第116話

「さて、満足したか?」


 すべての仕事を終えて家に戻ってきて2人に告げる。


「……誠に遺憾だが、この村は貴様が居なければ成り立たんというのは十全に理解した。そして、貴様のおかしな魔力量にも合点がいく」

「じゃあ伯爵のパーティーには行かないって事でいいね?」

「仕方あるまい」


 よっし! これで心置きなくぐーたらライフを謳歌できる。おまけにアリアが居ないとなるとそれだけでも仕事量が減るんで非常にありがたい。グレッグが帰って来るのに数日を費やしてたから、少なくともそれ以上――1週間以上は楽しめる。


「じゃあもう帰るんだね」

「それはもうしばらくかかるな」

「なんで? グレッグに送らせるよ? あれも改造する予定だし」


 さすがに3人も乗るって想定じゃなかったからな。サイズアップと出力の強化をすれば、あんなふらふらと危なっかしい運転をしなくても良くなるし、ついでに出力も上げる予定だから前回よりは早く帰れるようにするつもりだ。


「あんな危険な魔道具にルルミリア様を乗せられるか! 伯爵家より馬車をこちらに呼んであるからしばし世話になる予定だ」

「じゃあなんで連れてきたんだよ。ウチには伯爵をもてなす金も家もないぞ?」


 今までのやり取りはずっとこのおっさんとだ。ハッキリ言って何しに来たん? と言いたくなるほど伯爵娘は何もしないのに、今もこうしてついて来てる。居る意味が謎すぎるんだよね。


「わ、わたしは! 魔法を教わりたくてっ! 来ましたっ!」

「なんで俺? このおっさんが居るじゃん」

「まだ23だ! このベレットもルルミリア様に魔法を講義しているが、どうにもぐーたらという概念が理解できなくてな」

「へー。ぐーたらって俺以外にもやってるんだ。初めて知った」

「その記憶力の無さ……貴様は本当に魔法使いか? ぐーたらするのが魔法使いにとって最良の訓練法だと言ったのは貴様だぞ」

「……全然記憶にない」


 うーん……あの声デカ伯爵の傍に居たのはぼんやりと思い出したけど、そこでどんなやり取りをしたのかは全く思い出せないが、魔法使いに魔法に関して聞かれたら簡単石の事とぐーたらの事を話すってのは、自分の中じゃテンプレ化させてたからその時に言ってたとしても不思議じゃない。


「ぐーたらするにしても適性があるからね。ちなみに使える属性は?」

「火と土です!」

「冷期なら火は最高だけど、土は貴族向きじゃないねー」


 最高なのは無。これさえあれば大抵の事はベッドの上で済ませる事が出来るし、何より移動に関して動かなくていいってのはぐーたら道としては使えるってだけで段位が獲得できる魔法と言っても過言じゃない。

 まぁ、土と火でもぐーたら出来ない訳じゃない。生活に関しては如何ともしがたいけど、火が使えればとりあえず食材の煮炊きが出来るし、土が使えれば家が建てられるから土建屋として稼ぐ事もできるけど、やっぱ楽じゃないし貴族の仕事じゃない。


「向いてなかろうが講義しろ」

「つってもねぇ。土だったら壁とか作ったら?」


 土で出来る事はたかが知れてる。俺みたいに知識があれば畑の肥やしを魔力で作る事が出来るけど、いちいちそんな事を教えてやるほど俺の進んだぐーたら道は浅くはない。


「壁ですね!」


 言われるがままに壁を作り始めた伯爵娘は、普通に詠唱を始めてたんでボケーっと見てると、10秒くらいで壁……まぁ、壁? が出来た訳だけど――


「遅いし低いね」


 ちんたら詠唱した割に、出来上がったのはひざ下くらいのでっぱり。これじゃあ何の役にも立たんな。


「何を言うか! 貴様が異常なだけで、ルルミリア様は魔法使いとして優秀な部類に入っているのだぞ!」

「これでか?」


 今まで見てきた中では断トツに弱い。これで優秀ってなると、やっぱこの世界の魔法使いたちにはぐーたら力が全く足りてないらしい。嘆かわしい限りだよ。


「どうすればよくなりますか!」

「使い続けるだけ。後は詠唱はゴミ箱に捨てよう」


 これも魔法使いに聞かれたときに応えてるテンプレ回答。

 同じ魔法を使いまくりゃあ熟練度みたいな感じで使いやすくなるし、詠唱がゼロになれば、こんなでっぱりでも連続で作りまくれば壁代わりになる。要は練習あるのみって言葉に尽きる。


