第142話

「さーって……作るか」


 雑魚エルフの件もとりあえず経過を待つ必要がある。かと言ってその間ぐーたらするのもいいけど、やっぱ魔道具の本が手に入った以上はグレードアップしたいっしょってわけで、まずは何においてもコンロだろう。

 今まで薪を火魔法で燃やしてたけど、ウルフが定期的に枯れるようになった今、火力調整が鍋の上げ下げじゃないと無理ってのはやっぱエレナの負担になる。それを調整機能を取り入れる事で弱火中火強火と段階を分ける事で鍋を動かす事がなくなる。

 って訳でまずはコンロのサイズだな。一応家の竈は2つあるけど、この際3口コンロにしようじゃないか。使うかどう知らないけどスペースはそのくらいあるし、ぽっかりと空く予定の下部分にはグリルでも作るか? とはいえ変なモンを作ったら作ったでなぜか色々文句を言われるからなぁ。


「ま。必要になったらでいっか」


 別にグリルを使ってまで食いたい料理なんてないしな。今のところは生の狼肉を色々加工して食うので十分。いずれはオーク肉とかでとんかつとか角煮とか。牛が居ればすきやきしゃぶしゃぶ……レシピを売れば大儲けでこの村が豊かになってぐーたらライフが早くなる! まぁ、成人してからだな。

 さて、まずは鉄板に魔法陣を刻む。この辺は今まで多少なりとも回数をこなしてきたんでちょちょいと土魔法を使えばあっという間に完成。後はそこに魔道インクを流し込んで、調整用の魔法陣を刻んだ鉄板とを繋いで終了って訳。


「こんなんで本当に出来るのかねぇ」


 一応本に書かれてる通りにやってみた訳だけど、いまいちピンとこない。

 とりあえず魔石を乗せて点火すると、調節してあったから火柱みたいな火じゃなくてちゃんとコンロ基準の強火程度の物が点いてるんで、追加した魔法陣の弱火に当たる部分に触れると、ゆっくりとだけど確かに弱火になった。


「おぉ! こんな簡単な事でここまで変わるかね」


 いろいろ考えたけど、まさか別々にするとはね。確かにこうすりゃ常に魔力が流れる訳じゃないから調節が効く。多少タイムラグがあるのが気になるのは日本で便利家電に囲まれて育った故かね。

 とはいえ、これでコンロは格段に使いやすい物になったし、扇風機も調整が効くから女性陣からぐちぐち文句を言われる事も無くなる。

 さて……こうなると新しい魔道具を生み出したくなる。生活に便利でぐーたら出来るそんな魔道具はなんかないかなー?


「リック。ご飯の時間——って、なにうんうん唸っているのかな?」


 なんかいい魔道具ないかなーと頭をひねってると、ゲイツが部屋にやって来た。どうやら今日の分の書類仕事が終わったらしい。


「便利な魔道具のアイディア――構想を考えてるとこ。それよりどうかした?」

「いやいや。ご飯の時間だよって」

「うげ。もうそんな時間か。教えに来てくれてありがとう兄さん」


 外を見るとまだ明るい。とはいえ熱期は夏と同じで日が長くなる。もちろん冷期になると日が短くなる。少々魔道具作りに熱中しすぎて飯の時間に遅れるところだった。ゲイツには感謝してもしきれんね。


「構わないよ。お礼は光魔法でお願い」

「分かったー」


 ぐーたらライフの危機に対する礼としては安いモンだ。


 ——————


「遅かったわねー? リックちゃん」


 慌ててリビングにやって来ると、当たり前だけど少しご立腹のエレナが椅子に座ってニコニコ笑顔。もちろん黒いオーラが可視化できるし、サミィからは恨みがましい目が向けられる。


「すみません。魔道具作ってたら遅れました」

「まったく……君のおかげで随分と居づらい事この上なかったじゃないか」


 席に着くなりサミィから小言を貰う。全面的に俺が悪いので素直に謝るしかない。


「それじゃあご飯食べましょうねー」


 とりあえず最悪の空気は免れたけど、十分に重い。まぁ、悪いのは全面的に俺なんでこの時ばかりはぐーたら封印して重い空気を払拭するために労働に勤しむとしますかね。


「ところで兄さんこれ見た? なんと、我が村で生の肉が手に入るようになったんだよー。凄いでしょー」


 まずはジャブ程度——というには大きいニュースである生肉の話題を切り出す。


「確かに。報告書でも確認してたけど本当に新鮮なウルフ肉が手に入るとはね……凄い事じゃないか。しかしなぜ急にそんな事が可能になったのさ」

「水場にキノキノコが住みついててね。そいつらのおかげで多少だけど荒れ果てた我が領地に緑が増えたんだよ」


 月に一度程度の確認しかしてないけど、土魔法を行使してるせいか結構な速度であれた領地が緑に浸食されるのは見ていて気分がいい。あれが10年後20年後となれば結構な範囲に木々が生い茂って人の住める土地になり、移住者もたくさん来てくれるかもしれない。

