第102話

「あれがそうなのか?」

「そ」


 副会頭と一緒にキノキノコ達が暮らす水場にやって来た訳だけど、先月と比べてまた緑が増えてる。微々たる土魔法でも毎日使えばちゃんと土地が豊かになるという確かな証拠だね。

 そう喜べる部分もあるけど、随分と荒れてるような気がするなぁという面倒そうな予感がする部分もある。まぁ、それでも金になるのであれば降りない訳にはいかないんで降り立つと、副会頭がすぐに周囲に視線を走らせる。


「どったの?」

「ここは魔物の巣ではないか」

「そうだよ。こいつらは父さんの領地の住魔物のキノキノコ達だ。暴れんなよ」

「問題ない。キノキノコ程度素手でも対処可能だからな」


 さて……とりあえず村長的なのに挨拶に向かうと、やはりやつれてるなぁ。それに数が減ったようにも感じる。


「フニーを取りに来たけど……なんかあったの?」


 キノキノコ達は会話は出来ないがジェスチャーが優秀で何となく言いたい事が分かるところによると、どうやら多少なりとも豊かになったせいで犬——いや、狼の新しい魔物がどこからかやってきてこの地を荒らしてるらしい。


「なるほど。つまりそのクソ狼が俺のぐーたらライフの邪魔をしやがたって事でいいんだな?」


 こくこくと頷く長。よし。そうと決まれば早速邪魔な連中を排除してやろうじゃないか。収入減は生死に直結する……つまりこれは生存競争なのだよ!


「リック少年はこいつらの言ってる事が分かるのか?」

「なんとなくね。って訳で狼退治してきて」

「素手でか? この様子であればグラスウルフだろうがさすがに武器が欲しいな」

「じゃあはいコレ」


 武器が欲しいと文句を言うので地面から土を引っ張りだして剣に。


「……うむ。悪くない。これであればグラスウルフ程度がいくら来ようが問題ない」

「じゃあ頑張って」

「任せておけ!」


 大手を振ってどこかに走って行った副会頭を見送り、俺は待機。


「ところで、キノコの用意は出来てるんだろうな?」


 こくこくと頷いて若いキノコに指示を出す。

 持って来てもらった茸は確かに悪くない良品なんで問題なく回収。それにしても、見た感じ相当に荒らされてる。キノコなんで家とかは無くても問題ないけど、今後もこういう事があるとなると柵くらい作っておかんとぐーたらライフの障害になりそうだ。


「よし! お前等、安全が欲しいか!」


 ピョンピョン飛び跳ねるキノキノコ達。肯定と取るか。


「じゃあこれを引っ張れ」


 土で即席の荷車を作ってそれに乗っかると、意味が分かってるかどうか知らんが数匹のキノキノコ達が引っ張り始めたんで、狼が飛び越えたりできんだろう土製の網目のフェンス(5メートル)を造り、えっちらおっちら荷車を引けばその範囲は問答無用で防護柵となる。


「ほらほらー。家族を安心させたいなら頑張らんといかんぞー」


 涅槃像スタイルでやる気がそがれるだろう間延びした応援? を送りつつフェンスを作ってると、にわかに騒がしくなったんで重い腰を上げると、副会頭が打ち漏らしたか別方向からやって来ただろう狼数匹の姿が。

 うーん。キノコ達が土魔法を使う事で土地が豊かになったせいで新しい魔物がこうしてやって来たってなると、これからもどんどん新しい魔物が来るのかぁ。メリットもあるけどやっぱりデメリットも出てくるもんだなぁ。

