第175話
「で? どうです?」
一応ロリ伯爵が見た事が無い珍しい品物で、たとえ他国に渡ったとしても何も問題はないと思うんだが、ロリ伯爵の反応はあんまり芳しくないっぽい。
「そうねぇ……こちらの意を酌んだいい品物ではあると思うのだけれど、流石に小さすぎるし見た目もみすぼらしいわね」
まぁ、これはあくまで遊び半分で使う事を目的にして作ったからそう言った面には欠片も意識を向けてないし興味もなかったらかな。
つっても、これをデカくして装飾を豪華絢爛にして送り付けたら、まず間違いなく「こいつは俺を殺そうとしてる……っ!」と取られるのは必定。というかまともな神経であればそんな贈り物をしないって。
「じゃあこの線で何か安全なモンを作ったらいいんじゃないですか?」
「それを君に頼みたいのだけれど?」
「特に欲しいもんないんですよねー」
何かしてほしいというのであれば、それに見合った報酬を用意するのはどの世界でも変化する事が無い真理。これを満たしてもらわんといかんのだけど、現状氷の魔道具が手に入った以上はなんも欲しいモンがない。
なので、余計な問答を繰り返す事も面倒なのでバッサリ切り捨てる発言をしたんだけど、ロリ伯爵の余裕の笑みは崩れない。
「君には無くても、カールトン男爵としてはあると思うわよ?」
「そうですねー。何が欲しい? ゲイツ兄さん」
個人的にはなくとも領地としてみれば必要な物はいくらでもあるけど、大抵の物は俺が代用できるし、出来ない事を賄えるだけの報酬ともなると、多分金貨が吹っ飛ぶレベルの話になるから、贈り物1つ程度で何とかなるレベルじゃない。
なので、俺の結論は拒絶一択。だからゲイツに丸投げする。俺と違って魔法が全く使えないならではの視点でどの程度引き出せるか見ものだね。
「……友好関係はどうでしょう?」
「こちらとしては構わないけど、弟君は不満があるみたいね」
「当然。友好を結ぶのなんて当たり前の事でしょう」
たとえ一時だろうと、友好を結ぶのは当然。それプラス何を貰いたいのかを提示するのが難しいんだよねー。
「うーむ……」
「難しいでしょ? 大抵の事は俺が魔法で解決できるし、俺が出来ない事は贈り物をあげる程度を代償にするには重いんだよねー」
「確かに。となると本当に提案を断るしかなくなるな」
「なら金銭でいいんじゃないかしら? あまり褒められた方法ではないかもしれないけど、君の話が本当ならこれが両者にとって有益でしょう?」
「お金かぁ……いいんじゃない?」
確かに。金は発行してる国が滅びない限りは一定の価値がある、ある意味オールマイティカードでもある。
個人的には興味はなくとも、領地としてみればあればあるだけありがたいと思うから、ゲイツが良ければそれでいいんじゃない? って感じだ。贈り物にしてもマジック道具が駄目なら適当な魔道具で賄えばいいだろう。
これであればぐーたらの定義からもそんな外れんだろうしね。
「いいのか? お前が働くんだぞ?」
「いいんじゃない? 俺は興味ないけど、領主としてはあって困るものじゃないだろうし、労働にも色々な形があるから大丈夫」
「リックがそう言うなら構わないか……」
「じゃあ決まりね。それじゃあ贈り物に出来る珍しい物について何か案はあるかしら?」
「だったら魔道具とかどうです? 趣味で作ってるんで、強度に関しては目をつむってもらうとして、ある程度要望に応えますよ?」
ある程度簡単な物だったら自作できるし、作るのは趣味の一環だからこれは肉体のぐーたらではなく心のぐーたらになるので割と好きです。
「……まぁいいわ。それじゃあどんな魔道具が作れるのかしら?」
「基本的な物だけですかねー。着火の魔道具とか送風の魔道具とか。最近着手してるのは畑を耕す土の魔道具を研究中ですねー」
いわゆる耕運機だな。これで地上から地中深くまで掘り起こせるようになれば村人達の畑仕事がグッと楽になる――のもあるけど、1番は当然俺が楽になるために研究してんだけど、これが中々難しい。
地面を掘削する事は出来るんだけど、いかんせん範囲が広いし深いから、農耕用として使えないんだよねー。今は魔道インクの濃度を調整してる最中なんで、実用化にはまだ幾分か時間がかかるが、これは友好国とは言え他国の手に渡るのはマズいだろうからこれは無し。
