第170話
「はぁ……涼しいっていいわね」
「本当ですね」
どうやら、ようやく砂糖の追及を諦めたらしいロリ伯爵達が逃げるように我が家に戻ってくると、すぐに不動騎士の居る部屋にあるソファに腰を下ろし、魔法使いと共に涼を堪能してる。じゃあ来なけりゃ良かったじゃんという言葉が喉まで出かかったけど、いまさら言っても意味がないだろうとぐっと飲みこんだ。
「さて。これで、白い砂糖がここにはないって納得してもらえました?」
エレナのせいで危うい部分はあったけど、それ以外に不都合な点はないと思う。一応だけど、可能な限り相手の要求は提示したし、重要な部分に関してはキッチリ隠蔽できたはずだ。
「……そうね。こうして見つからなかった以上、仕方がないけど君の言い分を受け入れる事にするわ」
「なんか引っかかる言い方ですけど、深く追求はしません」
ふぅ……ギリギリだったかな。やはり情報は大事だな。あのアホ使いが来なかったらここまで念入りな準備は出来なかったしなー。後でガキ連中には色々と褒美をやろう。
さて、余計な話し合いが終わったのであればさっさとルッツとも交渉せんとな。別に生鮮食品を扱ってる訳じゃないからいいかもだけど、安全を考えると少しでも早く氷室に放り込んでもらわんとね。
「じゃあ俺はこれで――」
「ちょっと待ってもらえる? 一つ聞きたいんだけど、いいかしら?」
「まぁ、質問をするだけならタダですからどうぞ」
聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥ともいうしな。聞くだけなら誰でも出来るが、解決が出来るかまでは保証しない。結構な事が出来るけど、面倒はノーサンキューなので基本的にやらない。
「なら聞くわ。そろそろ私の生誕を祝うパーティーを開かれるのだけれど、招待したら来てくれるかしら?」
「俺は絶対行かないですねー。父さんやゲイツ兄さんを誘ってください」
今の俺に他人の誕生日に行く意味なんてどこにもない。
これがヴォルフやゲイツであれば、領主としてお互いに友好的ですよって意味を持たせるためにも行った方がいいんだろうけど、俺はぐーたらさえできれば何の文句もないので、そんな事をする理由がない。なのでノータイムで断る。
「ハッキリ即答するのね。一応これでも君より地位は上なんだけど?」
「地位じゃ俺はいかんともできませんねー。だって役に立たんじゃないっすかー」
多少の問題に関しては有効かもしんないけど、窮地に陥った際に地位が役に立つ事なんてない。それが魔法から守ってくれるわけじゃない。魔物から守ってくれるわけじゃない。神の裁きと称した俺の魔法を防ぐ力なんてこれっぽっちもない。
法律と捜査がずさんなこの世界であれば、ここで殺したとしても簡単に魔物のせいに出来るからね。
実際に行動に移すかどうかはさておいて、そう言う心持ちが余裕を生んでくれる。
「ハッキリ言うのね。これでも地位目的で私の夫となりたいという人が結構いるのよ?」
「へー。伯爵ってそんなに美味しいんですかね?」
「ウチは特に美味しいわね。交通の要所だから通行税も期待できるし、他国からの交易品も入って来るから関税も多いうえに土地が肥沃だから」
まーじでぐーたらするのに最高の土地だな。とはいえ、賑々しいのは好きじゃないんであんま興味は引かれない。あんまってのはなんかいい食材ないかなーって一点くらいか。
「というか、こんな話ってしても大丈夫なんですか?」
貴族の結婚話なんか聞いて俺には何のメリットもない。むしろぐーたらライフを邪魔する害悪連中でしかないし、そもそもこういう話ってタブーとまではいかなくても憚られるもんなんじゃないか?
「構わないわ。私は婚約者は自分より強い男と公言しているもの」
「へー」
見た感じ微弱な魔力を感じるけど、戦闘には使えないくらい微弱。魔道具と考えるのが妥当かな。じゃあ近接か。武器携帯の様子はないって事は……こんなナリで拳って事ぉ!
