第78話

「なぁリック。あれはいったい何なんだ?」

「そうだねー。一言で表すなら、キノコ王国って感じかも」


 ようやく目的に到着したわけだが、そこに広がってたのは数百匹のキノキノコが俺が掘った水路を中心に集落みたいなのを作って生活を送っているではないか。


「あれが今回の毒の原因か?」

「実はそうなんだよねー。それにしても、あれに毒があるなんて初めて知ったよ」


 キノキノコは薄味だが一応食える。なので、俺をはじめこの世界に住んでる奴らも毒があるとは思いもしなかっただろう。

 それなのになんでこいつらが原因と分かったかってのは、これでも一応鑑定魔法が使えるからな。水路を流れる水に使ってみたところ、ガッツリキノキノコの毒が混じってるって出たからだ。きっとあれだけいないと毒にならないんだろう。使い道の無い新発見だ。


「なら処分するのがてっとり早いな」

「まぁまぁ落ち着いて」

「なぜだ? あれが居なくなれば村の病気もなくなるんだろう?」

「かもね。でも使い道がない訳じゃないよ」


 あれだけの量のキノキノコを処分すれば間違いなく毒は消えてなくなる。何せ原因そのものなんだからな。

 とはいえそれをするのはちょっと待って欲しい。改めて確認してみると、ひと月前と比べてうっすらとだけど緑が増えてるんだよね。まぁ、水源が出来たからって理由かもしんないけど、一応確認くらいは必要じゃん? だとすると一旦話を通して、無関係だったら改めて間引きすればいい。


「じゃあちょっと待っててね」

「ああ」


 さて……まずは一発かますか。


「おいコラ! 誰に断ってここに住んでんだ! 許可した覚えはないぞ!」


 土板から飛び降り、近くに居たキノコを蹴り飛ばす。元々こっちの接近には気づいてたんだろうがいきなり蹴り飛ばされると思ってなかったんだろう。大わらわだがこっちには関係ない。ガンガン蹴り飛ばして水の中に居る連中は魔法で引っこ抜く。

 そうこうしてると何やら一際大きなキノコがやって来た。どうやら連中のなかでも腕利きか力自慢といったところかな? まぁ魔法の前では関係ないけどね。


「邪魔だ」


 土魔法で地面に穴をあけて落とす。それだけで簡単に無力化できる。

 その一瞬過ぎる出来事にキノコ達が再びわたわた。あんなのでどうにかなるとか思われてるとは舐められたもんだな。


「この前ここに居たキノコ! 出てこーい。出てこないとこいつら一人残らず消し飛ばすぞー」


 軽く脅してみるとあっという間に数匹のキノコが突き出された。違いが全く分からんが、こうしてわざわざ来たんだ。恐らくあの時の奴なんだろう。その前提で話を進めるとするか。


「おい。なに勝手に集落作って悠々自適な生活送ってんだコラ。絶滅さすぞ」


 俺の脅しにガクガクブルブル震えるキノコ。前回のが無けりゃ脅しが効いてると勘違いするが、あいにくとこいつ等は演技派だ。こうしとけば俺が手心を加えるとか思ってんのかね。


「そういうのいいから。ところでこの辺随分と緑が増えたように見えるけど、お前がやったのか?」


 チラッと集落に目を向けると、前回は湿った土に多少の苔と木が数本って感じだったけど、今は苔の他に雑草が生えてるし。何より木の本数が倍になってるじゃないか。これが続けば緑化が進み、適当に種を植えるだけである程度の品質の果物とかが食えるようになるかも。

 俺のそんな問いに連中は必死に頭を上下に動かす。どうやら肯定してるらしい。


「ならその証拠ってのを見せてみろ」


 口からでまかせなら、水のおかげって事で心置きなく処分できるけど、咄嗟に噓をついたって意味がないのは理解してるだろう。

 一体何を見せてくれるのかねと内心ワクワクしてると、なんと土魔法を使った。まぁ、とはいっても雑草が数センチ伸びた程度で打ち止めっぽいけど魔法を使うとは思わんかったな。


