第171話
結果から言うと、まぁ似ても似つかん事が分かった。
「えーっと……これが共通認識か?」
「そうネ。多分間違ってない思うヨ」
どうやら、あのロリ伯爵は俺以外の連中にはナイスバディで妖艶なお姉さまって感じに見ているらしく、ルッツが掴んだ噂だとその色香で数々の馬鹿でクソな貴族を手玉に取っているらしい。
それを聞いてピンときた。あの微量の魔力は変装の魔道具なんだろうと。
どうやらロリ姿じゃ貴族社会で舐められるという自覚があるんだろう。だから妙齢の色気ムンムン女子に変装してるのか。そう考えればあの大人びた態度にも納得だ。
「しっかし……あれで成人たぁ凄いな」
「リック様の話聞く限り、本当に子供としか思えないヨ」
「確かにな。そりゃあ魔道具で変装の1つや2つするわなー」
そうしなけりゃ完全に舐められるだろうからな。じゃあ領主にすんなよと言いたくなるけど、そのデメリットを補って余りあるほどに滅茶苦茶優秀なんだろうな。じゃなければ女子で合法ロリを領主にはしないだろうと俺は思う。
「とんでもない秘密知っちゃったヨ。バレたら殺されるかもネ」
「そりゃー大変だな」
そう言われるとそうかもな。特に鼻の下伸ばしてたかもしれんアホな連中にとっては一大事だろう。あわよくばなんて思ってた相手がまさかの合法ロリだった。なんて知った日にはどんな顔をするんだろうなー。
「リック様は平気そうネ。羨ましいヨ」
「まぁ、事実平気だろうしね」
軍隊どころか国が相手でも滅ぼせるかもしれない。なにせ始祖龍が相手でも別に大丈夫だったからな。数百数千程度の人間相手なら至近距離からでも制圧は難しくないだろうからね、何をビビる必要があるのか逆に聞きたい。
「ワタシの事、伯爵と何かあったら守って欲しいヨ」
「それはこれからの行い次第だな」
既にコツコツ貯めてた俺からの信頼ってポイントは、砂糖の一件で大きく目減りしてるんだ。
現状、ロリ伯爵に敵対されてもかなりの代償を提供されないと味方する事はないレベルに落ち込んでる。
これが、砂糖をバラされてなかったら代償は大きく減っていたんだけどね。とはいえ確かにあれは面倒な相手だ。ちょっとのミスから芋づる式に欲しい答えを吐かせようとするんだからな。
確かにあれが相手だと厳しいなと思うけど、莫大な富を犠牲にくれてやったんだ。伯爵相手だろうと頑張ってもらわんといかん訳よ。
「しかし……」
「どうしたネ?」
「多分……伯爵がロリ――容姿が幼いって事に気付いてる事を、あちらさんに気付かれたっぽいんだよなー」
パーティーの話からモテるモテないの話になり、最終的には綺麗か可愛いの2択を迫られたっけ。あの時はよくも分からん問いをして来たなーと思ったが、これを知る為か。どうやって俺が気付いているのを察知したか知らんけど、わざわざ確認した理由はなんだろうな。
「あの人はちょっとした視線とか言動でこっちの手の内を探れる目ざとい人ヨ。これで、ワタシ言った油断ならないって言葉、信用してくれるネ」
「確かに厄介なのは理解したけど、砂糖バラした罪は消えんぞ」
「やっぱり駄目ネ」
気付いてるのを気付かれたとしても、俺個人としてはどうでもいい事。知られたところでこんなネタを脅しに使うつもりはさらさらない。ってかそもそも脅しとして使えるかどうか疑問だ。
この感じだと、俺が「伯爵は実はロリなんでーす!」と言ったところで、信じる人間が多分ゼロ――いや、フェルトはワンチャン信じてくれるかも。
だからって言いふらすつもりはない。今回もたまたま情報をすり合わせをしただけだからな。んな事より村の物資よ。
「さて。無駄話はここまでにして、いつも通り目録頂戴」
「分かったヨ」
羊皮紙の束を受け取ってペラペラ……毎月毎月買う物と量が変わらんなー。理想を言えば徐々に増えるように住民が増えてほしいんだけど、こればっかりは長いスパンが必要なんだよなー。
いっそのこと、奴隷とかを大量購入して村人に仕立て上げたりできないか? エレナに1回聞いてみてもいいかもな。俺のぐーたらライフにはとにかく人手が要るんだよ。
「うーん?」
「な、なにか不備があったネ?」
「いや、腐葉土少なくね?」
