第155話

「ここがそう」

「ほえー。趣味悪ぃ」

「それには同意する」


 従業員に案内されて到着した魔道具店は入口上にでかでかと『マックス魔道具店』と書かれてて、入り口両脇にはそのマックスだろうカールした髭と他人を見下したようないけ好かない目をした痩せ型のおっさんの肖像画が飾られてた。


「じゃあ行くとしますかね」

「私も?」

「たった一軒案内しただけで解放されると思ってたの? 時間が許す限り行くんだから、同行してもらうに決まってるでしょ。その為にわざわざ技術を見せたんだし」


 魔法による魔法陣彫刻なんて技術が果たして値千金になるかどうか知らんけど、少なからず従業員とあの店主は驚いてた。ならば、そこそこ価値があったと都合よく判断して使い倒すのが俺の流儀だ。


「入れる?」

「それを試すんだよ」


 伝手が無かろうと一応は客だ。幸いな事に出入り口にガードマンみたいな奴は居ない。じゃあ扉を開ければ勝手に入れるって事だろ? という訳でささっとその店に近づいて扉をくぐれば簡単に入店する事が出来た。


「意外と簡単に入れたな」

「そうね」

「さて……」


 ずらりと並んだ――ってほどじゃないけど、さっきの店と比べれば桁違いの品揃えだ。

 着火の魔道具。

 送風の魔道具。

 給水の魔道具。

 結界の魔道具。

 他にも色々と家庭用から冒険に使えそうなものまで取り揃えてあり、その中のいくつかは俺が作ったのと遜色ないような魔道具がある中に、魔法陣の彫り方が悪く見えるような奴もちらほら発見できる。

 ちなみに鑑定魔法で調べた結果、俺のと遜色ないように見えるのはダンジョン産の魔道具らしく、それと比べると彫りが歪んでる方はこの店の店主だろうマイケル氏が作った物らしい。人とダンジョンで随分と技術力に差があるなぁ。


「どう?」


 展示されてる魔道具を眺めてると、従業員が期待を寄せた目を向けながら話しかけてくる。これは……この店主の腕前を聞いてると思っていいだろう。


「こっちはダンジョン産だから除外するとして、こっちはさっきの店主より腕が少しいいくらいかなー」


 ダンジョン産が高いのは納得できる。魔力がよどみなく流れるだろう魔法陣を見れば随分と長持ちするのは明らかだけど、その一方でマイケル氏が作ったろう魔法陣も同じ値段なのはちょっと納得いかないな。

 一方で、その差が分かってないのか、従業員が目を皿のようにして俺がダンジョン産だと言った物とマイケル氏が作った物とを交互に見てる。


「全然分かんない。教えて」

「……少しは自分で考えたら?」


 いちいち教えてやるほど親切な俺じゃない。賃金が発生するならまだしも、学生身分で大金は期待できないので無視。

 そんな事より……ひととおり眺めたけど、氷の魔道具は展示品の中には無かった。一応高価な魔道具って認識があるから表には出てないだろうと思ってけどその通りになってるとはね。


「すんませーん」

「はいなんでしょう」


 店員に声をかけると一瞬営業スマイルを見せたけど、相手が子供と分かるとあからさまに顔つきが変わった。どうやら対応する相手如何で態度を変える店員らしい。別に一生涯通うとかはまったくないんでどうでもいいけどねー。


「氷の魔道具って置いてる?」

「……非常に人気の品の為に入荷は未定です」

「おいてあったらいくらで売るの?」

「金貨300枚は頂きたいですね」

「ふーん……」


 ……嘘っぽいなぁ。とはいえ証拠もないんで追求は出来ないけど、あの「お前等みたいにみすぼらしいガキに買える訳ねぇだろタコ」って言われてる感じがして結構ムカつく。

 とはいえ、ここは金貨300枚……ぼったくってる可能性はめちゃんこ高いけど、ここでごちゃごちゃ言ったところで水掛け論にしかならんし、何より3流品をダンジョン産と同じ値段で売ってるのが気に入らんな。


「じゃあ次行くか」

「分かった」

「またのお越しをお待ちしております」


 そんな気欠片もないくせによく言うわと思いながら店を後にする。あれで貴族を相手にする商売が成り立つって……マジで魔道具作りってボロい商売だなぁ。


「次は?」

「あっち」


 従業員に案内されるがまま次にやって来たのは、さっきの店と比べて客層が随分と庶民寄り――というよりは武装集団が多いから冒険者向けの店なのかな?


