第174話
「さーって……ちょっと外行ってきまーす」
「え?」
気の抜けた声を出したのはロリ伯爵。
ついさっき俺に用事があるとか言ってたからだろうが、そんな事を言われたからってだから何? って返答しか出来んでしょ。確かにヴォルフから敵対してるみたいな話は聞いて――たっけか? 全然覚えてないけど、友好的な関係を築いてきた訳でもないんだし別にいいでしょ。
「リック。話くらい聞いたらどうだい?」
「えー面倒臭いからゲイツ兄さんに任せるよ」
どうせろくでもない事に決まってる。であれば、関わり合いにならないのがぐーたらの観点から見て間違いないと判断できる。なのでゲイツに丸投げするのが1番手っ取り早い。
「こっちに任せていいのか?」
「俺に迷惑が掛からないならご自由に」
「じゃあ領主として伯爵の話を聞くように」
「……俺行くところあるんだけど?」
「急ぎなのかい?」
「まぁ、ルッツの用事なんで2・3日猶予はあるけど……」
「じゃあ何の問題もないじゃないか。同席するから」
はぁ……本当に面倒臭いなー。氷の魔道具が完成間近で、現状権力を振りかざしてまで欲しい物が全く思いつかない現状、聞いたところで手を貸す気力はミクロも湧かんからマジで時間の無駄でしかないんよなー。
「まぁ、ゲイツ兄さんが一緒なら」
ここはゲイツの顔を立てるとしよう。依頼を受ける受けないは最初から受けるつもりがないんで、本当に話を聞くだけ。こう聞けばぐーたらの一環じゃね? と思う奴も居るかもしれんだろうが、得のない話を聞く事は拷問と何ら変わらん。
ワンチャン。氷の魔道具が手に入ってなければ代償をそれに出来なくもないかもしれなかったけど、既に手に入って量産する体制を整えようとしてる最中。今欲しい物は腐葉土と新しい住民くらいだけど、前者はルッツに任せてあるから何とかなりそうだし、後者に至っては色よい返事がもらえそうにないのは明白だしなぁ。
はぁ……損しかない行動って本当にシンドイなぁ。
「で? 話って何です?」
「そうね。私の領地が隣国の辺境伯領と接してるのだけれど、つい最近そこの領主が代変わりしたのよ」
「はぁ……」
「興味なさそうね。それで、こちらとしては友好国でもあるからお祝いの品を贈って変わらない関係を築こうと思っているのだけれど、その相手というのが少し変わり者で困ってるのよね」
変わり者——と聞いて一瞬同郷? と思ったが、単純にテンプレど真ん中のカス貴族ってだけの事を、回りくどくわかりにくく表しただけに過ぎないってのがゲイツからコッソリ教えてもらった。
まぁ、ロリ伯爵にはバレバレだったけどな。
「で? そんな相手への贈り物と俺とどう繋がるんです?」
「珍しい物がいいと思ったのだけれど、自領で探させたのだけど芳しくないのよ」
「だったら他の場所の方が何倍もマシだと思いますよ?」
ここは、表向きにはなーんもない荒廃した土地。最近は高品質の麦や薬草(エルフ謹製)や調理器具(ドワーフ謹製)にフニィ茸と色々と売り渡す物が増えてきて、俺以外の連中にとっては嬉しい悲鳴だね。
とはいえその程度だ。薬草も調理器具も真実を知らなければ質の良い物としか捉えられないし、麦は納税に使うし王国のどこででも手に入る代物でしかない。ぐーたらの為に、わざわざ足を運ぶ価値があるようには見えないようにしてたってのに、ルッツのアホが白砂糖の事をゲロったせいでこんな事になった。そう思うとまた怒りの炎がメラメラと燃え上がる。
「そう思わないから来たのだけれど、残念ながら君がこれほどの魔法使いだったことが誤算だったわ」
しつこいなぁ。どうやらまだ俺が砂糖を巧妙に隠してると確信してるらしい。こういうのはさっさと珍しいモンを渡して話を切り上げるのが手っ取り早そうだな。
「珍しいなら何でもいいんですか?」
「うーん……多分大丈夫だけど、あまりあちらの利になるような物は遠慮したいの。だから、調度品とかである方がありがたいわね」
「そう言うのはそっちの方が得意なんじゃないですか?」
