第169話
「あー。だとしたらあれかもしれないかな?」
「あら? 何か心当たりがあるのね」
「ええまぁ。ただし確信は無いですけどね」
色々と悩み考えた挙句、今回はガキ連中を利用する事にした。そうと決まれば即行動って訳で、まずは裏庭の甜菜畑を土魔法で埋める。事前にロリ伯爵が来るだろう事が分かってたからな。ガキ連中には位置が分かるように小さい魔石を携帯させてるんで、そこのピンポイントで風魔法を使ってプランSの発動を発令しておく。
「じゃあ行きますか」
「その前に、彼女はこのままなのかしら?」
「そうなんじゃないですか? まだ話が終わってないですし」
そいつが動けるようになるには、話し合いが終わったらだと両者で示し合わせてたはずで、まだ砂糖に関しての話はまったく終わってない。だったら動けるようになる訳がないと思う。俺がやったんじゃないから知らんけど(笑)。
「……そうね」
「しかし伯爵。彼女が居なければ御身が危機に陥った際に——」
「別に護衛が居なくたって平気だって。この辺にはスライムとキノコとウサギしか居ないからさ。それとも、あんたはその程度もなんとか出来ないのにこんな近くで伯爵の護衛してんの? 失格じゃね?」
いくら魔法使いとは言え、いい大人が雑魚代表格をどうにかできないのはさすがにどうかと思うし、他にも護衛らしき連中は村中に居るんだ。1人がここで動けない奇病に侵されたとしても問題はないと思うんだけどなー。
「この子もこう言ってるじゃない。貴女は心配性すぎるのよ」
「当然です! 御身に何かございましたら、わたし達一族は先代様の御恩に背いたとして、首を斬らねばなりません!」
「あら……この私が今坊やが言ったような魔物に後れを取ると思っているのかしら」
おぉ……凄い笑顔だ。エレナのあの圧には劣るけど、流石伯爵と言ったところか。中々強い圧に魔法使いから冷や汗がドッと噴き出してる。
「伯爵なのに強いんですか?」
「? 当然でしょう。貴族は市民を守るために居るのよ? 強くなくちゃ務まらないじゃないの」
「へー。てっきり貴族って肥え太って人の功績にケチつけるクズしかいないと思ってましたね」
ニコニコ笑顔で告げると、動けない騎士から射殺さんばかりの視線が飛んでくるし、隣の魔法使いも魔力をぐにょっと動かしたけど、当の本人は困ったような笑みを浮かべるのみ。
「まぁ、大半の貴族はそうでしょうけど、まともな貴族もいるのよ?」
「まるで自分もまともだと言いたいように聞こえるんですけど?」
「事実だもの」
図太い神経の持ち主だなー。まぁ、その位じゃないとやってけないか。
こんな感じの他愛ない会話をしながら家の外に出ると、今の今まで氷魔法で一定に保たれてた涼しい世界から、骨身を焦がす――は言い過ぎか。でもめっちゃ熱い世界に戻って来た2人はうわぁ……みたいな顔をして家の中へリターン。
「どったんです?」
「……良い魔法使えるのね」
「でしょー。おかげで年中快適に過ごせてますよ」
氷魔法と火魔法。この2つがあれば、熱期と冷期を余裕で過ごせる。まさにぐーたらにとってなくてはならない魔法だが、気づくのが早いねー。そして想像を絶する早で逃れられなくなったようだな。夏の暑さから逃れるという魔力にな!
