闘を始める! 双方用意はいいな!」
「いつでも構いませんわ!」
「いいっすー」
ビリビリと空気が震えるようなおっさんの覇気のある声に、お嬢魔法使いは気合の入った声で宝石がいくつもついた豪華そうな杖を構えた一方で、俺は土板に乗ったまま気の抜けた返事を返す。
「……はじめぇ!」
「火よ――」
「『掘削』」
合図と同時に土魔法で地面を掘って巨大な穴を開けた途端。お嬢魔法使いがすぐさま落下。そうしてカッチカチに蓋をしてあげれば脱出は困難だろうとぼーっと地面を眺めてると、少しだけ地面が揺れたがびくともせんかった。
そんな地震にも満たない小さい揺れが5回くらいで打ち止めになった。まぁ、そこそこ狭い場所火魔法使うとか、自殺行為ですよ? 学園とやらで習わんかったのだとしたら、随分と素晴らしい教育(笑)をしてるんですねぇー。
「……」
「おいおっさん。まだ決着の合図がないんだけど?」
「しょ、勝負あり……」
あれだけ息巻いてたにもかかわらず、蓋を開けてみればいつも通りのあっさり決着だった。
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