第79話

 後は経過次第だが、これでキノキノコによる毒の被害はなくなったと思っていいだろう。おまけにフニーってキノコを毎月納品してくれるおかげで追加の収入を得る事も出来た。

 後は村人が増えてくれるのが一番なんだけど、そうるための余暇を作る事は出来ても新しい命ばっかりは魔法じゃどうにもならん。

 余計な仕事を終えて余裕で帰宅。エレナにどやされることもなく実に平和的な昼食を終えた訳だが、今日は夕方まで予定があるんでぐーたら昼寝をする事が出来ないが、それが始まるまではちょっと時間がある。何しようかな……。


「うし。魔道具でも作るか」


 農作業を楽にする魔道具があればぐーたらな時間を作り出す事が出来る。その時間でやる事といえば、娯楽がないこの村じゃあ俺みたいに寝るかヤるかくらいだろう。

 前者は特に必要としてなさそうなんで後回しでもいいかもだけど、後者は積極的に行ってもらいたいね。

 そういった流れに持っていくためにも、ここは是非とも魔道具開発を成功させたい。

 とはいえ魔石の数は有限だから、収穫時に使える物にするしかない。となると真っ先に思いつくのはコンバイン系だが、いかんせん構造が分からん。麦を刈り取って要・不要に分別されるってのはなんとなく分かっちゃいるんだがなぁ……どうすっか。


「ま。適当にやるか」


 最悪刈り取るだけでも楽になるだろう。

 早速亜空間から鉄を取り出して成型。イメージは芝刈り機みたいな感じかな。刃の部分に風魔法を使えば何とかなる。

 そうして刈り取った麦を回収する事を考えると、難しい機構は無理だから……上に人を乗せるか。それなら刈り取ると同時にエスカレーターみたいに上に行くようにしすればいいか。

 後はこの魔道具を押す係と麦を収穫する係の2人だけで最悪何とかなる。

 今手元にある魔道具制作の教本には、風属性に関する魔法陣は3つしかない。風を吐き出す・吸い込む・回転。

 試しに回転の魔法陣を作ってみると、思ったより回転が弱い。液体を混ぜたりは出来そうだけどミキサーみたいにして食材を切ったりするのは難しそうだ。そういうのは攻撃魔法の領域なのかな?

 そうなると、魔法で切るのは諦めて鉄で回転のこぎりを作るしかないな。まずは記憶にあるサイズの物を試しに作り、回転しやすいように風受け部分も作って装着。

 そして実験。この時期に麦は収穫じゃなくて育成なんで、亜空間からなんとなくで回収してあった麦の束を使う。


「うーん……弱いな」


 イケるかと思ったけど全く駄目だな。テレビで見た奴だと一瞬のうちに刈り取ってたけど、この魔道具だと一束刈るのに5秒はかかる。これじゃあ人力の方が早いし、何より魔力の消費が大きい。こんなのを使うくらいなら魔法でスパっとやった方が良いに決まってる。

 重さを軽減するために不要部分を切り取ってみると幾分早くなったけどこれでも足りない。

 こうなりゃサイズダウンしかない。いっぺんに刈り取れなくなるけど、そこら辺はスピードでカバーしてもらおう。しゃがんで鎌を振ってなんてやるより早けりゃいい。


 ————


「こんなモンか」


 結論として現状できるのは二列くらい。この位の幅であれば、現状で出せる回転数に加えて刃先を親方の所から拝借したミスリルで薄く覆う事で大幅なサイズダウンを実現。おかげで一束切るのに1秒と掛からない。これなら合格点だろう。

 次に麦を移動させる機構だ。まずは人が乗る部分上に椅子を作り、そこに吸い込む魔法陣を刻めば勝手に吸い上げて予定になっている。

 最後に大人でも押しやすい位置に取っ手を付け、魔石を取り付ける場所を作ればハイおしまい。1時間もかからなかったな。

 最後に試運転をしたいんだが、あいにくと麦藁の在庫がない。収穫した時に出る余りはそのまま着火剤に転用されるし、亜空間に収まってたのも実験に使った数束分だけでもう粉々。


「後は実際使ってだな」


 今は種植えの季節。ここから数か月後の収穫時期になったら実験と称して使ってみよう。そのくらいの時期になれば王様がくれるって言ってた新しい魔道具の本が来れば改装できるかもしれんからな。

