第141話
「……これでよろしいですわね」
「今回はね」
なんという事でしょう。あんなに小さかった魔石が、ほんの数分でソフトボール大の立派な魔石になったではありませんか。これなら魔力も十分に込められるから連続稼働時間も申し分なしになる。
こんな便利な事をしてくれる相手を見つけたんだ。1回2回程度で終わらせるようじゃぐーたら道段位者の名折れよ。
しかし……大きくなったのはいい事だけど、邪魔だよなぁ。
「ねぇ、魔石が小さいまま魔力が大量に込められるみたいな事出来ない?」
やはりぐーたらの道に終わりはない。今までは大きいだけで満足できてたけど、これから死ぬまで魔石に困る事が無くなるなーと思った途端にアイディアが出てくるんだもの。
しかし、俺のそんな問いに対してフェルトも始祖龍も鼻で笑った。
「またおかしな事を言う小僧じゃな。魔石は巨大でなければ魔力が入らんのは常識じゃぞ?」
「その通りですわ。魔力が豊富であればあるほど巨大であるのは当然ですわ」
と言われてはいそうですかと納得する俺じゃあない。デカいが正義であるならば、俺って何なのよ? ってなる。
始祖龍と比べるまでもなく、フェルトと比べても圧倒的に身長がないにもかかわらず、負けず劣らずの魔力量がある。じゃあ魔石どこよ? って聞かれたら知らんとしか答えられん。魔物を解体した経験は多少あれど、人間を解体した事は無いからね。魔石があるかどうかは未確認。
なので出来るっぽい! 単純な結論だが試さん限りは分からんって事で、魔法でぎゅっと押し固めるように力を入れてみると一瞬でヒビが入って粉々に。まさかここまで脆いとは思いもしなかったな。ちっとくらいは大丈夫かと思ったけど脆いなー。
「阿呆が。出来ぬと言ったじゃろうが」
「まだまだ子供ですわね。大人の言葉を素直に聞いておくものですわよ?」
「……だねー」
とりあえず粉々になったのは魔道インクを作る材料になってもらおう。インクもいくらあっても困るもんじゃない。亜空間が必要かどうかは知らんけど、無駄にするのは良くないんで基本いれっぱだ。
「小僧の用が終わったのならワシじゃな」
「その前に、いい加減拘束を解いてあげてはいかがですの?」
そうだった。つい自分の事を優先させてうっかり忘れかけてたけど、すぐ隣にいる始祖龍ほどじゃないにしてもサイズのデカい龍を魔法で拘束してたんだったな。
「念のため確認だけど、始祖龍の知り合いって事でいいんだよね?」
近くに飛んで来た時、特に物々しい雰囲気を感じなかったし、相手は一応龍界のてっぺん――でいいのかな? それだから俺が手を出さんくても負けたりはしないだろうと拘束で留め置いたけど、要望があればすぐバラバラにすることも難しくない。フェルトと一緒なら一瞬だ。
「一応部下になりますわ。そこのエルフに負けてから随分と支配が弱くなりましたが、こちらとしては部下という認識は変わらないので、殺さないでいただけるとありがたいですわ」
「じゃあ無罪放免って事で」
横から別に罪を犯しておらんじゃろうがなんて突っ込みが入っても無視して拘束を解除してやると、すぐさま翼で空気と魔力を薙ぎ払って斜め上に後退した。まぁ、分からんでもないけど砂埃が舞うから止めてほしかったな。
「人間とエルフがこの地にやってくるなどあってはならぬ事。やはり貴様は始祖龍として資格が足らぬ!」
「貴方は底抜けの阿呆ですわね。この2人の魔力量を感じられぬような弱者ではないというのに……愚か極まりますわ」
「そういうのは後でやって。こっちは急いでっからさ」
何やら言い争いが始まりそうだったが、こっちはこっちで至急片付けてほしい案件があるんだ。それより重要な案件など、飯の時間に遅れないってことくらいしかない。
「矮小な人間ごときが龍の会話に横槍を入れるな!」
「うっさいなぁ……その人間にビビッて降りてこない雑魚龍のお前はどうなんだよ」
もしかして、飛んでりゃ何とかなるとか思ってんのかね。しかもこんな近距離で。
あいつからすると安全圏なのかもしんないけど、正直言って悠々射程距離なんだよなー。多分あの距離は今まで出会った奴の最長距離からでも算出してんだろうけど、俺が知る限りはぐーたらしてる奴を知らないんでそう結論付ける。
俺のそんな挑発に対し、雑魚龍はプライドを傷つけられたと理解したのか、大人しかった魔力がゆっくりと攻撃態勢に入った。