贅沢を言う。こんな辺鄙な土地に貴族に渡せるだけのモンがある訳ないだろうに。一応村で使ってる食器類は俺の手製だが、頑丈さに重きを置いてるんで飾りっ気のないシンプルイズぐーたらベストな物しかないから無理。
「言ったでしょ? 友好国なのよ」
なるほど。確か交通の要所だったか。それであれば隣国の商品も王国の品も日々大量に売買される訳で、そのカス貴族もいくつか目にしていてもおかしくない。となると珍しくて相手の益にならない贈り物ってのは見つかりにくいだろうね。
でも、だからってうちに来られても困る訳よ。モチロン珍品・貴重品は亜空間に結構詰まってるよ? ミスリルとか始祖龍の鱗とかクソ樹の枝とかね。
当然だがそんな物をポンと渡すような隙はさらさらない。
「つっても、こんな辺鄙な土地になんかあると思ってます?」
「白砂糖の件で何かいい物がるかもと思って足を運んだのよ」
「だったら残念でしたねー。ここは日々を生きるのに必死な土地ですから」
「そうは見えないわよ?」
みんなそう言うんだよなー。俺からするとまだまだ全然物足りない生活なんだけど、村人達は揃っていい生活だと口を揃えるのはまったく信じらんないんだよね。
1年のほとんどが、ともすれば焼け死ぬんじゃね? ってくらいの熱期と、残った月日のほとんども毎年大量の凍死者を出してた極寒の冷期。こんな場所で暮らしやすいとか、ぐーたら神にそう言ったら免許皆伝をあげるよ? と提案されても絶対に首を縦に振る事はないだろう。
とはいえ、この隔たりは慣れっこなので反論する事はない。したって無駄なのは5年の人生で十分理解してる。ならばさっさと珍しいなにかを渡すに限る。
ちょうどいい事に、さっき使ったマジックグッズがあるじゃん。それでお茶を濁してさっさと帰ってもらおう。
「そうですか。それで珍しい物ですけど、丁度いい物思い出したんで見ます?」
「あら? 本当に急ね。一応見せてもらいたいわ」
「これっす」
トン……。と指切断マジックを置くと、当たり前だけどゲイツもロリ伯爵もきょとんとした顔をした。
「これは……小型のギロチン?」
「のように見えますね。リック。これは一体?」
「まぁ見ててよ」
見ただけじゃあ理解できないだろうから、実践して見せる事に。
さっきルッツにやったように、まずは適当に折れやすい棒を魔法で作って切断したのを確認させてから、指を入れるとビックリしてゲイツが手を伸ばしてきたけど、流石にこっちの方が少し早い。
「……切れて、ない?」
「当然」
「君だからという訳ではないのね?」
「やってみればわかりますよ」
まぁ、そう言ったところでやりたいと思う人はまぁいないわな。種も仕掛けも分からん物に指を突っ込んで、万が一切れたら取り返しがつかなくなるもんな。
「いったいどういう魔法なのかしら?」
「これは魔法じゃなくて、人の目を騙す仕掛けがあるだけですよ」
「そうなのかい? 見た感じ変わったところがなかったように見えたけど」
「そこらへんが腕の見せ所だよ。こうすると――」
さっき切った棒に向かってギロチンを振り下ろすけど、今度は切断される事なく刃が通り抜けた。
「うん? 刃が下に行ってないな」
「お? さすがゲイツ兄さん。よく見えてるね」
さすが脳筋側の人間だ。この身体なりに精一杯の速度で叩きつけたんだけど、ゲイツの目には刃が下に行ってないところを捉えていたらしい。
「なるほど。刃が動く構造になっているのか。うん? しかしさっきはその棒は切れていたはず……」
「切る切れないを選択できる構造という事ね。随分と手の込んだ一品ね」
「リックが作ったのかい?」
「そう。王都で見た商人に教えてもらった」
「どんな人?」
「黒髪で布を巻きつけたような服を着てる人」
こういう時に便利だよねー。絶対に国外だろう人間を例に挙げるのは。こうするだけでゲイツもロリ伯爵も困ったような顔をするもんなー。
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