第149話
とりあえず電話やメールは速攻で暗礁に乗り上げた。そもそも空間魔法でそんな事が出来るかも分かんないからなー。買うにしても金貨が吹っ飛ぶなんて散財が出来るような余裕は――あるにはあるけど、確実にぐーたら出来なくなる程の面倒が押し寄せる未来が待ってるからやらん。
「ちなみにだけど、フェルトはそのダンジョンの探索できるの?」
「当然じゃろう。本気を出さずとも小僧が望んでおる魔法鞄を持ち帰るなぞ出来ん訳が無かろうて」
胸を張って自信満々にそう答えるフェルトに「じゃあ取りに行けよ」と言いたいが、言ったところで無駄なのは分かってる。
俺がぐーたらを命と同価値に置いてるのと同じように、フェルトもクソ樹の傍で暮らす事を命と同価値かそれ以上に置いてるからね。ちょっと離れたりする程度なら問題なくても、ダンジョンでいつ出るかも分からん魔法鞄の探索をさせたら狂い死にするかもな。おまけにその間も薬草栽培の手も止まる。
「じゃあ諦めるしかないんじゃない?」
「むぐぐ……」
そんな訳でお話は終わり。雑魚エルフが籠一杯に薬草を積んで近づいてきたから面倒な鑑定の時間だ。
「この量で問題ないな?」
「量はね」
フェルトが積んだんであればある程度はその品質について信頼できるけど、雑魚エルフはまだまだ。無魔法で籠から薬草を持ち上げて広げる。そして鑑定魔法でぐるっと確認。基準に満たないのは籠に。満たしてるのは亜空間にそれぞれ放り投げる。
結果、全体の8割くらいは基準を満たしてたけど無駄が多いなー。
「まだまだだね」
「情けないわい! この程度の薬草の選別も出来んとは、それでも貴様は誇り高きエルフか!」
「申し訳ございません……」
当然の様に始まる説教。当然だな。雑魚エルフの出来不出来如何ではここから追い出されるやもしれんのだから熱を入れるのは間違ってないけどそう言うのは仕事が全部終わってからにしてほしい。
「フェルトー。説教はいつもの剪定やってからにしてくんない?」
「なんじゃと? あれだけの量の伐採をしておきながらまだ大樹様の枝葉を求めるというのか小僧!」
「そりゃそうでしょ」
クソ樹の枝は家賃代わり。前に大量にぶった切ったとはいえそれとこれとは話が違う。払うモンはちゃんと払ってもらわんと住まわせる訳にゃあいかんのよ。
……まぁ、大前提としてクソ樹は俺のモンなんで、その枝を家賃替わりに支払うって自体が変なんだけど、おかげで薬草育ててもらってるんで気にしない事にしてる。
「……あそこじゃ」
「りょいかーい」
フェルトの指示のままに枝を切り落とし、亜空間に収納——するとどれがどれだかわかんなくなるんで無魔法でキャッチ。後はクソ樹に魔力をゴリゴリ押し込んでここでの用事はもうおしまい。
「じゃあまた1月後に」
「待たんか。少々困っておる事があるのをすっかり忘れておったわい」
「困りごと?」
フェルトにしては珍しいな。面倒事なんて大抵独力で解決できるくらいには強いし魔法も使えるのに、俺に協力要請なんていったい何やらされるんだろうと後をついていくと、足を止めたのはいつも貯水に使ってるタンクの前だった。
「なに? 困り事って給水?」
「それもあるが最近妙に水が鉄臭くてのぉ。もしかしたら中に土無能の死体でも入ってるやもしれんから確認してくれんか?」
「えぇ……」
いきなし物騒な話が出てきたな。そもそも鉄臭いってだけで真っ先にドワーフの死体が入ってるて事に直結させるのはどうかと思う。大方、鉄で作ったから錆びただけだろうと思いつつ土魔法で給水タンクを開いてみると、予想通り内部がそこそこ錆に覆われてた。
「なんじゃ奴等の死体がないではないか」
「ある訳ないでしょ」
普通に考えて、こんな辺鄙な場所に来ればフェルトだろうと雑魚エルフだろうと気付かない訳がないし、何の理由があってここを死に場所に選ぶんだよって事にもなる。
でも早すぎないか? 鉄で作ったとはいえたった数年で海水でもないのに錆びるって普通に考えてあり得ない。それこそ塩でも放り込んだりしない限りこうはならないと思うんだけどなぁ。
「なんかした?」
「なんかとはなんじゃ?」
「中に塩を放り込んだとかしてないかって聞いてるの。あれ? というかそう言うのってどうしてんの?」
