第164話

 とりあえず親方に見てもらおうと鱗を差し出すと、親方もララも石みたいに固まっちゃってるな。一体どうしたってんだよ。


「おーい。これで大丈夫か聞きたいんだけど?」

「オドレ。一体どこでこれを手に入れたんじゃ。欲しい思ぅてもそうそう手に入らん代物やぞ」

「ん? 知り合いのエルフから貰った」


 危ない危ない。そういえば龍って災厄とか言われてる存在だったっけ。相手した奴も始祖龍も大した事なかったからそう言う感覚が薄いんだよなー。咄嗟にでまかせが出たのはもはや癖だね。

 とはいえ、やっぱ龍の鱗と言えば魔法耐性の代表格だろ。ゲームでも高い防御力に加えて魔法にもブレスにも耐えるのはもはや常識レベル。それを素材として使用すれば、相当な出力だろうと大丈夫なんじゃなーい?


「ホンマにエルフから貰ったんじゃろうな?」

「当たり前でしょ。必要ないっていうから貰って来たんだよ」


 まぁ、実際は脅し取ったもんだけど、そこにフェルトが居たんであれば似たようなもんだろう。たとえ疑問に思おうとも、龍に話を聞きに行くなんて馬鹿げた行為をする奴はそうそう居ないだろう。普通に死ねるだろうからな。


「まぁええじゃろ。しかしモノが良すぎじゃ。これじゃったら逆に起動すらせんようになるじゃろうのぉ」

「じゃあ鉄に混ぜるか」


 早速魔法で鱗をガリガリ削る。むむ……やはり魔法耐性が高いとあってちょっと硬いのでちょっと多めに魔力を込めて――っと。


「ふぅ。意外と時間かかった」

「意外とって……自分言っとる意味分かっとるん?」

「分かってたら言わんじゃろ。ええか? 本来龍の鱗を削ったり切ったりするんは精霊に力ぁ借りんと普通不可能じゃけぇな」

「へー」


 でも俺はあっさり出来た。まぁ、そりゃ多少は多く魔力を込めたけど、いつもと比べて数倍程度なんで苦でも何でもないから、これを精霊じゃないとどうにもできないとかどうでもいい。


「とりあえず少しづつ混ぜよう」


 まずは鱗の粉末を1割まぜまぜ。それで氷の魔法陣を作って魔力を流す。


「うんともすんとも言わないな」

「多すぎるんじゃろう。龍の鱗じゃからのぉ。動かんいう事はそれだけ魔法に対する耐性が高い証拠。つまり高位龍いう事じゃ」

「……ふーん」

「なんでイラついとるんや?」


 うーん。ララは鋭い。うんともすんとも言わない事で、なんだか雑魚龍の勝ち誇ったドヤ顔が脳裏をちらついて、イラつきから意識的に魔力を流す量を壊れるギリギリまで流したんだよねー。


「そんな事ないよ。これで駄目なら半分に減らそう」


 ララの鋭い指摘を無視して、鉄から粉末を半分だけ取り出してもう1回。今度はちゃんと霜が付き始めたから成功と言っていいね。


「……」

「リックも嬉しそうやん。成功したんがそないに嬉しいんか?」

「かもね」


 本音はあの雑魚龍に勝ったって思いから来てるもんだけど、それを言っちゃうとさっきの発言と齟齬が生じるから適当に誤魔化す。

 さて……さっきと比べて霜の付き方が遅いのはいいことだけど、これだと冷たくなるまでちょーっと時間がかかるのがいただけないな。


「次」


 また少し減らして魔力を流すと、今度はイイ感じで霜が張って冷たくなった。とりあえずこのくらいでいいかな? 後は耐久テストだけど、どうすっかな……俺としては自分でやってもいいんだけど、何日も続けて稼働してもらうのが理想だからそれを調査してくれる人材——フェルト辺りに頼むか? でもエルフだから時間間隔に信用が置けないんだよなー。


「どないしたん? また失敗なんか?」

「いや。このくらいでいいと思う。後はどのくらい長時間使えるか調べる必要があるんだけど、調べるのって面倒臭いんだよなー」


 個人で使うとしたら適当でいいのかもしんないけど、これは村人がより快適な日常をおくる為の魔道具になるものなので、修理や魔力の補充なんかは俺の仕事となる。それを少しでも減らすのであれば、より最適な――いわゆる黄金比ってのを調べる必要があるだろう。それがすこぶる面倒臭い。