 早々に魔道具を作り終わったが、丁度よく騒がしい一団がやって来た。


「離せよ! くそ親父!」

「離す訳ないだろうがバカ娘! そうしたら逃げるだろうが」

「当たり前だろ! 勉強なんかしたって面白くねぇんだよ!」

「勉強、面白い」

「おれは面白くねー!」


 ギャーギャー騒いでるのはリンとその親父さん。リンの荒っぽい言動からその性格が伺える体格のいい男。

 その後ろにはこの村中のガキ連中の姿があるが、こちらは総じておとなしい。まぁ、気まぐれ勉強会である程度知恵が回るようになって無駄な抵抗だと理解してると信じたいが、そうなるとあのアホはいつまでたっても学習してない事になる。困ったもんだよ。


「うるさいぞー」

「おおリック様。本日もバカ娘をキッチリ連れてきましたぞ」

「ありがとねー。お前もいい加減諦めろよ」

「うるせー! やりたくねぇモンはやりたくねぇ! 勉強なんざしたって何の役にも立たねぇだろうが!」

「ここではね」

「じゃあいいだろうが!」


 ほぼ農家しかいないから文字を読む必要がないし、生活必需品はヴォルフが適量を配ってるから貨幣価値を知らなくてもいいし、計算を覚える必要もない。なので勉強しなくても十分生きていけるけど、俺が生きてる間には村じゃなくて町くらいにはするつもりなので、商店も何店舗かルッツに作らせる予定だから、その時になって計算が出来ないと困るのはリン達だ。

 なのでこうして勉強会をやってるんだが、リンだけはこうして駄々をこねる。


「まぁ、どうしても嫌だって言うなら止はしないけど、この時間にここで勉強をするってのは村中誰でも知ってる事だから、逃げたところで連れ戻されるだけだぞ?」


 今日の勉強会は村人の間じゃあ周知の事実。それに参加せずうろついてるとなれば首根っこを掴んで連れ戻されるのは当然の帰結。諦めるのが吉だ。ここに居れば最低でも連れ戻されたりする際にげんこつを落とされたりしないからな。

 それに、特別難しい事をやってる訳じゃない。簡単な足し引き程度でも日常の買い物程度なら賄える。何せ貨幣価値が10進数だから教えるのも楽でいい。


「……チッ!」

「ほんじゃ席作るから待ってろー」


 魔法でパパっと机と椅子を作ると我先にと座りだす。別にどこだって変わらんだろうと思うんだが、その辺はおっさんの俺には分からん感性なんだろうと思っておく。


「さて、そいじゃ今日は日常会話を読んでもらおうか」

「「「はーい」」」


 魔法で黒板っぽい物を作ってそこに文字を出し、おはようだのいい天気だねといった例文を読ませる。

 やはり気まぐれでやってるからか、忘れたりしてるみたいで時々詰まる事があるけど何とか読み進める。

 中でも優秀なのはもちろんシグだが、内気な性格からかあまり大声ではない。


「——リン」

「……」


 そうこうしてるうちにリンの番が回ってきた訳だが、考えるより動く方が好きなアリア同類の脳筋タイプに属するから難しいか。

 とはいえ、アリアのそばにはエレナが居る訳で。あれに抵抗できる人類が居るならそのご尊顔を拝みたいぜと言わんばかりだからな。ちゃんと文字は書けるし計算も時間がかかるが一桁の足し引きは出来る。まったく使えんがね。


「リーン」

「あんだよ」

「読めないならそう言え」

「よ、読めるに決まってんだろ」

「じゃあ読め。一人にゆっくり時間をかけるほど暇じゃないんだ」


 ぐーたらはしたいが待たされるのは違う。ぐーたらは自分の裁量でどうとでもなるが、待たされる方は相手の都合で数分だったり数時間——果ては数日ともなる。

 そうなると数分程度ならまだいいけど、数時間・数日・数か月ともなると頭の片隅にずっとその事を置いておかなきゃならんので、真の意味でぐーたら出来る訳じゃない。なのでさっさと終わらせてさっさとぐーたらしたいんだ。


「……」

「やれやれ。まぁ読めるようになったら俺を呼べ」


 1人にいつまでも時間をかけるのは無駄だからな。これは義務教育って訳じゃなくあくまで気まぐれの勉強会だ。落ちこぼれを待つつもりはない。日本じゃ文字の読み書きができないのは絶望的だけど、この世界じゃあそれが出来なくても普通に生きていけるしね。

 なので放っておくに限る。面倒な事はしない主義なんでね。

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