「どうにかならないかしら?」
「なりませんねー」
面倒なんで。
「……遠いかしら?」
「どうでしょうかねー」
居場所は割れてるけど、もちろん遠回りしますとも。
「……行くわよ」
「かしこまりました」
ニコニコ笑顔で待ってると、ようやく諦めたロリ伯爵は嫌々家の中から出て来た。
「うぅ……さっきまで快適だったのに、辛いわね」
「この土地だとこれが年のほとんどですよ」
「凄いわね。そんな土地でこうして人の営みが行われているなんて、カールトン男爵の手腕は素晴らしいわね」
と言いながらも視線真っ直ぐ俺を見据える。まぁ、少し考えればヴォルフの力だけで何とかなるようなレベルは悠々と飛び越えてるよなー。国を救った英雄でも自然相手には手も足も出ないだろうし。
「さすが救国の英雄ですよねー」
「そうね。これだけの手腕を持ち合わせているのなら、私も交流を持とうかしら」
「そういう話は父さんとしてくださいねー」
個人的には遠慮したい相手だけど、OKかNGかを決めるのはヴォルフだ。この領地の将来を見据えれば、ここで伯爵と友好を結んでおくのは悪くないと思う。渡せる物はないけど、欲しいものはいくらでもあるからね。
「ところで、その目的地にはいつごろ到着するのかしら?」
「もう少しですよ」
魔石を探知して、十分に数が集まったのを確認して少し前まで甜菜を植えてあった畑の辺りに到着すると、そこには俺の号令によって集合したガキ連中がいる。
「おっす」
「リックさまだー」
「どうした? なんか用か?」
「用があるのは俺じゃなくてこっちな」
そう言って後ろを指さすと、ロリ伯爵が笑みを浮かべながらガキ共に近づく。こんなガキ連中にガキが色仕掛けかーとか思いながらボケーっと見てると、しっかり効果があるみたいで男連中が顔を赤くしてんなー。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」
「な、なんでしょう」
「砂糖って知ってる?」
「砂糖? なんだそれ」
このままだと馬鹿共は駄目だろうと思ったんで、すぐにリンに目線で合図を送って割り込ませた。
「知らない? この子が君達なら知ってるかもって言ってるんだけど」
「うーん……色々適当にやってるから分かんねーや」
「甘い物で通じるかしら?」
「甘い……あぁ! じゃああれだけどもうないぞ?」
「あらそうなの?」
「おぅ。かーちゃん達に取られた」
まぁ、女子連中の甘味に対する圧は物凄いからなー。おかげで結構なハイペースで作らされてるおかげで、俺も毎日の栄養補充と週1くらいの砂糖精製程度の労働が課せられてるんだよなー。こいつ等がもうちょい大きくなれば全部任せて栄養補充だけで済むし、ルッツが腐葉土を大量に持って来てくれれば、それすらも無くなるんだけど、それは畑に過不足なく栄養がいきわたってからだな。
「それって白かったかしら?」
「どうだったっけ? シグは覚えてるか?」
「茶色だった」
「だってさ。なんだったら倉庫来るか? 確か少し残ってたと思うけど」
ちゃんと、この世界で普通に流通してるだろう砂糖もアリバイ作りのために用意している。アホな使いを寄越した自分のアホさ加減を恨むんだな――と内心悪い笑みを浮かべながらも表面上は平静を装う。
「せっかくだから案内してもらおうかしら」
「いいよ。ついて来てよ」
リン先導で向かったのは氷室。まぁ、ここじゃないと大抵の物は腐るし、いちいち一軒一軒回って氷魔法で何とかするのは重大なぐーたら違反だからな。そんな事をせずに一カ所にまとめて氷魔法でカッチコチにするのがぐーたらとしては正しい行動。
「うひー。相変わらず涼しいぜー」
「本当ね。これほどの場所があれば、保存は容易そうね」
「じゃないと餓死しますしねー」
「これも魔法……なのかしら?」
「ですけど?」
逆にこんな灼熱大地のどこで氷が取れるのかを教えて欲しいね。
「こ、氷魔法が使える魔法使い……だなんて」
「おかげで食料を長期保存出来て助かってるんだよ。で? 砂糖は?」
「あっちだ」
一応家庭ごとに区切りはあり、村共用って感じの物は一番奥にしまうルールだ。とはいえ、大した広さじゃないからする一番奥に到着。リンが壺を拾い上げる。
「これだよ」
中を確認してみると、ほとんど底が見えるくらいしか残ってない。モチロン大量にあると作ったのは最近か、持続的に生成できる可能性を疑われるからだ。
「少ないわね」
「当ったり前じゃん。かーちゃん達が結構使ったからな」
「また作ったらいいじゃない」
「面倒臭い」
まぁ、工程を見てる連中からすればそう思うよなー。魔法だから簡単に済ませてるけど、すべて人力ってなると地獄だよなー。まぁ、いずれやってもらう予定だから、キッチリ地獄は見てもらうけどね。
「何を使って作ったか。覚えてるかしら?」
「確か野菜だったぞ。種はもうない」
「あら残念。でも、いい情報をありがとう」
そう言って金貨を握らせたのはいいんだけど、ここじゃあそれは何の役にも立たないんだよなー。10年もすれば使える店が何軒か建ってる予定だけど、その時まで無くなってない事を祈ろう。
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