 そうなれば税収は爆上がり。おまけに労働力が増えるから俺の出番はますます減ってぐーたらライフが盤石となる。最高じゃないか!


「うん? キノキノコが住みついてるのは書いてあったけど、領地の緑化の事は書いてなかったな……」

「……言ってなかったっけか?」


 どうだったろう……全然覚えてないし、報告書にないって事はそういう事なんだろう。


「リック。それって結構大事な事だと思うんだけど?」

「そう? だったら明日にでも兄さんを現場に連れて行くよ。肉食いたいし」


 ついでにウルフ肉をいくつか持って帰ろう。ウチは領主って事で優先的に肉を卸してくれるけど、村のみんなで食うにはちょっと量が足りない。グレッグも狩りの回数を増やしてるとはいえ数日はかかるからね。


「そういう事を言ってるんじゃないんだけどなぁ」

「諦めた方がいいですよ兄上。リックは常々こういうものですからな」

「そうねー。リックちゃんは色々大変な事をしちゃうものねー」


 よしよし。エレナが会話に混ざって来たという事は機嫌が多少は戻った証だ。このまま畳みかけよう。


「そうそう。実は新しい魔道具の本で竈を新調したから、明日になったら取り付けようと思ってるんだけど大丈夫?」

「別に構わないけどー、今までの竈じゃ駄目なのかしらー?」

「より便利でぐーたら出来る竈だから母さんもきっと喜ぶと思うよ?」


 魔石を置いて必要に応じた火力を維持してくれる。これであれば食材が焦げ付くなんて事も無くなるし、じっくり長時間煮込む――なんて料理は作る余裕もないとはいえ鍋の上げ下げだけでもなくなるのはありがたいと思うなんてプレゼンをしたらエレナの目はキラキラとしてた。


「それはとてもありがたいわー。早速明日お願いするわねー」

「任せておいてよ」


 ……うん。どうやら魔道具コンロがよほど嬉しかったのかあっという間に機嫌が直ってくれた。これならこれ以上頑張ってトークを回したりする必要もないかな。


「そうだ。ねぇリック」

「なに?」

「この前貰った人形があったでしょ? あれをもう何個か作ってもらえないか?」


 人形……そういえば王都で会った時にそんなのを渡してた記憶があるな。確か仲のいい同級生にあげるとかなんとか言ってたっけ。さり気なく鑑定魔法で調べても相変わらず刺された形跡は発見できない。


「別にいいけど、背後から刺されても知らないよ」


 俺の文句にきらりと目を光らせたのは女性陣。


「あらなにー? 女の子に贈り物だなんて、ゲイツちゃんも大人になったのねー」

「あの兄上が女性に恋心を抱いたのですか。一体どのような女性なのですか?」

「いつも仲良くしてる皆にだよ?」


 さも当然のように返答したゲイツに対し、エレナもサミィもため息を吐く。これがゲイツの通常運転だ。

 2人も相変わらずの答えに興味を失ったようですぐ食事に戻るのをゲイツだけが不思議そうにしていた。なんでここまでされてまったく気づけないのかが俺にはさっぱり分からん。


「で? 作るのって何個?」

「ええっと……みんな欲しいって言ってたから15くらいかな」

「……また増えてない?」

「うん。いろいろと教えてると仲良くなるんだ」


 ゲイツは成績優秀で顔も良く誰にでも優しいと来てる。そりゃあ女子はほっとかないかと思うが、これ以上数が増えると本気でいつの日か背中を刺される気がしてならないな。


「……本当に背中には気を付けてね」

「大丈夫。気配には敏感な方だからね」


 やっぱりさっぱり理解してないらしい。念のために服の背中側に鉄板でも仕込んでおこうかなーと思いながら食事が終わり、朝までぐっすり。

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