注文したはずの腐葉土は確か金貨5枚分。この世界でそんな概念があるとは思えないから安く大量に手に入るだろうと思ってたのに、ここに書かれてるのは馬車で半分くらいの量しかない。当てが外れた結果に自然と眉間にしわが寄るのは仕方がない。
「そもそも土売って欲しいなんて聞いたの初めてネ。これでも頑張った方ヨ? 売って欲しい言って売ってくれる人探すの苦労したヨ」
「あー……」
なるほど。改めて言われると確かに変か。
前世であれば特に問題なかったけど、この世界じゃ土の売買はおかしいか。ワンチャン農地を奪われるとか勘違いされてそうだな。
「まぁ、その辺は金払ってるんでこれからも頑張ってもらわんと」
「まだ買うネ?」
「当然。より長くぐーたらをするために腐葉土は必要不可欠な物だからな。だからあんな大金支払ってわざわざ頼んだんだぞ?」
この土地はどんな力が働いてるのか知らんけど、マジでとんでもない速度で栄養が散っていくんだよな。赤の頃に魔力を増やす目的で使いまくってたが、最初の頃は少なかったせいもあってか翌日にはほぼゼロになってた。
それをコツコツ繰り返した結果、どうやらひと月程度であればゼロになるような事に名はならなくなったわけだが、やっぱぐーたらするためにはこの領地全体が肥沃になる事だけど、そんなのは無理。移動がメンドイからな。
「こんな事になるなら断っておけばよかったネ。売ってくれる人探すの大変ヨー」
「それは頑張れとしか言えないなー」
集めるのも他者。
それを混ぜ入れるのも他者。
俺はぬいぐるみを作って卸すだけ。
これが最高のプランだ。
「後は……野菜の種もちゃんと持って来たんだな」
人参・ジャガイモ・キャベツ・トマト。ふむ……悪くないラインナップだ。乾燥野菜はあんま美味くなかったからな。誰を麦農家から足を洗わせるかはゲイツに決めてもらおうか。
「リック様の要望は可能な限り応えるヨ」
「要望ねぇ……だったらちょっとしたおもちゃがあるんだが権利買わん?」
「おもちゃネ?」
「そ。これ」
取り出したるは指切断マジックの道具。
「これ何ネ。シガーカッター?」
「おもちゃって言ったよな? とりあえず見てろ」
まずは普通に羊皮紙の端を穴に突っ込んで刃をスライドさせるとストンと切断されるのを確認させてから、さり気なく細工をしてから今度はルッツの腕を魔法で固定。
「リック様?」
「どーしたよ」
ルッツの問いかけに軽く返答しつつ指を挿入。
「リック様⁉」
「大丈夫大丈……夫!」
ずん! と刃をスライドさせたが、ルッツの指はちゃんとくっついたままである。
「魔法成功~」
「失敗したらどうするつもりだったネ!」
「なにビビってんだよ。こいつは子供のおもちゃだぞ? 失敗したって切れないようにしてるって。まぁ、骨くらいは折れるかもだけどね」
対象年齢は10歳以下の予定だ。怪我はするけど取り返しのつかないレベルには至らないと思う。まぁ、アリアみたいな脳筋がやったら切断するかもしれんけど、あれはサポート外だから。
「うーん……面白い物ではあると思うけど、あんまり売れそうにないヨ」
ルッツの反応を見るにマジで売れないっぽいな。こいつの売れる・売れないに対する嗅覚は相当な物だからな。そんな奴が売れないと言えば、一瞬話題にはなるだろうけどまず間違いなく売れないだろう。
「だったら売るのは諦めるか」
「そうした方がいいネ」
「じゃあそろそろちゃんと仕入れが出来てるか審査しますかね」
売れる売れないの嗅覚は本物だけど、仕入れに関しては前の塩の時みたいに時々ポカをやらかすんだよな。俺が生まれる前まではそれでもここまでやって来る唯一の商人で、ヴォルフやエレナとも旧知の仲だし、何よりロクな商品が無いのに来てくれるから文句を言わんかったんだろうけど俺は違う。
駄目なモンは駄目とキッパリ返品する。こっちも薬草や調理器具を卸してるんだから対等に取引をしますとも。
「お願いするヨ。レイも待ちくたびれてるはずネ」
さーて。今月はちゃんとした物を仕入れてますかね。
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