第117話

「で? 話って何」


 まぁまぁの出来のパスタを食べながら問いかけると、ヴォルフはちらりと伯爵娘に目を向けたんで俺も見て見ると、普通に飯を食ってるって以外はよく分からん。


「伯爵娘「ルルミリア様だ」が何?」

「なんでも魔法の訓練をつけてるんだとか?」

「いつもの助言をしただけだよ」


 魔法に関しては一貫してぐーたらの概念と簡単石で終わらせてる。それ以上はやる気が起きない。なにせぐーたらの邪魔以外の何物でもないんだからな。


「しばらく頼めるか?」

「え? 嫌だけど?」


 こちとらこんな無駄話をさせられてぐーたらタイムが削られてるってのに、これ以上余計な仕事を押し付けられるのはぐーたら神の反感を買うんで、何か特別な理由付けない限りはあっちも了承しない。


「即答するな。一応礼金は出すと言っているが駄目か?」

「お金は今の生活でも十分あるからあんま惹かれないねー」


 現状、不労所得に近い儲けと利率がいい労働によってここから徐々に暮らしやすい村になっていく予定だからね。ぐーたら神にお伺いを立ててみてもNOとの返答が返って来た。


「金額も聞かずに断るな!」

「いくらでも嫌だって事だよ」

「ど、どうしても駄目ですか!」

「うん。面倒だから」


 ってか、魔法なんて使いまくってりゃ勝手に魔力量は上がるようになってんだ。こうして頼んできたりしてる暇があれば四六時中魔力を消費してる方がよっぽど効率的だと思うんだが、この世界の人間は違うんだろうか。


「とにかくだ。この2人は伯爵家から迎えが来るまでウチで預かる事になった」

「だったら居なくなるまで俺は別の場所で暮らすよ」


 こっちとしてはさっさと帰って欲しい。今はまだいいかもしれんけど、俺はこの村の誰よりも遅起きだ。つまりはこいつの馬鹿でかい声で起きたくもない時間に起こされる可能性が限りなく100パーに近い確率で発生するという事。

 それはぐーたら道において由々しき事態。

 ぐーたら道において睡眠は、極致へ至る修行においてかなり重要なものの1つ。それを阻害されるとなると俺としてはマジでうっかり殺りかねない。1日2日程度なら……多分……きっと我慢できると思うけど3日かマジで殺る。

 俺のぐーたらライフを邪魔する奴は、たとえ王だろうと殺すと決めてるからな。伯爵娘如き相手にためらう理由にはならん。家を作るのが非常に面倒だけど、歩み寄れる折衷案はこんなところだ。


「まぁ、お前がそれでいいと言うなら何も言わんが、食事の時間にだけは遅れるな」

「そこら辺はしっかりしてるから大丈夫」


 相手はヒエラルキーのトップだからね。さすがのぐーたら神もそこに関しては従う様にしっかりと忠告してくる。イマジナリー神ですがね。


「じゃあもういい?」

「そうだな。後で追加要項が増えるかもしれんが、今のところはこの確認だけで何も問題はない」

「じゃあ俺は家作って来るねー」


 どうせ数日でお役御免になる家だから適当に。後は夕方まで氷魔法で涼しくした室内で夕方までぐーたらするためにはあらゆる用事をパパっと済ませる必要があるんで、食べ終わった皿片手にキッチンで洗い物を済ませて小走りで家を飛び出すのと同時に、着地先に土板を作って乗り込むのと同時に発進。

 目的の場所はあのデカ声が届かないところが最優先だけど、だからといって村の外に出るとヴォルフやエレナが色々とうるさいんで、一番面倒がないのは――上だな。


「『土柱』」


 家の裏庭にベッド3つ分くらいの広さの柱をグングン空に向かって伸ばす。とりあえず100メートルくらいで様子を見るか。


「うわー! 凄いです! あっという間に土の柱が建っちゃいました!」

「なんか用?」


 キンキンと耳障りな大声で話しかけられるのは本当にストレスが溜まる。

 そして、きっとそれが表情に出てたんだろうな。興奮気味に上を見上げてた視線が下がり、仏頂面の俺と重なって見る見るうちにしゅんとした。なるほど。つまりはあんなバカでかい声のせいでこういう人間になったって訳か。


