第148話
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
「龍のくせにやかましいぞー。大人しくしてないと肉までえぐれるぞー」
鱗だけで勘弁してほしいという始祖龍のお願いを聞き入れた俺は、結界に閉じ込めた龍の鱗を魚の鱗を取るがごとくはぎ取っている。
まぁ、無理矢理採ってるんで当たり前だけど滅茶苦茶痛いらしく、せまっ苦しい結界内でどったんばったん暴れてる。モチロン血も少量出るんで下の方は真っ赤。意図せず違う素材が出てきたけど、横で取んじゃねぇぞ? って目で見て来るんでそっちに関しては無視しよう。
そうして、亜空間にたっぷりと鱗を収納したんで結界を解除してやる。
「ググ……グ」
全部は採り切れんかったけど、半分近くの鱗を採取したから最初と違ってメッチャみすぼらしい姿になり果ててる。これじゃあワイバーンの方がよっぽとマシな姿してるよなーと思ったけど口には出さないでおこう。
「いやー。大量に採取したはいいけど何に使うべ」
真っ先のに思いつくのはやっぱ武具だろ。ゲームでもドラゴンの名を冠する武具の類は大抵高品質。この世界でもテンプレだろう。
1つ手に取ってみる。大きさはまな板くらい。表面はザラザラしてておろし金の代わりとして使えそうなうえに硬いのにめっちゃ軽い。発泡スチロールかってくらい軽いのに岩を殴りつけても傷一つ入らんのはさすドラと言ったところか。
とりあえず親方行きだな。加工出来る腕前があるかどうか知らんけど俺の知る1番の腕利きだからな。全任せで。
「確かに採取を許しましたが、ここまで取る必要ございまして?」
「どうせなら目一杯とらないとって貧乏根性がそうさせたんだよ。これで用が終わりなら帰るけど?」
一応始祖龍が言う呼び出しに応じた以上、特に用はない。今のところ魔石は十分量の確保が出来てるし、俺の探知の網に面倒そうな魔力はない。であればさっさと薬草を受け取って調理器具を受け取ってルッツの来訪をぐーたら待っていたいからな。
「そう……ですわね。このお馬鹿さんもここまでやられればかなり大人しくなると思いますわ」
「ま。また何かあったら有料で手伝ってやるよ。楽勝だったし」
この程度であれば労働にギリギリ片足突っ込んだくらいで済む。何よりリターンがおっきいんで、謝礼次第では聞き入れてやってもいいってレベルだ。
「……まぁ、また何かあったらあの場所に居りますわ」
「別に構わないけど、よくフェルトが許可したよね」
「本当に苦労しましたわ」
だろうなー。フェルトはクソ樹を中心に生きてる。あれを害する可能性があるものは根こそぎ滅ぼしてやろうと本気で思ってるのは今までずーっと見てきたからなぁ。何もしなくてもこの雑魚龍が暴れに来るかもと考えれば、邪魔・即・殺ともなりかねなかったんじゃないかなー? よく生きてたなマジで。
「次からは気を付けなー、まったねー」
って訳で転移で始祖龍の山から別荘に帰って来ると、近くにいたこの世の全てを呪い殺さんばかりって感じの顔をしたフェルトと目が合った瞬間——
「今まで何をやっておったんじゃ小僧!」
魔力を乗せた怒声を叩きつけられた。モチロン薬草に影響が出ないように結界を広めに展開する事は怠らない。
「なにって……普通にぐーたらしてたけど? どったのよ」
俺がやる事と言えばそのくらいなんで普通に答えると、お腹を押さえて睨んできた。本当に何なのよ。
「全部貴様のせいじゃ! 小僧がさっさと来んからワシがこんな目に合うてしもうたんじゃぞ!」
「まだクソ樹切った事を根に持ってんの?」
あれから結構経ってるってのに、いつまで根に持ってんのかね。どうせ数か月もすりゃ新しく生えてくんだから、エルフからすりゃ一瞬だろうにそこまで怒らんでもいいと思う。ストレスはぐーたらの大敵です。
「違うわ! あの駄龍が居座っておった事を言うておるんじゃ!」
「え? 俺のせいなん?」
「当然じゃろう。奴は小僧を待っておったんじゃからな」
