第145話
「ふあ……っ。寝るか」
キノコの里の改修を終えて昼飯を食ったら、食事休憩として夕方までぐーたらすっかと裏庭に寝転がる。あー……ハンモックがないのが悔やまれるなぁ。ルッツが来るまで待ってればいいやとか思ってたけど、より高いぐーたらを満喫するにはやっぱりハンモックは必需品だな。
別の方法……ウォーターベッドや人を駄目にする奴なんかが思い浮かぶけど、耐水性のある袋はないし、あの独特の感触のビーズも作り方が分からん。あれがあればきっと俺のぐーたら道はもう一段——いや、もう二段は高みに至れる気がする。
何かいい方法はないかなーと芝生に寝っ転がりながらボケーっと考えてると、ゲイツが俺の顔を覗き込むように立ってた。これは何か仕事を押し付けられる予感しかしないな。
「忙しいんだけど?」
「こっちもだよ。これをおばばの所に届けて」
出てきたのは、キノコのトコで貰った奴だ。鑑定魔法嘘つかないとはいえ見た目的にマジで毒っぽいからおばばに調べてもらうのはいい判断だと思うけど、それを俺に押し付けるのはいい判断って言えないね。
今の俺は起きたくもない時間に起き。かなりの労働に勤しんだんだ。これ以上何かするのはぐーたら道ではご法度。俺しかできない事じゃないならなおさらだろう。
「別にサミィ姉さんでも良くない?」
ゲイツは書類仕事。
エレナは体調不良。
俺はぐーたら。
となると残ってるのは自ずとサミィだけってなる。1日中家に居るって訳でもないから頼んだところで嫌な顔をしないで引き受けてくれると思う。
「サミィ姉さんにはすでに村だから」
「チッ。逃げたか」
こんな事になるなら昼飯の時に言っておくんだったな。あの時はさっさと飯を食い終わって1秒でも長くぐーたらを満喫しようという事しか頭になかったからな。少し前のお俺を説教したいな。
「逃げたんじゃなくて普通に出かけただけだから。今はリックしかいないだろう?」
「じゃあ明日でも大丈夫」
別に茸はこれが最後って訳じゃない。ルッツが来た時に収穫に行けばフニィほどじゃないけど多少は融通してくれるって予定だからな。おばばには来月からこういうキノコ貰えるよって報告しときゃ十分。
「そういう訳には行かないよ。これも事業になるなら報告書にまとめないといけないからね」
「急ぎの用じゃないでしょ?」
確かに必要だろうけど、報告会が始まるのはほぼ1年先。書類だったらそれまでに作っておけば何の問題もないし、ヴォルフに報告しておけばいつか作るだろ。
「早め早めに済ませておかないとすぐ忘れるだろ」
「む……」
痛い所を突く。確かに記憶力が悪いけど、これでも覚えてる事はちゃんと覚えてる。主に俺に益がある事が多いけど、その他もゼロって訳じゃない。そもそもキノコは金になる可能性が極めて高いんで忘れる可能性は低い――と思う。
「ほら。だったらすぐに終わらせた方がいいだろう?」
「別に明日でもいいじゃん」
ゲイツの言い分は理に適ってるけど、俺はそれでも動きたくない。それに、特別遠い用事って訳じゃない。おばばの所なら、俺以外の村人なら大体30分もあれば余裕で到着する距離だから明日でもいい。そうなればサミィに任せられるしね。
「おばばと普通に話しできるのはリックぐらいだろう」
「そう? 父さんとかグレッグもしてると思うけど?」
ガキ連中は確かに近寄らんし、大人連中も世話になってるときはガミガミと説教されてるから近寄る人間は確かに少ない。唯一の例外は……リンかなぁ。なんでか知らんけど毎回伝言を持ってくるくらいには関係性が深いし普通に会話が出来てるっぽいから奴に頼もう。
「じゃあリンに頼んでおいてよ。あいつなら普通におばばと話が出来るからさ」
「……はぁ。そこまで動きたくないとは」
「今日は朝とも言えない時間から起きてたからね。生半可な理由じゃない限りは晩御飯までぐーたらを止めるつもりはないよ」
朝シャキッと起きて緊張から解放された分、眠気が結構来てるんだがこういう時の表情の変化を家族を始め誰も全く理解しないのが解せない。
「分かったよ。じゃあ明日サミィに頼んでおくよ」
「ん。じゃあ俺は寝るね」
いつまでも起きてたくない。今は1秒でも長くぐーたらライフすやぁ……。
——————
「リック。もうすぐ夕飯の時間だよ」
「んが? もうそんな時間かー」
