第144話
「さて、それじゃあ行こうか」
朝飯を食い終わって、さて数時間ぐーたらしようかなーと思ってたらすぐさまゲイツが詰め寄って来た。
「えーもう? 少しくらいぐーたらしてもよくない?」
食休みってのは大切だ。いきなり動くと体に負担がかかるとかなんとか聞いた事があるんで、どうせ往復で1時間もかからんのだから出来れば数時間はゆっくりしたい。
「どうせ道中ゆっくりできるでしょ。それより滞在期間が限られてるんだから、出来る事をやっておかないと」
「別にそこまで根を詰めなくてもいいと思うけどなー」
働き者なのはいい事だけど、それが行き過ぎて倒れられるとしわ寄せがこっちに来そうだから、それとなくのんびりゆったりの心を勧めるが、まだ俺が領主になるかもとか心のどっかで思ってんのかな?
「リックがだらけ過ぎなんだよ。ほら、用意して」
「ふえーい」
ゲイツに背中を押されて嫌々外に出て土板を召喚。乗せてもらってすぐ出発。
「久しぶりに乗るとやはり早いな」
「そう? これでも抑えてるつもりだけど遅くする?」
大抵の男連中は怖がりだからな。村を飛び越えた後は一応低空を維持して持続40キロ程度で移動してる。1人だったら倍以上で飛んでるしね。
「いや、大丈夫」
「そう?」
「それよりも、報告にあった水路が見当たらないけど」
「ああ。それは途中で土埃が入ったりするの嫌なんで地面の下にあるけど見る?」
「出来るなら」
別に難しい事じゃないんで、一旦止まって地面からパイプを引っこ抜いてゲイツに見せる。
「ふむふむ。こうなっているのか……強度は?」
「やってみる?」
チラッと腰を見れば剣を下げてる。きっと少ない仕送りで購入して学園で使ってる物なんだろう。グリップ部分が少しだけ使い込んだ跡がある。
「それじゃあ少しだけ」
土板から降りたゲイツが剣を抜き一閃——したと思う。ギンッ! って感じの音が聞こえた時には適当に作ったパイプに傷がついてたからな。
「どんな感じ?」
「悪くないね。これなら並大抵の事じゃ壊れないと思う」
確認が済んだんで地中に埋める。もちろん傷は直してな。
「うーん。やっぱり学園の生徒より優秀だね」
「そう? 普通だよ普通」
「一度リックも見学に来るといいよ。実力の差が分かるから」
「どーでもいいよ」
俺のぐーたら道において、他人の実力を知っても何の意味もないと考えてる。別に強くなりたいとか他の魔法使いのいいとこを学びたいって欲はこれっぽっちもないからね。
「やれやれ。相変わらずぐーたら以外に興味ないんだね」
「それが俺のいい所だよ。ゲイツ兄さん」
「確かに。そうじゃなかったら今頃この地から人が居なくなっていたかもしれないからね」
それは間違いないだろう。今では俺が色々作ったりしたから食料も潤沢だからひもじい思いもしないでみんな笑顔だし、毎年のように出てる冷期の凍死者はいなくなったから微々たる速度で住民が増えてくれる。
これは全て俺の魔法のおかげ。そう考えると、おれがぐーたら道の極致を目指さない人間だったらここは本当にゲイツの言うとおりになってたかもね。
「まぁ、ここは余計な奴が来ないからずっと暮らすと思うよ」
「それはありがたいね。成人した後も、時々でいいから手伝ってくれると嬉しいよ」
「気が向いたらねー」
前世みたいなブラック労働はこりごりだからな。気の向くままにのんびりぐーたら道を究め、その時々で頼まれた仕事をする。そんなお気楽生活で人生を終える予定だ。
——————
「見えてきたよー」
「随分と大きな柵……でいいんだよね?」
「うん」
まぁ、柵というには高いから疑問視するのも仕方ないとは思うけど、相手は魔物だからな。どの程度の跳躍力があるか分からん以上は安全に安全を重ねるのは悪い事じゃない。何せ金になるキノコと荒れ地の緑化がタダで手に入るんだ。あのくらい訳ないっての。
そんな柵の周りには、6匹くらいのウルフが確認できる。村中で食うには少ないけど、ないよりマシだ。
「お? 本当にウルフも居るんだね」
「そりゃそうだよ。邪魔だから狩っちゃおうか」
「少し運動がしたいから譲ってもらっていいかい?」
「別にいいよ」