もちろん氷の魔道具は提案もせん。これはこの領地で使うために実験中なだけで、他者に売り飛ばすつもりは欠片もない。数か月前までだったらルッツに冷蔵庫代わりにした物をくれてやる予定だったんだけど、砂糖の件もあるんで永遠に予定だろう。
「あら。単純な物でも構わないわよ。魔道具はそれだけで金貨並の価値があるから。とはいえ、その畑を耕す魔道具は遠慮したいわね」
「となると、送風の魔道具にでもしますか?」
ただ風を送る程度であれば、利益になるとも思えないし、サイズを変えれば細工をするスペースも作れるから、貴族への贈り物としても十分だろ。
「うーん……相手の領地は1年を通して涼しい気候なのよね」
「だったら温風が出るようにするか……細工はどんなんがいいとか注文あります?」
「そうね……女神を数柱彫ってくれれば文句は出ないと思うわ」
「じゃあそんな感じで進めるとして、いくら出します?」
作るのは2時間もあれば十分。細工も前世の記憶を引っ張り出せばそう難しい事じゃないからどうでもいい。問題なのはそれにいくら出すかという事の方が大切だからね。
「そうね……金貨5枚でどうかしら?」
「もうちょいですねー」
「では10枚でいいかしら?」
「まぁいいでしょう。じゃあそのお金は来月、それもゲイツ兄さんに送っておいてくださいね」
「……良いでしょう。お願いをしたのはこちらだもの。そのくらいのことはさせてもらうわ」
よし。これでゲイツの学園生活に対してかなりの余裕ある生活を謳歌させる事が出来るだろう。毎月金貨1枚というのはこちらが出せるギリギリ。これで物価という概念が存在する王都で暮らすにはやっぱり心許ないと俺は常日頃から思っていた。
勉強漬けの毎日で、金貨1枚じゃあちょっとした息抜きすらできないだろう。だから俺が領主になるんじゃないかとか言う天変地異が起きても絶対にありえない妄言を信じるようになるんだよ。
そんな時、金があればストレスが解消できて余計な妄言を耳にしたとしても、冷静な判断力で「ウチは次男がアレだから大丈夫」となるんだ。その一助として潤沢な資金が必要になるだろう。
「じゃあ次は意匠を決めましょうか」
一応女神を使ってというリクエストを受けはしたが、どんな感じにするかは依頼主と詰めていかなくちゃなんない。
「女神を適当にあしらってくれればそれで構わないわ」
「適当に……じゃあこんなんでも?」
適当にというから、本当に適当に女神を配置した温風の魔道具のミニチュアを作って見せると、2人の表情が明確に強張った。
「さすがにこれは悪趣味ではないかしら?」
「でも、適当でいいと言ったのはそっちですよね?」
「アークスタ伯。リックはこういう弟ですんで……」
言われるがままに適当にやった結果、女神が目を血走らせてメイクに心血を注いでたり。数柱の女神が髪を引っ張って醜く争っていたりって感じの彫刻になった。
これはこれである意味世の真理っぽいけど、同性であるロリ伯爵の反応はすこぶる悪い。きっとどこかで似たような光景を目の当たりにしたんだろうな。そんな雰囲気をひしひしと感じる。ゲイツは無反応だけどな。
「……もう少し神々しい作りがいいわね。それとこういった殺伐としたものではなく、仲睦まし気な感じにしてもらえないかしら?」
「ふむふむ……ちょっと待っててくださいねー」
神々しく仲睦まじい……ねぇ。すぐ横に何度か目撃し、口封じに脅された経験をしたおっさんとしては、一応作るには作るけど何とも白々しい感じが出るんだよなー。
「どうです?」
「いいんじゃないか? 仲睦まじい感じも出てるし、アークスタ伯の仰った豪華さも十分に感じられるじゃないか」
「……まぁ、いいでしょう」
この辺が男と女の差かね。まぁ、ゲイツも日本であればまだまだ未成年。こういう微妙な差を見分けるにはまだまだ修行が足りない――というか感知できないかもしんないな。
何故なら、いつ背中を刺されてもおかしくない生活をしてるからだ。
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