「結界」
「なっ⁉」
なんかビックリしてるけど、こっちからすれば今から攻撃しますよってのがまるわかりだし、完成させるまでがかなり遅い。フェルトの半分以下? それよりも遅いかもな。なんで、撃つタイミングに合わせてあっちゅう間に雑魚龍を魔法で覆いつくしてやると、どうやら風魔法だったみたいで球体の中で鎌鼬が暴れまわってるけどヒビ1つ入らない。
逆に撃った本人は自分の魔法で痛がってる。まさにざまぁって感じだな。
「さすがじゃのぉ。人間である事が悔やまれるほどの魔法捌きじゃわい」
「それはそうだねー」
フェルトの声に時々思う。エルフだったらもっと長い間ぐーたらライフを送れるんだろうなーとは思うけど、タイミング的に大貴族か下級貴族の二者択一だったからね。こればっかりはどうしようもないけど、流石に1000年も娯楽のない世界でぐーたらってのはねぇ。
「とりあえず静かになったみたいだし、話の続きといこうじゃないか」
「はいはい。それで? わたくしは何をすればよろしいんですの?」
「ワシの近くにいたエルフを覚えとるか?」
「……あの花の所在を知っておきながら隠匿した不届き者ですわね」
いつまでも根に持ってるなぁ……。
始祖龍の呪詛が込められたうめき声にフェルトも感化されたのか、お互いに魔力がちょっとだけ蠢いた。テレビなんかでもこういった事に関してはいつまでも覚えてて、結婚なんかに縁遠かったおっさんとしては「マジで結婚なんてするもんじゃないな」とテレビを見ながらつぶやいたもんだ。
「そ奴の捜索をし、ワシの所に連行するんじゃ」
「出て行った者を再び連れ戻す理由がございますの?」
普通に考えればそうだよなぁ。雑魚エルフが出て行った=修行の旅か喧嘩別れかなにかで、まかりなりにも毒で死ぬなんて微塵も思わないだろうね。
「毒があるらしいって実を大量に食ったから、その解毒の方法を知るために出てったんだよ」
「それでしたらますます連れ戻す意味がないのではございません事?」
「その実に毒があるってのは嘘なんだよ」
「嘘なのでしたらどうしておっしゃらなかったんですの?」
「小僧がそう言ったんじゃよ。ちなみにワシは知らんかった」
「エルフが知らない事をなぜあなたが知っておりますの? そして、何を根拠にしておられるのかしら?」
「鑑定魔法で調べたからだけど?」
事も無げに言うと目を見開いて滅茶苦茶ビックリしながら俺とフェルトを交互に見やる。ただの鑑定魔法がそんなに珍しいかね? 異世界転移・転生モノじゃあ割とポピュラーな能力だろうに。
「はぁ……この人間がでたらめなのは理解いたしました」
「酷い言い草だ」
別にそう難しいもんじゃないと思う。単純にこれを知りたいあれを知りたいと考えながら魔力を目に集中させるだけで頭に情報が入って来る。
「んな事より雑魚エルフの捜索だよ。やるよね? やらない訳ないよね?」
「……さすがにわたくしが人里に降りるのは騒動が大きすぎる気がするのですが?」
「知ったこっちゃない」
どこの国でどんな騒ぎがあろうと、俺には関係ない。たとえ王国だろうと、俺のぐーたらライフの前には壊滅だろうと些事。
「くかか。さすが小僧よ」
「はぁ……わたくしは構いませんが、どうなっても知りませんわよ?」
「別に問題を起こしても始祖龍なんだから大丈夫っしょ」
ワイバーンですら人の身に余る強敵だってのに、始祖龍ともなれば国に被害が及ばないように祈ることくらいしかできないだろうってのがテンプレ。なので、ちょっとくらい派手に動いたとて問題はない。自然災害の一種とみなしてくれるだろう。これもテンプレ。
「人の身で龍たる頂点を小間使いにするなど、聞いた事ございませんわ」
「嫌なら別にいいよ?」
ただし、断ればすぐ傍に居るエルフが多量の魔力を運用した懇切丁寧な痛みを伴う長時間にわたる説明会が首を縦に振るまで行われるだけだからね。
「……はぁ。分りましたわ。やればよいのでしょうやれば!」
「当然じゃ。期限は明日までじゃ」
「短すぎません事⁉」
「何せ刻一刻を争う事態じゃ。出来ぬのであればそれ相応の罰を覚悟するがええ」
ギロリと睨みつけながら魔力が爆発的に増大するのを見て、始祖龍は逃げるように飛び去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます