第140話
「それ、言っちゃってよかったの?」
「うん? あ――」
俺に言われてようやく気付いたフェルトは5秒くらいわたわたしたけどすぐにもう無理だと悟ったらしい。ため息1つで気持ちを切り替えたっぽいが、正直言って俺にはもう関係ない話だと思ってる。
何せ鑑定で毒に侵されてる素振りは微塵もないし、フェルトから伝えられた説明に関してもとんでもないくらいにジジババにとって都合がよすぎる。おまけに内容がどっかで聞いた事があるっぽいとなると、もうそれは嘘だろうという結論に至る。
「うむ。実に言いにくいのじゃが、小僧と遠い孫は毒の実を食らったんじゃ」
「その話……多分嘘だよ」
なので、真剣な面持ちでそう説明されても全くビビらないし、むしろ残念そうな目を向けるほどだ。
フェルトもそんな返答が来るとは思ってもなかったのかな? 飲み込むのに随分と時間がかかったように感じる。
「嘘じゃと?」
「そう。きっとエルフのジジババ達があの実を独占したいがためのね」
俺の口にはまったく合わない――ってか食う事すらできんほどの甘さを超えた苦さしか感じない実は、品種改良が進んで年中甘味を享受できる地球とは比べ物にならないほどの貴重品。
おまけに数十年かけないと実らないともなれば、ますますもって少しでも多く食いたいというのが真理じゃね? 俺だって数十年に1つ販売される最高にぐーたら出来る商品なんて物が有れば、どんな手を使おうが手に入れる。
きっとエルフの老害達もそんな結論に至った結果、そんなデマを信じさせてるんだろうと思うけど、鑑定魔法で調べようとは思わんのかな? って疑問もある。
「鑑定魔法で調べたりせんかった訳?」
個人的には結構早い内から鑑定魔法はパパっと覚えた記憶がある。何せ毎日の食事にすら困ってたからな。何か食える雑草はないかといった調査のためにはやっぱ魔法っしょ! って事で使えるように努力した。
俺でも出来るんだからエルフなら楽勝だろうと思うんだが、こっちの問いにフェルトは眉間にしわを寄せて「相変わらずじゃのぉ」とぽつりとつぶやく。
「鑑定魔法はそう軽々に覚えられる魔法ではないんじゃが、小僧は使えるんじゃな」
「まぁね。使えないと死ぬかもしんなかったし、使えるって言ってあったでしょ」
原因となった実を食えると言った時も魔法で調べたって言った。つまりはそういう事。これのおかげで多少なりとも食卓事情がよくなった。今じゃあルッツのおかげで雑草に頼る必要もなくなったけど、鑑定魔法は有益なまま何も変わらん。
「とにかく。ワシにも使えん魔法じゃからおいぼれ共にはますますもって無理じゃろうが、小僧がそう言うのであれば事実なのじゃろうな」
「フェルトはそこまで歳重ねて1回も食った事ない訳?」
確か万年以上生きてるって言ってたっけ? おまけに100回はあの実を目の当たりにしてきたと自白してたはず。ならどう考えても食う機会はあったはずだろう。鑑定魔法でも600を越えれば食えるって嘘があるんだから、既に10回以上通り越えてるフェルトが食ってない道理なんてあるのか?