今まで考えもしなかったな。塩は人体にとって必要不可欠。それはエルフだろうときっと変わんないと思うから、いったいどうやって手に入れてたん? って事。ざっと見た感じ、店がある訳ないしこんなところまでやってくる奇特な商人が居る訳でも無し。改めて実に不思議だ。
「昔は山を降りて買いに行っておったが、今では孫に任せておるわい」
「へー。じゃあその塩をこの中に放り込んでたって事?」
「どうなんじゃろうな? 管理も奴に任せておったから知らん」
「じゃあ聞いてみるか」
もしそうなら軽い罰でも与えたい。そこそこ頑丈に作ったはずの貯水タンクをボロボロにされたんだからな。
「おーい。ちょっといいかー」
薬草園で作業をしてる雑魚エルフに声をかけると、嫌そうな顔をして近づいてきた。無視したら何されるか分かったもんじゃないと思ったのか。それとも傍に居るフェルトから説教を受けるのが嫌だったのか。
「なんだ人間。馴れ馴れしく話しかけてくるな」
「まぁいいじゃん。ちょっと聞きたいんだけどあそこにある水瓶に塩とか入れた?」
「あぁその話か。始祖様にも尋ねられたがそんな事をするわけがないだろう。あれは飲み水であり入浴用の水だぞ。不純物を入れればどんな目に合うか分からんだろう」
「だよなー」
そもそも違和感があれば真っ先に雑魚エルフが疑われる。そして特段ボロボロになってる様子がないとなると疑惑が晴れている……当然っちゃ当然か。
「そもそも貴様の腕が未熟だったのではないか?」
「うーむ……それはあるかも」
雑魚エルフ如きに未熟だと言われるのは非常にムカつくが、別荘を建てたのも結構前だからなー。錆びちゃっても仕方ないのか? そういう詳しい事はよく分からん。
「まぁいいや。なら錆びないように新しく作り直せばいいだけだし」
今の実力なら錆にも強い純鉄くらい簡単に作れるし、ミスリルもちょいとパクってあるから表面に薄くコーティングすりゃあより万全だろうて。
とりあえず、理由は分からんけど新しく貯水タンクを作り直すためにもう1回別荘の裏手に戻り、亜空間から鉄とミスリルを取り出していざ作業を始めようかという所で――
「なら今のより倍は大きくしてくれんか?」
なんて事をフェルトが言って来た。前の奴も結構なサイズだったと思うんだけど、フェルトには不満があるらしい。しかも、使うのは鉄臭いと言って貶すドワーフの領分の土魔法だからエルフにはどうにもできなかったからここぞとばかりの注文ってか。
「別にいいけど……そんなに使う?」
「うむ。小僧に勧められた風呂が存外気持ちよくてのぉ。今では日に2度は入らんと落ち着かんようになってしもうてのぉ。じゃから今以上に水を保管しておきたいんじゃよ」
出会った頃は長旅をしてたからか薄汚れてた。そんなんで薬草を任せられるかと無理やり風呂に入れて綺麗にした結果、フェルトは風呂にハマったようで、こっちとしても清潔が保たれるのは願ってもない事だから、大きく作るのに異論はない。
「もう注文はない? なければ作るけど」
「ワシは大きくなれば文句はないが、そっちはどうじゃ?」
「そうですね……排水量を増やしてもらいたいですかね。始祖様の入浴に際してあの量では些か時間がかかりすぎる」
「なるほどね」
難しい注文でもないんでパパっと作り上げるついでに魔道具化しちまおう。そうすりゃいちいち水の補充をする手間が省けるし、フェルトでも雑魚エルフ――は出来るかどうか知らんけど、俺がやんなくてもよくなるってのはいい事だ。
「なんじゃそれは」
「水魔法の魔法陣。面倒だから魔道具にしちゃおうと思ってね。フェルトくらいなら魔石への魔力補充なら出来るでしょ?」
「もちろんじゃわい。しかし魔道具とはこうも簡単に出来てしまう物なのじゃな」
「はい完成」
完成した貯水タンクは真四角で、普通の蛇口と風呂用の大口の蛇口を備えて、上部には魔道具化した蓋が置いてあり、そこに魔石をセットすれば自動で水が補充されるようになった。
「おお! これは便利じゃわい。よくやったぞ小僧」
「そりゃよかった。そいじゃあまた1月後にねー」
「おう。またのぉ」
さて、ここでの用事が終わったけどまだ親方の所とキノコのトコが残ってる。さすがにそろそろあの迷惑な姫さんは帰ってくれてるだろう。
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