「ほぉほぉ。お前等魔法が使えのかー」


 ちょっと褒めると少数のキノコがどうだと言わんばかりに胸を張る。こいつら状況が分かってんのかな? 一歩間違えば俺に消されるんだけどなー。


「とりあえずお前らが使える魔物ってのは理解したが、かといってここに居られると迷惑だから出てけ」


 何せここは村の重要な水源なんだからな。そこを占拠されると微弱とは言え毒水になってしまう。さすがにそれは見過ごせないからな。

 それを聞いて、キノコ連中は何やらブーブー言ってる雰囲気を出すが、こいつら俺に命握られてるって理解してんのかね。


「文句があるなら家賃として何かしらの対価を払え。そうすりゃ別の場所に似たようなの作ってやるよ。気に入るもんが無けりゃ強制退去だ」


 微々たる土魔法でも、使い物にならない訳じゃない。塵も積もればってやつだな。見てないとこで緑化に役立つなら生かしといても問題ないだろう。

 さてどうするかなとじっと待ってると、何やら相談してる様子だが言葉一切ないんで進捗が分からんのでとりあえず土ソファを作ってぐーたらしてるとキノコがキノコを持ってきた。


「それが家賃替わりか?」


 こくこく頷くんでとりあえず手には取らずに鑑定魔法をかける。だって毒々しい水玉斑点のキノコなんざ十中八九毒と相場が決まってるからな。


「……これで食用? マジかよ」


 鑑定結果はありふれた品ではないがとびぬけての高級品って訳でもない何とも中途半端なフニーなる食用キノコってものだったんだけど、この色合いで食用とか微塵も信じられんな。

 とはいえ鑑定魔法は嘘をつかない。だが俺が食うにはとんでもない勇気がいる。それこそ生まれて間もないあの地獄みたいな状況にならない限りは絶対に口にしたくないから別の人間で試す必要がある。


「うん? 話は済んだのか?」

「その前にこれ」


 ちょうどよくこの世界の常識しかないヴォルフが居る。土板を下ろしてフニーを見せる。


「おぉ。フニーじゃないか」

「知ってるの?」

「ああ。わりかし高級な部類に入るキノコだ。そういえば新人に毛が生えた程度の冒険者がたまに持って帰って来てたがこういう理由だったのか」

「多分ね。それで、こいつらがこれを代金としてこの辺りに居座りたいって言ってるんだけどどうする? 住む場所は作り直すけど」


 俺的にはここからもう一つ水路を作って別の場所に池でも作れば済む話だし、こいつらに殺傷力がほとんどないのは傭兵として活躍してたヴォルフも知ってる事だからな。


「……数によるな。いくらフニーがそこそこ高級品とはいえ、村人の健康被害の可能性を考えるとこの程度しか採れんのならこいつらを処分した方が早い」


 ギロリと睨みを利かせるだけでキノコ達が身を寄せ合って小刻みに震えている。殺気の類とかが分からないんで憶測になるが、俺の時と比べて随分と余裕がないように感じるんでマジでビビってるんだろう。


「ほら。死にたくなかったらひと月にどのくらい採れるのかもってこい」


 手を叩きながら行動を促すと、キノコ達は一斉に動き始める。


「ふむ……キノキノコは人の言葉を理解しているのか」

「みたいなんだよねー。そういう報告は聞いた事ないの?」

「ないな。そもそも魔物相手に会話を試みようとする方がどうかしている」


 さらった息子をディスってくるなよな。

 そんな会話をしてるとキノコ達が大勢やってきて目の前に大量のフニーを置いた。その数は50個ほど。


「これがひと月の収穫量か?」


 こくりと頷くキノキノコ。凄いな。ひと月って時間の感覚まであるのかよ。その事にヴォルフはまったく気づいてない様子だが特に気に留める事でもないんで放っておこう。こいつらが適当に合わせてるだけかもしれんしね。


「これだけあれば銀貨7枚くらいにはなりそうだな」

「それは立派な収入だね。じゃあ生かすって事で問題ない?」

「構わんぞ。こちらに被害が無くなり、フニーが手に入るならキノキノコが数十数百いたところで問題ないくらい広いからな」

「だね」


 無駄に土地だけは広いからね。ここに来るにも馬車でも結構時間がかかるだろうから、恐らく俺が生きてる間はこっちの方まで村は広がらんだろう。


「じゃあさっさと別の水路作っちゃうね」

「昼までには間に合うな?」

「当たり前でしょ。じゃなかったらいったいどんな目に合うか」


 考えただけでも恐ろしいが、この程度の事でちんたらするほど俺の魔法技術は未熟じゃないからな。

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