「どうかしたかしら?」
「いえいえ別に」
ロリの拳を魔物の血で染める……うん。中々にショッキングなイメージだけど、そう言う才能があるなら仕方のない事だ。
「君が成人してたら私の婿として申し分ないのだけれどね」
「あはは。生憎ですけど結婚はぐーたらにとって害でしかないんでする気はさらさらないんですよー」
俺は俺のために生きると決めている。まぁ、それでも家族の情はあるからここに骨をうずめるつもりだけど、それは無茶な要求が続くようなら普通に出て行くくらいの薄い情だ。
「あら残念。趣味じゃないかしら?」
「その辺は黙秘します」
幾ら色恋に縁のないおっさんだった俺でも、そういう事を明言するのは命の危機に直面する事くらいは無数にあった情報媒体で嫌というほど目の当たりにしてるからな。
そして肝心の回答だが、ロリ趣味はねぇ! だ。
「残念。それじゃあ好意的な受け取り方をしておくわ」
「その辺はご自由に」
まぁ、プラスに捉えてくれるならこっちとしてはありがたい。口説いてるとか思われたら最悪だからな。肯定的な明言は出来る限り避け、否定的な事に関してはしっかりと口に出すがね。
「じゃあそろそろ俺はルッツとの商談があるんで」
「あら残念。最後に1つ――私は綺麗? 可愛い?」
「可愛いだと思いますよー」
綺麗だの可愛いだのは褒めの常套句。この程度であれば口に出したっていいだろうと返答した。大人ぶりたいのは分かるが、どう頑張ったって綺麗系に傾けるのは不可能だろうなー。
「さて……」
はーやれやれやっと解放された。まぁ、と言ってもまだお仕事は残ってるんだけどね。
疲れた体を引きずってヴォルフの執務室に顔を出すと、ルッツのアホが呑気に紅茶を飲んでやがったんで、極々小さい水球をその額に叩き込んでやる。
「ふぎゃっ⁉ い、いきなり酷い事するヨ」
「黙れ裏切り者。人が面倒な奴の相手をしてる間ぐーたらしやがって。それだけで殺したくなっちゃうよー」
「勘弁してほしいネ。ワタシまだお金儲けしたいヨ」
「だったら砂糖製造を頑張るんだな。どうなん?」
「順調ヨ」
それはよかったが、俺みたいに魔法で何とかする事は難しいだろうから収穫するにはまだまだ時間がかかると思うのがネックだ。その間のネチネチとした小言が飛んでくるだろうけどこっちには関係ない。
「じゃあ伯爵との砂糖の売買はお前に任せたぞ。ちゃんと宣伝しておいたから安心して売りまくれ」
「え……っ。リック様、伯爵に砂糖の事伝えたネ!」
「当然。どうせ売るつもりだったんだろ? それで今回の件は白紙にしてやるよ」
そもそも砂糖販売に手を出そうとしてたんだ。他の大商会連中から何をされるか分かったもんじゃない。そんな奴等に、伯爵が懇意にしてるってのは抑止力としては結構効くような気がする。
うん。これはむしろルッツを売ったというよりパイプを繋いだと言ってもいいだろう。伯爵との繋がりなんてそうそうできるもんじゃない。感謝してほしいくらいだ。
「そう……ネ。伯爵様との密な取引は悪くはないヨ」
「俺に感謝するんだな。しっかし……あんな子供に領主継がせるとか、伯爵家は男手は無いのかね?」
ってか伯爵領って人も多そうだから、最悪婿養子とか迎えりゃいいのになんだってロリを領主にしたんだろう。有能だと言っても若すぎると思うんだよなー。あれでよく男社会だろう貴族の中でやっていけるよなー。
「リック様何言ってるネ。あまり女性の年齢口にする良くないけど、アークスタ伯爵は30超えてるヨ」
「……え? 本気で言ってる?」
嘘だろ⁉ あの見た目で30オーバーとか合法ロリじゃねぇか! マジかぁ……ゲームとか漫画の世界じゃちょくちょく見かけたが、まさか現実にも存在するなんてなー。さすが異世界だぜ。
「というか、あの容姿見て子供言える人間が居る思えないヨ。やっぱりリック様はエルフの血を継いでるネ?」
「……逆にあれを見て大人と言える奴の神経を疑うんだな?」
「どうやらワタシとリック様の間に齟齬があるネ。少し話聞きたいヨ」
って事なんで、俺から見える伯爵像とルッツから見える伯爵像を照らし合わせてみる事にした。
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