第152話

「いくら何でもやり過ぎよ。この半分——いえ、さらに半分でもいいくらいだわ」

「今更変更は聞きませーん」


 それに、まだ大枠を作っただけだからな。ここから船を浮かべる水槽を作る必要があるけど、今の所はあのボートを浮かべる事が出来る程度のプールがあれば十分だろう。


「造形……こんなモンでどうだ?」

「い、いい感じだと思うわ」


 数秒で100メートルプールを作り、転生姫が同意したんで水を注いでいく。


「はぁ……話には聞いとったけど、坊ンはホンマにとんでもないわぁ」

「そうか? このくらい誰でも出来ると思うぞ?」

「あんたみたいなのがうじゃうじゃいたらその国が大陸統一してるわよ」

「はっはっは。自分を勇者と同じというだけあって大げさだなぁ」

「大げさじゃないわよ!」


 怒鳴ると広大な地下なんでメッチャ反響する。うるさいんで風魔法で耳を塞ぐ。


「とりあえずこんなもんでいいな?」

「あっという間に終わったわね……」

「信じられへんな。ワイ等ドワーフでもこれだけの地下造るんは何十年——もしかしたら100年以上かかるかもしれへんし、金貨もどれだけ必要か分かったもんやあれへんな」

「魔法って便利だよなー」

「「それで済ますな‼」」


 ううむ……何故叱られなくちゃいかんのか分からん。便利なのはいい事じゃないか。それに文句を言うなんて、ぐーたら道の鍛錬が足りない証拠だな。


「まぁそれはそれとして、これで依頼完了でいいか?」

「その前に船を出し入れできる場所が欲しいわ。人もね」

「あぁ……そういえばそうだったな」


 船の出し入れかぁ……。日本だったらクレーンとか床が上下させたりして搬入・搬出が出来るけど、ここじゃあそんな便利な物はない。

 かと言って魔道具を作ってやるつもりは毛ほどもない。なので地上からプールまでのレーンを作ってやるとしよう。一気に落とすと故障の原因になりかねんし、それをプールの端を坂にして繋げれば……OK。人は、歩けるんだから適当な場所に螺旋階段でいいだろ。


「こんなんでどうだ?」


 数分で完成だが、転生姫の感想はいかに?


「……とりあえず今はこれで問題ないと思うわ」

「なら地上に帰るか」


 船がない現状、実験場を作り終えたらやる事は何もなくなる。ってことでさっさと地上に飛び出すと、数人の騎士があたりをキョロキョロ見渡している中、狂信者だけがすぐ近くで剣を振り上げていた事にちょっとビックリしたくらいだ。


「お帰りをお待ちしておりました。姫様」

「それはいいけど、何だって剣を振り上げてる訳?」

「ここで姫様の匂いが途切れていたので、お迎えに上がるために土掘りをしようとしていたところにございます」

「そこで地下に行ったって思考回路が怖ぇよ」

「度し難いほど愚かだな。この私が姫様の御香が地下に向かって進んでいる事が分からぬとでも思っているのか!」

「もっと怖ぇわ!」


 さすが狂信者だな。とんでもない事をさも当然の様に宣言してるし、そんな変態発言に対して転生姫が心底嫌そうな顔をしてるのに全く気付いてないのがまた狂気さを増大させる。


「まぁいいわ。そんな事より実験場が出来たから船を運び込むわよ」

「了解いたしました。聞いたか貴様等! 直ちに姫様の意を叶えるために行動せぬか!」

「「「かしこまりました!」」」


 狂信者の怒声に、下っ端騎士が逃げるように門の方に走り去った。どうやら俺の出番はここまでみたいだな。


「じゃあ何日かしたら保留にした答えを出しにまた来るわ」

「あっそ。じゃあその時に結果報告を聞かせてあげるわ」


 特に聞きたいとも思わないけど、どのみち金か魔道具かを言いに行くときに強制的に聞かされるっぽいから一応「楽しみにしておく」といって親方の所へ。


 ——————


「おいーっす」

「なんや疲れた声やなぁ。何かあったんか?」


 いつも通り親方の所に顔を出すと、開口一番そんな事を言われた。まぁ、余計な運動をしたんで疲れてると言えば疲れてるけど、よく分かったなー。


「ここに来た途端に帝国の姫に捕まってな。色々やらされた」

「あー。そらご苦労様やな。ほんならすぐ商品持って来るから待っててや」

「頼んだー」


 さて、それじゃあララが戻って来るまでのんびりとぐーたらさせてもらいますかね。

 土魔法でソファを作り、それに寝転がってぼーっと天井を見る。あー……そういえば綿を買いに行く予定だったの忘れてたなー。一応金はあるし、帝国の首都や王都にでも行った時に探してみるか。