 鱗の粉末を入れるのはイイよ? そんなのは魔法を使えば一応0.1グラム単位で変えられるけど、問題なのは時間。こればっかりは測ってみないと何ともならない。

 それ自体はぐーたらの範疇と言えばそれまでかもしんないけど、ある程度ちゃんと調べようと思ったらそれはもう労働な訳で、ガクッとやる気が無くなる。それこそもうこれでいいんじゃね? って諦めるくらいには無気力になる。


「それやったらオトンがなんとかしてくれるやろ」

「え? どうやって?」

「どうやってって……そんなもん鉄見たらわかるやろ? なぁオトン」

「当たり前じゃ。ワシ等はドワーフじゃけぇ金属の変化が分からんようじゃそもそも鍜治場に足ぃ入れさせるわけねぇじゃろうが」


 おぉ。さすがドワーフと言ったところか。それなら任せちゃおっかな。


「じゃあ頼んでいい?」

「構へんよ。どうせお客もほとんど来ぉへんし、ここで涼しく過ごせるんやったらウチとしても願ったり叶ったりやからな」

「ドワーフでも暑いんだ」

「当然やろ! 自分等別種の連中と違って耐性は高い方やけど、せやからって限度っちゅうもんはあるわ!」

「ほぉじゃのぉ。ワシも鍛冶中は気にせんようにしとるが、それ以外じゃとやはり嫌気がさす日が出てくるもんじゃけぇのぉ」


 まぁ、そりゃそうか。いくらぐーたらを信条としてる俺であっても、延々と寝続けるのはさすがにねぇと思う時もある。


「じゃあさっそく何個か作るか」

「よろしく頼むわー」

「流石にタダって訳にもいかんし、枝要る?」

「ええんか? ワシ等としちゃあ快適ン過ごせるかもしれんちゅうだけでもええんやで?」

「うーん。タダより高い物はないっていうし、枝あげるよ。ララにはお菓子ね」


 何せ相手は関西弁を操る種族。誰の影響でこうなったか知らんけど、そのマインドまで受け継いでたらそれはそれは厄介な貸しを作ってしまう事になる。昔に見たテレビで、缶ジュース1本でも結構無茶な要求をしてくるってやってたからな。気をつけんとね。


「なんかすまんのぉ。しかし! ララはやらんぞ!」

「いらないって――痛っ! なんで殴るかな」

「いやーすまん。虫見つけたから普通に叩いただけなんやけど、人間には強かったみたいやなー。ホンマすまんなー」


 なんだろう。謝ってるのに目が笑ってない。そして本当に衝撃が凄かった。正直結界を張ってなかったら骨にひび入ったんじゃない? ってくらいには強かったと思う。あれでドワーフにとって普通って……本気出されたら頭蓋骨陥没するんじゃないか? おぉ怖。


「いいよいいよ。ハイお菓子」

「おー! また随分と変わった綺麗な菓子やな。なんなんこれ?」

「金平糖」


 砂糖だけで出来る簡単お菓子で、見た目にも少しインパクトがあって目を引くには十分。手で作ればかなりの時間と根気がいる物だけど、魔法を使えばちょちょいのちょいと出来る。


「へーそーなんやー。ん……っ。やっぱリックの作るお菓子は甘くてええわー。もっと食ぅてええ?」

「いいよ。実験の代金だし。けど早く食えよ? 多分熱で溶ける」

「そうなん⁉ でもこれの傍に置いとったら平気なんちゃう?」

「試せばいい。責任は持たん」


 溶けようが何しようが、こうして忠告した以上はそれはララの責任になる。まぁ、溶けても砂糖は砂糖なんでぺろぺろ舐めれば甘さは味わえる。卑しく映るがね。


「親方にはこっちね」


 亜空間に手を突っ込んで取り出したのはクソ樹の刈り取った枝。いつものと比べて数倍はデカいが、俺が持ってたって何の意味もないからそのまま差し出す。


「ぅおい! なんでいつもより大きいんじゃ!」

「たまたま手に当たったのがそれだから。変えるのも面倒だから運が良かったって事でありがたく受け取っておきなよ」


 運が良いのはいい事だ。精霊にはいつもの数倍デカいのはたまの贅沢とでも思わせとけばいい。これに味を占めてナマ言ってくるようだったら、またララに頼んでじっくりとお・は・な・し。をしてもらえばいい。

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