……あー。そういえば雑魚エルフからもそんな事言われてたっけ。そうなると全面的に俺が悪いと思わんくもないけど、だったら追い出せよと思うのが俺だ。しかも始祖龍との実力差はかなりある様子。出来ない事じゃないだろうに。
「じゃあ追い出せばよかったじゃん」
「無理じゃな。あの頃のワシは非常に気が立っておった。それこそ殺してしまうほどには加減が出来ぬほどに荒んでおったからのぉ」
「まぁ、分からんくもないしよく思いとどまってくれたよと称賛するよ」
始祖龍は大事な魔石製造機。これが失われる事で俺の反感を買うよりは、胃を痛めながら来るの待つ方がいいと判断したわけか。そのくらいの理性があって助かった。
「それも今日までなんじゃろ?」
「一応そのはずだよ」
大量の鱗を採るために相当に痛めつけたからね。トラウマにでもなれば余計なちょっかいをかけてくる事もないし、それで始祖龍がここに居座る敵な迷惑もしなくなると思う。
俺としては龍の素材が欲しいんでちょくちょく来て欲しくはあるけど、売れる予定のない高級素材より引く手数多の低額素材を大量に売った方が儲けにもなるし余計な連中が来るような事も無くなるからなー。
「おい小僧。これからは毎日ここに来るんじゃ」
「嫌だよ面倒臭い」
いきなり何を言うのかと思えば……何で俺がそんな面倒な事をしなくちゃいけないんだか。ここ最近は月1のペースから外れた期間に足を運ぶことが増えたけど、基本的には動きたくない人間な訳よ。だから無理。
「それじゃったら住処の場所を言え。何かあればそこに居る孫を向かわせる」
「迷惑でしかないから言う訳ないでしょ」
エルフがあんな荒廃した村にやって来るってだけでも異常事態なのに、王都に1回行っただけの俺を尋ねてやって来るってのが、さすがにエレナやヴォルフにおかしいと思われかねんし、そもそもここに来るには今じゃ転移1発で済むけど結構な距離がある。
大まかにしか分からんけど、この場所を見つけるまで転移を少なくとも100回はしてる。1回数百メートルだとすると約数百キロ……とてもじゃないけど馬車だの徒歩だので1月以内にたどり着ける距離じゃない。
「じゃああのアホ龍が迷惑かけに来たらどうしろというんじゃ!」
「どうって言われてもねぇ……」
無視が一番いいだろうけど、フェルトからすれば始祖龍が居るだけでストレスになって、それが薬草の品質に影響が出る。そうなると儲けが減るんでこっちとしても困る。なので一緒にいい解決策はありゃせんかねと頭を悩ませる。
転移は俺しか使えない。だけど毎日始祖龍が迷惑を持ってくるかどうかの確認をするのは面倒臭い。電話とかメールが魔道具で代用できりゃ話は違ってくるんだけど、生憎と魔法陣が分からんのよねー。
「まぁ、とりあえずしばらくは用がないって言ってたから、大丈夫じゃない?」
「明日またやってきたらどうするつもりじゃ! どうにかせんか!」
「それなら空間魔法の魔法陣を探しといてよ」
足りない頭で考えついた解決策に必要な物を要求すると、フェルトの般若みたいな顔があっという間に苦虫を噛み潰したみたいになる。それだけでそれがどれだけ面倒臭い物なのかがよく分かるな。
「無理?」
「そうじゃなぁ……空間魔法が付与された魔道具があればいいんじゃろうが、そう言ったモンはダンジョンのかなり深部でしか手に入らんからのぉ」
それも、その辺にある難度の低いダンジョンじゃなくて、何百年と生き続けた高難度ダンジョンじゃないと駄目らしい。当然手に入れるためには金貨・白金貨が吹っ飛んでいくとの事。
「じゃあ取って来てよ」
「嫌じゃ。ワシは大樹様のお傍を一生離れはせんと誓ったんじゃ」
「じゃあ雑魚エルフは?」
「あ奴1人では無理じゃよ。魔法鞄が出るようなダンジョンを探索するなら、少なくとも銀級の冒険者が10人が必要じゃからな」
ふむふむ。となると、空間魔法の魔法陣を手に入れるためにはギンとかよりも強い冒険者が10人は必要な訳か……大変だなー。
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