動く必要が無い提案なら積極的に受け入れるのがぐーたら道の流儀なので、ウルフの群れに突っ込まないでゲイツを射出するとなんか文句を言ったっぽいけど無視。
一方で、ゲイツの叫び声を聞いてようやく何かが来たと理解したらしい。そして、吠えながら群れとなって一斉に襲い掛かったけど、次の瞬間には首と胴体が刎ね飛んでた。アリアもすごいと思ったけど、あっちはまだほんの少しだけ確認出来るけど。ゲイツの太刀筋はまったく見えん。
「凄いじゃん兄さん。何したのか全く見えなかったよー」
「まぁ、ウルフ程度ならこのくらい簡単だよ。これがオークやオーガになると本当に手ごわくてね」
なんて話を聞きながら、俺は水魔法でウルフの血を一滴残らず搾り取り。風魔法で毛皮を剥いで。氷魔法でキンキンに冷やして。土魔法で作った箱に詰め込む。
「よし! それじゃあ帰ろうか」
「何言ってるんだ。ちゃんと中も調査しないと報告書に書けないだろう」
「ふえーい」
渋々柵の一部を広げて中に入ると、相も変わらずキノキノコ共がわらわらと居る。前来た時と比べてまた数が増えてる印象だ。人口——じゃなくてキノコ密度が高すぎて住みにくい場所になってる感じだ。
そんな群れにゲイツが若干引いてる。
「凄い数だな。こんな荒れ地のどこに居たんだ?」
「水場を与えたら勝手に増えたんだよ」
「はぁ……キノキノコは数が多いと聞いているがこれが理由か」
こいつ等は水があれば際限なく増えるらしい。さすがに増えすぎるのはこっちとしても困るけど、今のところは領地の緑化を担ってもらってるんで文句はない。事実、柵で囲ってあるこの辺一帯は前と比べて圧倒的に緑化が進んでる。
中々頑張ってるじゃないかと感心してるとキノコ長老がやって来た。
「おう。兄さんがここの場所を見学したいんだってんだけどいいよな?」
構いませんともと言わんばかりに頷いたんで、とりあえずぐるっと一周。
キノコには家に住みつくって習慣がないのか、建物っぽいのは1つもない代わりにまだ背の低い木がたくさんあり、それに寄り添うようにじっとしてるキノコが多い。
大体そんな感じの光景しかなく、後は適当に作った水場にもキノコがそこそこの数いたくらいで変化らしい変化はない。
「とりあえずこれで一周したけど満足した?」
「満足と言っていいかどうか知らないけど、報告書に記載するに足る情報は手に入ったかな?」
俺も目的のウルフ肉が手に入ったし、外周をぐるっとした時に柵の傷み具合なんかも確認したけど、下の方にかみついた跡があるくらいで特に問題もないので少し修繕するくらいで済んだ。
「じゃあ帰ろうか」
まだフニィを徴収する時期じゃないし、ウルフも近くにいない。ならさっさと帰ってぐーたらするのが俺の生きる意味なんで、土板を作って乗り込もうとしたところに何やら視線を感じたんで振り向くと、老キノコを始めとした重役? っぽい連中がわたわたとした感じで駆け寄って来る。
「どした?」
無視するのもアレなんで問いかけると、当然だけどキノコの数が増えるのはいい事だけど、このままだといずれ身動きが取れなくなるから何とかしてほしいと頼まれた。ついでに水場も浅く広くして欲しいらしい。
もちろん無償でとかぬかしやがったら火魔法でスッキリするまで焼きキノコにしてやるところだが、どうやら新しいキノコが採れるようになったからそれを提供したいとの事。
で、差し出されたのは傘が広く軸が細い花柄のキノコ。
「毒キノコじゃないのか?」
「どーだろ」
言われるまでもなく毒キノコ感MAXの見た目だけど、間借りしてるクセにそんなの出すか? って事でとりあえず鑑定してみると、どうやら滋養強壮に効く薬の材料の一つで、フニィ茸には及ばんけどこっちもこっちでレアらしい。
「薬になる素材っぽい」
「へぇ。それはイイ物じゃないか」
とりあえず報酬としては申し分ない。後はおばばに試しで作ってもらい、誰かで治験しよう。雑魚エルフとかいいかもな。フェルトと始祖龍の相手で忙しそうだから、たまには労ってやらんとなぁ。
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