「……ほんの少し目ぇ離しただけでよぉそこまでだらけられるな自分」

「これでもぐーたら道段位者だからね」


 いつの間にか戻ってたララの手には大量の調理器具が。お早いお帰りで。


「相変わらず働き者だねぇ」

「リックが働かへん過ぎなだけやろ。ほれ、さっさと帰りたいんやったら起きて仕事せなあかんでー」

「やれやれ……」


 もうちょいぐーたらしてたかったけど、ララに無理やり起こされるんで仕方なく体を起こして調理器具に鑑定魔法をかけ始めると、奥の方からずしずしという足音が近づいて来て、そのまま俺とララの間にどっかと腰を下ろす。


「おっす親方。相変わらず子供が泣き出す顔をしてるねぇ」

「誰のせいでこないな顔しとる思うとるんじゃ」


 ギロリと睨みつける顔面力は相当なものだけど、おっさんの俺には全く通じない。何せこれより怖い怒ったエレナと何度も対峙してるんだ。あれに比べたら親方はウルフと出会ったくらいでしかない。


「とりあえずこれね」


 いつも通りクソ樹の枝を亜空間から取り出して手渡すと、普通の子供だったら泡吹いて倒れるんじゃないかってくらいに怖い顔が少し離れた。親バカも度が過ぎると嫌われると思うんだけどなー。


「……受け取っとくで」

「はいはい。それじゃあ商品頂戴」


 親方から鍋だの包丁だのを受け取り、その1つ1つに鑑定魔法をかけて調査。最高品質の物だけをしっかり選んで亜空間に押し込む。まぁ、9割9分は文句のつけようのないモノなんだけど、今回は1つだけ品質の落ちる物が混じってた。


「これは要らない」

「おう。すまんかったのぉ」

「いいよいいよ。誰だって完璧に行動し続けるなんてできないんだからさ」

「それをせにゃいかんのがワシの役目じゃがのぉ」

「この間随分と失敗作ばっかだったクセに何言ってんのさ」

「じゃかぁしい! あれは……精霊が機嫌損ねたんが悪いけぇ――ん? なんじゃ」


 なんて言い訳がましい事を言った親方が、突然明後日の方に顔を向けた。どうやら件の精霊に話が聞こえてたみたいで抗議でもしてんのかな?


「なんじゃい。事実じゃけぇ文句言うたかて失敗作じゃったもんは失敗作じゃ」

「ワシのせいじゃと? オドレが枝がない程度で腑抜けたんが悪いんじゃろうが!」


 精霊関係の才能がないから俺にはその姿が見えないから、親方が虚空に向かってキレる姿はクスリでおかしくなった人っぽく映る。

 それがだんだんとヒートアップしていき、そろそろ爆発するなーと思ったら――


「ギャーギャーやかましいでアンタ等‼」


 ララがキレました。まぁいつもの事です。


「どっちが悪いかやない。どっちも悪いに決まっとるやろアホ共が!」

「し、しかしやなララ」

「しかしもあれへん! オトンもあんたも職人ならちゃんと仕事しぃや!」


 おぉ怖。とはいえララの言ってることは何一つ間違っちゃいないだけに親方も精霊も文句はいえんだろうというのに、どっちもアホなのか何か言ってはマシンガンの様に罵詈雑言が叩きつけられてる。

 そんな2ドワーフと1精霊を無視して亜空間に全部の調理器具を放り込んで任務完了っと。


「じゃあ俺はそろそろ帰るね」

「ほならまた来月」


 さーってと。後はルッツ――は王都より遠い女貴族のトコに行ってるからまだ無理かな? ってなると今月も副会頭だろうが来るまでのんびりゆったりさせてもらいますかね。

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