ゲイツに起こされて背のび……ふぅ。多少は寝不足が解消された感じはするけど夕飯が終わったすぐ寝るからそれで補填しよう。
「おはよー」
「おはようリック。良く寝れたかい?」
リビングに行くと苦笑いをしてるサミィの姿を見ると自然と眉間にしわが寄る。
「えーっと、なぜボクを睨んでいるのかな?」
「おっと失礼」
ついやってしまった。悪くないと知りつつもサミィのせいで貴重なぐーたらタイムがちょびっとだけ削られたからね――で思い出した。今の内にキノコの事を言っておかないと。
「そんな事よりだよサミィ姉さん。明日おばばのところ行って来てくれない?」
「別に構わないけど、何をすればいいんだい?」
「ゲイツ兄さん」
「これを届けてほしいんだ」
どうやら丁度持ってたらしいゲイツはサミィの前に毒っぽいキノコを提示する。
「……誰かを毒殺でもするのかい?」
「違うよ? 滋養強壮の薬に使えるんだって貰って来たんだけど、おばばに確かめてもらおうかなって思ってたんだけど、忙しくて忘れてたんだよ。ゲイツ兄さんがね」
「「……忙しい?」」
む……どうやら俺のグーたらタイムが忙しくないと感じているらしい。ここは、いかにぐーたらするのが忙しい事なのかを1つ教授してやらねばならんようだ。
「リックちゃーん。お手伝いして頂戴ー」
「ふえーい」
チッ。エレナの邪魔が入ったか。とはいえまだ体調不良のままだろうからここは大人しく引き下がるとしよう。また機会があれば2人にも如何にぐーたらライフが忙しいかを理解してもらおうじゃないか。
「お待たせー」
今日の夕飯は昼の残りだ。薄いパンは簡単に焼けるしケバブは残したままだったんで、そぎ切りにしたのをフライパンで温めれば同じメニューの出来上がりって訳。
「「「いただきます」」」
うん。今日も今日とて飯が美味い。欲を言えば日本人として醤油が欲しい。プラス砂糖で甘辛い味付けをすれば少しだけ獣臭く感じるこの肉もかなり美味く感じるんだけどなぁ。
「今日の料理は見慣れない物だけど、どこで知ったんだ?」
「王都でちょろっとねー」
見覚えのない料理に、ゲイツが俺の方を向きながらそう問いかけるんで伝家の宝刀を惜しげもなく切る。王都は広くて人の出入りも激しいので、適当言ってごまかしたところで確かめるすべなんてありゃしないからな。
「普段物覚えが悪いのに、こういう事だけは本当に良く覚えてるものだね」
「いい匂いがしてたからねー」
日本で食った時も実に美味そうな感じだったから覚えてた。これはそれに遠く及ばないけど、物がない村で作ったにしては上出来だろう。
「王都で何をしてたんだよ」
「ぐーたらとはかけ離れた生活。二度と行くことはないかなー」
石材探しに飛び回り。
教会まで足を運んだり。
王城で姫の世話を押し付けられたり。
ゴーレム退治に砂糖農場のハウスを作るのに王都の外にも出かけたりとマジで労働に労働を重ねて酷い目に合った。表立ってであれば本当に2度と行くつもりは欠片もない。行けば必ずぐーたら神からの天罰が下るだろうし、最悪降格も視野に入る。それは誰であろうと許されるべきものじゃあない。
しかし。転移を使ってコッソリ行く予定はある。金はないが換金できそうな物は大量に亜空間に仕舞ってあるんで、いざ物を買うには困らない。
それを元手に香辛料を買ったりオーク肉とかワイバーンの肉——は吐いて捨てるほどあるからいいか。後は米だな! 絶対にあると思う。多少不味かろうが食いたい。これはぐーたらと同等の欲求だ。っぱ日本人は米だよ米!
「なぜ嬉しそうなんだい?」
「ん? もう少しで朝までぐーたら出来るからね」
「毎日しているじゃないか」
「サミィ姉さんは知らないと思うけど、俺は今日……日が昇る前に起きたんだよ」
自慢気に告げるとサミィがびっくりした顔をしてエレナとゲイツを交互に見やる。当然2人とも知ってるんでその視線に対してなぜか苦笑いを浮かべながら頷く。
「いったい何があったんだい?」
うん。普段の俺をよーく知るだけに愕然とするサミィの顔には大変満足だが、理由を告げる訳にはいかん。エレナにビビって早起きしましたなんて説教案件だろ。
「分かんないから早く寝るんだよ」
適当に誤魔化し、ササっと夕飯を食べ終わってベッドにもぐりこんだ。
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