「あ、あのですね! その……わ、わたしの大声ってどうにかできませんか!」

「魔道具でも探せば?」


 手っ取り早いのは魔道具だろう。一応おっさんなんで、声がどんな風に出てるのかってのを分かってるから、真空に近い状態にすればその分小さくなるための魔道具でも探すしかない。伯爵娘が風魔法が使えたら自分で何とか出来ただろうが、ツイてない星の元に生まれたんだな。


「そんな魔道具はないです!」

「じゃあ土魔法で仮面でも作ってかぶったら?」


 風が使えないなら現状の手札で何とかするっきゃない。火は使い道がないんで、残ってるのは土だけになり、それで一番効率的な方法は何かと問われれば、直接音の発生源を塞ぐ事だろうよ。


「仮面……ですか?」

「そう。そこそこ重いだろうけど他に方法なさそうだし。試しにやってみる?」

「お願いします!」


 試しに土魔法で伯爵娘の頭を覆ってみる。空気穴は必要だろうけど、前方に開けると意味がないんでサイドに穴を開けて。視界も最低限に。


「こんな感じか?」


 出来上がったのはつるんとしたフルフェイス。とりあえず薄めに作って効果のほどを確認したいんだが、これだけでも足元がふらついてるから結構重いんだろうなぁと思うけど同情はしない。実験だからな。


「どんな感じでしょうか?」

「うーん。悪くないと思う」


 完璧って訳じゃないけど、確実に声は小さくなってる。俺だったらこんなのを付けたままの生活なんざ死んでも御免だが、この伯爵娘はどうなんだろう。


「それは助かるのですけど、もう少し軽くなりませんでしょうか」

「そこら辺は自分で研究するしかないねー」


 一応ヒントは与えた。後は自分で何とかしてほしい。こっちもそろそろ土台は完成するんで、土板に乗ってグングン上を目指して上空100メートル。村を一望できるくらいの高さの土柱に降り立つ。


「いい感じかも」


 ここであればあのデカ声は届かないだろう。多分……きっと……恐らく。


「試すか」


 ちょうどいい事に、眼下には件の伯爵娘がいるんだ。どのくらいであれば声が届かないかの実験に付き合わせよう。仮面を作ってやった礼代わりとでも言えば喜んで実験を請け負ってくれるだろう。

 そうと決まればさっさと聞くかと降りてみると、伯爵娘は地面に寝っ転がってた。


「なにしてんの?」

「見上げたら頭の重さで……起こしてもらえませんか?」

「しゃーないね」


 無魔法で伯爵娘を引っ張り上げてやる。一応首をやっちゃわないようにその辺りは少しだけ魔力を強めにコントロールしてますよ。


「あ、ありがとうございます。いろいろな魔法が使えるんですね」

「便利で助かってる。それよりもちょいと手伝ってほしいんだけど」

「なんでしょう」

「上から合図出すから、仮面外して声出して」

「分かりました」


 了承を得られたって事で、再び一番上に。

 下を見ると、伯爵娘の姿が一応は確認できるけどあっちが見えてるかどうかは知らんので、土柱に這うように小石を落としてじっと観察しておおよそ10秒くらいで声が聞こえてきた。

 うーん……あんまり小さくなってる気がしない。なので50メートルくらいさらに延長して小石を落としてみる……うん。これなら問題ないかな。後でベッドを持って来るか。


「はいどーも。おかげで快適な睡眠が確保できそうだよ」

「……」

「なに? 言いたい事はハッキリったら? 別に怒らんし」

「こ、こんな風に対応されるのが初めてで! 正直驚いてます!」

「だろうねー。だからと言ってやめるつもりは全くないから」


 相手はなんたって伯爵の娘だからな。大抵の奴等はこうもあからさまに対応しないだろうけど、俺にとっては相手が誰であろうが関係ない。ぐーたらライフの邪魔する者は、すべからく死あるのみ。


「いえ! わたしもそのくらい思った事が出来ればいいなと思いました!」

「あーそー。頑張りなー」


 そんな事を言われた所で、俺に人生には何の関係もない。

 とはいえそれを無視するほど人でなしではないんで、一応エールを送ってから土柱の上まで登り、夕方までぐーたらを満喫させてもらいました。

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