 なんて事をぼーっと考えてると、多くのキノコがこっちに向かってかけてくるのが見え、その奥からは数匹の狼が。

 白昼堂々俺のぐーたらライフを害そうとしてくるとは……どうやら命がいらんらしい。


「いい度胸してやがる」


 キノコに迫る狼の首を風魔法で刎ねる。一発で掃討しても良かったんだが、動いてる相手よりは止まってる奴の方が狙いがつけやすいんでそうした。

 狙い通り、突然先頭を走る狼の首が吹っ飛んだ事で追従してた数匹の足が止まったんで同じように風魔法でスパッと切り飛ばす。


「ハイ終了~」


 ゴーレムと比べると速かったかもしんないけど、ワイバーンと比べりゃ天と地ほどの差がある。そして、魔法に関して多少の自信がある俺からすれば、基本的に外さない。

 後は水魔法で血抜きをし。風魔法で皮を剝いで。無魔法で内臓を取り除いて解体する。あの冒険者達が毛皮と肉を回収してたって事はそこに商品価値があるって事だろ。


「……美味いのかな?」


 そういえば狼肉って食った事が無い。もしかしたら干し肉になってもう食ってるのかもしれんけど、改めてこれが狼肉だ! と認識して食ってない。

 気になるなぁ。赤貧領地なんで干し肉をひと月で日割りして使うから大して食えないし、大前提としてしょっぱい。

 ちゃんとした肉は王都であの宿に泊まった時と、冷凍して持って帰ってきた物を数日間味わった訳だけど、これだけの量があればもう一週間くらいは楽しめるかもしれんぞ。


「食ってみるか」


 毛皮は売る一択だけど、もし狼肉が美味いと分かれば、グレッグと腕っぷし自慢の村人連中を引き連れて狼狩りをしてもらうのもいいかもな。そうすりゃ干し肉生活ともおさらば――は量的に難しいとしても抑える事にはなる。その分の金を別の事に回せるようになれば、ぐーたらライフが近づいて来る。


「そうと決まれば早速——」


 まずは肉を水魔法で血を洗い流し、適当な大きさに切って5歳のガキの歯でも嚙み切れるようにスジ切りをしつつ亜空間から岩塩を取り出して肉に振りかけて火魔法で炙り焼きに。


「……おぉ、匂いは良いな」


 じゅーじゅー焼ける肉から漂ってくるのは腹の虫を叩き起こす。牛・豚・鳥とも違う不思議な匂いだけどいい匂いなのに変わりはない。思わず唾をごくり。

 いわゆるミディアムレアってのは個人的にあんまり好きじゃないんでしっかり焼く事10分。ようやく完成だ。


「……これは期待大だな」


 がぶりとかみつくとじゅわっと脂があふれ出して頭に美味い肉だという事を伝えてくる。こいつは当たりだ。


「美味いっ!」


 うんうん。干し肉も肉と言えば肉だったけど、やっぱり生肉とは全然違うね。特に柔らかいのが素晴らしい。子供の顎でも噛み切れるってのはぐーたらの観点から見ても楽という一点においてありがたい。


「ふぅ……食った食った」


 昼ご飯を食い終わった後だけど、200グラムくらい食っちゃったな。おかげで腹いっぱいだ。ついでに数匹分の肉が残ってるし、きっと副会頭が十数匹分の肉を持って帰って来るだろうとなると、今日は村中で焼き肉パーティーになるかもな。


「さて……冷凍すっか」


 亜空間——は副会頭が戻ってくる事を考えると使えないんで、肉は氷魔法で保存。皮はいったん水洗いしてからその辺に放置しとけば熱期真っただ中の炎天下なら勝手に乾くだろ。


「うし! ほら、ボケーっとしてないでさっさと柵を作るぞー」


 パンパン手を叩いてキノコ達に労働を促すと慌てたように荷車を引いてくれるんだが、本当に遅々として進まない。このままだと夕方になっても作り終わらんので、狼の被害が増える一方で、フニーの収穫量にも影響が出る。


「なぁ。狼ってどのくらい来るんだ?」


 ふむふむ……どうやら3日くらい前から突然やってきて仲間が何匹も食われ、水場も荒らされたらしい。そうなると今後もやってくる可能性は高い。ちょろっと水場でも作っといてやればワンチャン肉回収機に化けるんじゃね?

 そうと決まればサクッと水場を作っておきたいが、あいにくとキノコ連中の歩みがおっそいおっそい。だからと言って歩くのはまっぴらごめんなので荷車から降りるつもりはない!


「やれやれ。またとんでもない物を作ったな」


 半分くらい作ったあたりで副会頭が帰って来たけど、かなりの数のウルフを退治したっぽく、全身返り血でべったりだ。鉄臭くて汚らしい。


「おかえり。そんなに汚れるなんてらしくなくない?」

「少々武器の切れ味が良すぎて深く切りすぎてしまった。これは便利だな」

「そんな事より狼肉は?」


 ぐるっと見渡しても狼1匹見かけない。


「リック少年から手に入る物と比べると、商品としては数段落ちるので放置したのだが、必要だったか?」

「当たり前でしょ。何匹倒したのか知らないけど、生の肉は村じゃご馳走だからね。折角たくさんの肉が手に入るんだから村で肉祭りを開けるかと思ったのに……役立たずだね」

「むぐ……っ。しかしだな。たとえ肉を回収してきたとしてもせいぜい1・2匹が限界だ」

「荷車貸すから回収して」

「既に魔物の腹の中だと思うが?」


 となると、まだまだ狼はここに来るって事か。ならやっぱり水場を作って疑似的な牧場として肉回収をグレッグ達にやらせれば、干し肉生活ともおさらばできるかも。うんうん。ぐーたらライフに向けていい情報を貰ったかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る