「ここはどんな店?」

「売買する店」

「なるほど」


 つまり、ダンジョン産の魔道具を主に扱ってる店って訳か。


「色々なところ知ってるねー」

「当然」

「じゃあ当たりが出るまで付き合ってねー」


 さて、とりあえず入店。

 店内は人でごった返してる――ってほどじゃないけど、3割くらいが埋まってる盛況ぶり。武器を手にしてる冒険者の実力はよく分からんけど、魔法使いに関しては手に取るようにわかる。リーダーのトコの魔法使いとどっこいかちょっと上くらいと考えると優秀の部類なのかな?


「こっち」


 従業員に手を引かれて2階に行くと、どうやら下は買取所らしくこっちに魔道具がズラリって訳じゃないけど並んでる。

 それらを1つ1つ眺めてみると、魔法陣の彫りに歪みもなく幅も一定で描かれてるのはさすがって所かな。


「ここのは質がイイね」

「ダンジョン産だから」

「ダンジョンから魔道具って結構出るん?」

「出る」


 なるほど。そのせいもあってこうして多くの魔道具が店舗に並ぶわけか。確かに質はいいけど、内容は知識が足りないと自覚できる俺でも分かる物ばっかりだからか、結構雑に置かれてるイメージだ。


「着火。給水。送風。どこも同じのしかないなー」

「珍しいのはあっち」


 従業員が指差す先には、丁寧に棚に置かれてる物が数点と、斧を手に椅子に座ってるおっさんの奥に魔道具が1つあるんでまずは手前の棚に。


「石礫——ってどんな魔道具?」

「魔法の代わり。すぐ壊れる」

「なるほど。よく知ってんね」

「授業で教わる」


 ただの棒かと思えば杖替わりらしい。他にもリーダーが持ってた盾には及ばないけど似た感じの結界の魔道具や、威力向上なんて言うブレスレットの魔道具もあったのには驚いた。


「さて……」


 最後の魔道具に目を向ける。

 ああして邪魔な奴が居るって事は、あのおっさんは後ろの魔道具を守る存在と認識していいだろう。魔力を感じないんで魔法使いじゃないとは思うけど、これだけの冒険者が訪れる店でそんな役回りが出来るとなると腕利きなんだろう。


「ま。関係ないけどね」


 一応こっちは客だ。話を聞くくらいなら邪険にはされるだろうけど、問答無用で斧で唐竹割りぃ! なんて事にはならんだろう。だから従業員よ。俺の服の裾を掴むのやめれ。


「なんだ坊主」

「こんちは。その後ろの魔道具って何か聞いてもいいよね?」

「聞いてどうする」

「買うかもしんないじゃん? それとも知らないで守ってる?」

「フッ……氷の魔道具だ」


 来た………ッ! とうとう見つけたぜ氷の魔道具さんよぉ!

 見た感じは半球体。下部に隙間っぽいのが360度空いてるくらいしか分からん。表面に魔法陣が無いのを見ると、中にあるのかな? 出来る事なら今すぐ分解して魔法陣を拝みたいんだが、そんな大立ち回りをすると面倒な事になるのは確実。値段だけ聞いて今回は撤退しようか。


「ちなみにいくら?」

「聞いてどうすんだ?」

「興味本位じゃ駄目?」

「構わんだろう。金貨250枚だとよ」

「高っ。俺は100枚で買えるって聞いてるんだけど?」

「もうすぐ熱期が始まるからな。それに、こいつは今までのより高性能らしいぜ」

「ふーん」


 マジかぁ……聞いてた以上に値段が高いのにもびっくりしたけど、こっちってまだ熱期になってないのかぁって事の方がびっくりだよ。どうりでこのおっさんも従業員も薄着じゃないなぁと思った。やっぱうちの領地の異常気象ぶりはヤバいね。


「それでどうする? 買うのか?」

「無理」


 軍資金は金貨100だ。とてもじゃないが手は出ない。とはいえここに有るという事が分かったんで、転生姫に価格交渉してみるのも悪くないか? しかし、いきなり倍以上の値上げ交渉は横の狂信者が黙っちゃいないだろうなー。


「じゃあ」

「ああ」


 とりあえずこの店での最低限の確認は取れた。後は何軒か回ってどんなもんか調べれば今日の探索はおしまい。流石に1日で帝国までは無理だったわー。

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