「ないのぉ。実が生る時は大抵遠出をしておったし、1つ所に居ってもつまらぬからのぉ。もちろんここは別じゃぞ? これほどまでに大樹様のお傍に居れることなど世界中のエルフの里にはないからのぉ」
別に焦ったようにとりつくろわなくても相当な事が無い限りは追い出したりしないんだけど、何度も追い出そうとしたからか結構ナーバスになってるねー。
「別に悪さしなけりゃ好きにすればいいよ」
「うむ」
「で? 雑魚エルフは結局何のためにここを出てった訳?」
「毒の治療の為なんじゃが……恐らく必要ないのじゃろうな」
「多分ね」
俺の考えが正しいなら、雑魚エルフの身体が毒に侵される可能性は限りなくゼロだけど、別の危険が生まれるな。
「とりあえず連れ帰って来てよ」
「……ワシがか?」
「他に誰かいる?」
人の気配にはどこまでも鈍感だけど、魔力に関しては多少は敏感に出来てる自信はある。一応ない訳じゃないけど、ここに来るには少なからず魔力が必要になるくらいには魔物がすこぶる強い。
それに当てはめると、ここには俺とフェルト以外誰も居ない。そして俺には、エルフの里なんて場所は皆目見当がつかんし、どっちに行ったのかも分からんのだからな。
「別に放っておいても良いのではないか?」
「そうはいかないよ。フェルトの知り合いとかが来るのは多少は目をつぶるつもりだけど、それ以外のエルフが増えるのは勘弁してほしい」
雑魚エルフが毒の治療と称して薬——があるのかどうか知らんけど、それを入手するために方々を回って不特定多数のエルフにこんなところにでくの坊があると知られると、大挙として押し寄せて来そうな気がするからな。
それが好意であれ害意であれ、ぐーたらが阻害されると感じる俺としては遠慮してほしい。
という事で、そうならないようにするには今すぐにでもあいつの首根っこを掴んで連れ戻してきて欲しい。というか行けよ。
「……確かに。あの阿呆が余計なことを口走ってしまう可能性を否定しきれん」
「まぁ、誰だって毒だと知ったらそうなる気持ちが理解できない訳じゃないけどね」
「小僧は平然としておるではないか」
「だって調べられるし」
俺だって鑑定魔法が無かったらきっとあたふたしてると思うけど、それで俺に迷惑がかかるのはマジでイラつく。もしそうなったらって考えると吐き気と怒りがこみあげてくるな。
「……とはいえ、ワシも大樹様のお傍を離れるのは堪え難い苦痛。仕方ない。奴に貸しを作るのは癪じゃが、背に腹はかえらんからのぉ。頼るとしようかのぉ」
「奴?」
「小僧が行く先に居る奴じゃよ」
思い当たるのは1人——というか1匹か。確かに始祖龍であれば一応ここに居た雑魚エルフの事もキモい花関係で十分知ってるだろうと思うけど、果たしてエルフ探しなんて雑用をやってくれるのかね? って疑問はある。
って言う俺もクズ魔石を巨大化させるって雑用を頼みに来たんだけどねー。
「手伝ってくれんの?」
「問題なかろう。遠い孫が持って来た花のおかげでワシから襲われると言う事が無くなったんじゃ。まさに命の恩人というても問題なかろう」
「確かに」
あの雑魚エルフが居たから、始祖龍の今がある。そう考えれば命の恩人と言って差し支えないし、それに対する恩返しとしてエルフ探索を押し付け――げふん。お願いしても罰は当たるまいて。
「という訳で、向かうとしようかのぉ」
「だねー」
とりあえず始祖龍の魔力を探るとあっさり見つかったのはいいけど、すぐ近くに別の魔力を感じるんで、とりあえず少し離れた場所に転移。
「む? 奴が居ないではないか」
「近くに別の魔力があったから念のためだけど意味なかったかな?」
どっちも俺達が現れた瞬間にこっちに気付いたっぽい。始祖龍の方は少々ビビってるっぽいのに対してもう片方は警戒心バリバリで魔力に動きがあるんで問答無用でそれを封じてすぐ近くにもう1回転移してみると、そこには真っ黒な始祖龍の他にもう1匹の知らん龍がいた。
まぁ、そっちには用はないんで無視しよう。
「突然強大な魔力を感じたかと思えば、やはりあなた達でしたのね」
「うむ。ちと貴様に用があっての」
「わたくしに用事? 嫌な予感しかしませんわ」
あからさまに警戒してるなぁ。出会いが出会いだけに逃げられないとは分かってるんだろう。どことなく諦めたような表情をしているけど俺にもフェルトにも関係ない。
「俺は前みたいにクズ魔石を大きくしてもらいに来た」
「人間……わたくしを何か便利な道具と勘違いしておりません事?」
「心配しなくてもしっかり道具と認識してるから大丈夫」
それ以外にここに来る理由なんてないからね。
「まったくもって大丈夫ではないではないですの!」
「気にしない気にしない」
「そちらのセリフではございません!」
「いいからさっさと魔石大きくしてよ」
「……はぁ」
文句を言いながらもちゃんとやってくれるところは感心する。決してフェルトが俺の後ろで睨みを聞かせていたからという事はまったく全然これっぽっちも分からないんで素直に感心するよー。
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