「使い続けて詠唱をゴミ箱に捨てる。ですね!」

「お待ちください! おい! 詠唱をゴミ箱に捨てるとはどういう事だ」

「そのまんまだよ。おっさんも詠唱長ぇなー。こんなんやってたら敵のいい的だわー。とか思った事ない?」

「あるに決まってるだろ。だが詠唱はそう簡単に短縮出来る物ではない事は、それを可能としてる人物の希少さが証明しているのだ」

「でも俺は出来るぞ?」


 まぁ、おっさんの言い分も理解できる。俺も、詠唱短縮できてるのはフェルトくらいしか知らない。

 他の連中は誰も出来てない事を考えると、万の時を使って研鑽に研鑽を重ねたとするならマジで誰も出来ない事になるけど、俺は5歳現在で普通に出来てる。しかも無詠唱。

 この現実を見るに、やっぱぐーたらの気持ちを持つのが一番な訳よ。そうして俺は無詠唱を手に入れたからね。現状で教えられる事はそれくらいしかない。


「むぐ……っ。それは、貴様が異常なんだ」

「まぁ、せいぜい頑張ってねー」


 教える事は教えたんで解散。後は昼飯を食って夕方までぐーたらするという過密スケジュールがあるんで、付き合うつもりは全くない。


「ただいまー」

「あらーお帰りなさーい」


 玄関開けたらすぐエレナと出くわした。別に悪い事してないんだけど、無警戒なところで出会うとドキッとするのはヒエラルキーのせいだろう。


「あらー? お客様はどうしたのかしらー?」

「外で魔法の訓練してるよ」

「お客様を放っておくのは感心しないわよー?」

「そういう文句は父さんに言って」


 俺の自分がパーティーに行けないもっともらしい理由付けが終わった以上、あの2人と一緒に居ると言う役割はもう終わった。後はここの領主のヴォルフとその妻のエレナの仕事だろう。


「仕方ないわねー。それじゃあお昼の準備を頼んでもいいかしらー?」

「いいよー」


 本当はその時間までぐーたらしたいけど、エレナが台所から居なくなると料理を作れるのが俺くらいしかいない訳で、午後も生きてぐーたらがしたいならここはちゃんと昼ご飯を作るのが賢い選択。ぐーたら神も小刻みに震えながらOKと言ってる。


「何にすっかなー」


 食材はまだ余裕がある。おまけにこの前取って来た狼肉がちょっとだけ残ってるから、それを使ってなんか作ろうって方針に決まったんで、まずは氷室に行って冷凍の狼肉と他の食材を適当に拝借。


「うし。これでいいだろ」


 乾燥パスタ。人参。狼肉。ドライトマト。ニンニク。乾燥玉ねぎ。これらを使ってミートソースパスタを作ります。

 例によって調理工程は短縮。魔法でパパっとチャチャっと作って出来上がり。

 後は家族を集めてササっと食べて夕方までぐーたらするだけ。

 エレナとヴォルフは伯爵娘達をどう相手をするのかを考えるために執務室にこもってるだろうと考えて行ってみると。そこにはその2人と向き合ってるヴォルフとエレナが居た。


「ご飯できたよー」

「あらありがとー。悪いんだけどこちらの2人の分も含めてここまで持って来てもらえるかしらー?」

「え? 2人も食うの?」

「当たり前だろう。相手は客人だからな。こちらとしてはもてなすのが筋だ」

「先触れもないのに?」

「そうだ」


 どうやらマジらしい。やれやれ。こんな事になるならもうちょい具材を足す必要があるな。2人がどんだけ食うか知らんけど、ここでのルールはエレナが決める。エレナがカラスは白よねー? と言えば、答えはYESかはいの2択だ。


「まぁいいや。別に用意するのはいいけど期待しないでね」

「我々もそこまで常識知らずではない。食事を用意していただけるのはありがたい」

「ご、ご馳走になります!」


 こう決まった以上出さないのは失礼にあたる。それに、こんな事で言い争っててもぐーたらの時間が減るだけで銅貨1枚の得にもならんからさっさと運んで飯を終わらせよう。


「お待たせー」


 1回具材を追加したミートソースをたっぷりかけたパスタをそれぞれの前に置き、さっさと出て行こうとしたところにヴォルフから声がかかる。


「リック。話がある」

「俺にはないけど?」

「父さんにはあるんだ」

「……じゃあサミィ姉さんとアリア姉さんの分を用意したら戻って来るよ」


 やれやれ。せっかくぐーたら出来ると思ってたのに、こりゃあお昼はぐーたらできないかな?

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