第51話
「来るぞリック。起きろ」
ヴォルフに起こされて椅子から飛び降りるとその勢いのままテーブルに顔面強打。
「いてて……」
「大丈夫か?」
「おかげで目が覚めたよ」
鼻の奥がツーンとしてるけど血が出るほどじゃなかったのは幸いだ。
軽く身だしなみを整え終えるとすぐに人が入って来た。まぁ、王様じゃなくて筋骨隆々の頑固そうなおっさんが一番で、次に鼻の辺りまで前髪を伸ばしてる顔色の悪い金髪巨乳の魔法使いが入ってきて、最後に壁に飾られてる絵より幾分細く、毛髪量が薄く感じるおっさんが入って来た。
そんで、その姿を確認するとヴォルフが地面に片膝をつく、アニメなんかで見た事があるあの体勢になったんで、俺もとりあえず形だけ真似る。
「よい。此度は非公式な謁見故、そうかしこまらずとも楽にいたせ」
「はっ」
その言葉を聞いてようやくヴォルフが立ち上がったんで俺もそれに続き、椅子に腰を下ろす。
「久しいなヴォルフ。息災であったか?」
「息子のお陰でこうして今年も陛下の御前に参じる事が出来ました」
「ふむ……その少年が件の魔法使いか?」
「はい。挨拶するんだ」
「……リック・カールトンです」
馬鹿丁寧にやりすぎて不審に思われるよりこの程度の方が年相応のガキっぽいだろうと腰を90度に曲げて頭を下げる。間があったのは寝起きって事もあって頭がボーっとしてたせいもあって普通に忘れてたからです。
「エリシャ。どうだ?」
王様っぽいのが目隠れ金髪にそう尋ねる。
同じ魔法使いだから魔力量でも調べてんのかな? 見た目若く見えるけど相手の魔力量はヴォルフより多いから、今まで見てきた中じゃあフェルトの次くらいかな? まぁ、それでもフェルトの10分の1にも満たないけどね。
「魔力……多い……異常……」
「ほぉ……では報告に相違ないか?」
「ん……これなら……可能……」
ボソボソ喋ってるせいでこっちまで声がほとんど届かないけど、頑固そうなおっさんの表情を見るになんかに驚いてるっぽい。
チラッとヴォルフに目を向けると、知らない相手みたいで小さく首を振るにとどまった。
「分かった。リックよ。お前はその若さでどのようにしてあの地を富ませるほどの魔力量を手にしたのだ」
「えっと……」
ちらっとヴォルフに目を向けると言えという念が鋭い眼光を通じて伝わってくるけど、正直言ってこの手の話は何度もしてきただけに正直言って面倒臭くなってきてるのが現状だ。
なので、少しばかりメリットが欲しい訳よ。より正確に言うのなら、金だ。
「その情報に王様はいくら出します?」
「リック!」
俺の発言に現場が凍りつく。
ヴォルフは声を荒げるし、金髪目隠しは息をのんだし、王様の背後にいる頑固そうな騎士はこめかみに青筋を立ててめちゃくちゃイラついてるのが一目で分かるが、これは譲れんよ。
種を明かせば簡単石を握るだけの単純な物だけど、そうと知らない限りは手札として使えるんだ。嫌なら毎日周囲に迷惑をかけながら魔力を増やせばいい。俺はこの国がどうなろうが知ったこっちゃないからな。
だが、提案された本人である王様は顎に手を当てて何やら考えてる。
「ふむ……では金貨20でどうだ?」
悪くないかな? 1年分の収入が簡単石を渡す程度でもらえるのであればぼろ儲けと呼んで差し支えない。
だがしかし、ぐーたらライフの謳歌を邪魔しただけじゃなく、麦の品質低下までされたてその程度で引き下がる俺じゃあない。金貨20はかなりの大金だが、それはあくまで簡単石の情報に対する報酬であって、損失補填分じゃあない。
「追加で魔道具の本も欲しいですね」
「リック!」
さすがに厚かましすぎるとヴォルフから頭蓋骨が割れるんじゃないかってくらい勢いのあるげんこつが叩きつけられた。
まぁ、俺は魔法使いなんで、事前にしっかりと防御済みなんで即死レベルの一撃だろうとビクともしないが、救国の英雄のソレを受けて平然としてるのも困った事になるんでちゃんと痛がってるふりは忘れない。
「~~ったぁ……何も殴る事なくない?」
「黙れ! 申し訳ございません陛下。息子は後できつく叱っておきますので」
「構わぬ。して、何故魔道具の本を望む?」
「ぐーたらするためです」
「ぐーたら? ぐーたらとはなんだ?」
「働くことなく日がな一日ベッドで過ごす事です」
鼻息荒くそう言い切る俺に対し、ヴォルフは額に手を当てて深く深くため息をつき、目隠し金髪と頑固っぽそうな騎士は不快感が顔に出てるけど、王様に関しては随分と面白い物を見るような顔をされた。
「時にリックよ。成人したら余に仕える気はないか?」
「これぽっちもありません」
王様直々のスカウトノータイムでノーを宣言。その瞬間に頑固っぽい騎士からかなりの殺気が叩きつけられたけど言葉を取り消すつもりはない。俺の命はぐーたらライフのために存在しているのだから、面倒臭そうな宮廷生活なんて強制してくるようだったら速攻他国に逃げる。
「そうか……年に金貨50出すがどうだ?」
「100だろうと1000だろうと変わりません。俺は生涯を掛けて父さんの領地を豊かにするって心に決めてますんで」
いい事言った風に言葉を締めくくったけど、俺の横では何心にもない事言ってんだよって鋭い視線が向けられるが普通に無視する。一応間違ってはいないぞ? 俺が生きる目的の1割くらいはその気持ちが入ってるからな。
「そうか……して、魔力を増やす方法とはなんだ?」
「別に難しい事はないです。これを握るだけです」
ポケットから取り出した風に亜空間から取り出した瞬間。目隠れ金髪がこっちを向いた。
「なに?」
「なん……ない」
宮廷魔導士をやってるからか魔力には敏感みたいだが、詠唱が常識のこの世界で違和感を感じたところで無詠唱を隠してる限りは証拠がない。アリバイは完璧だ。
簡単石をテーブルに置くも、王様や御付きの2人もなんだこりゃって感じの顔をしてみてるんで、とりあえず目隠し金髪に向かって放り投げてみる。
「——ッ⁉」
受け止めた目隠し金髪が一瞬で簡単石を放り投げる。
そして、それを危険物質だと判断したらしい頑固っぽい騎士が即座に俺に向かって剣を振り抜いてきたみたいだけど、ヴォルフが紙一重でそれを防いでくれた。
とはいえ、万が一直撃したとしてもフェルトの魔法を数発は耐える強固な結界を張ってたんでかすり傷一つありませんとも。
「息子に向かって何をする!」
「それはこちらのセリフだ! エリシャに何をした!」
「ガイウス。剣を収めろ」
「しかし陛下!」
「余は収めろと言った。命が聞けぬのか?」
「……かしこまりました」
渋々といった感じでままずは頑固騎士が剣を収め、遅れてヴォルフも剣を収める。
俺の軽々しい行動1つで空気は最悪の状態だが、気にしたところで時間は巻き戻らない。パンと手を叩いて強引に切り替えよう。
「それじゃあ話の続きをしましょうか。この石は触った人の魔力を際限なく吸い続けるっていう特性があります」
「魔力がない人間が触るとどうなるのだ?」
「今のところ何の変化もないですね」
村でも実験のためにさりげなく何人かに触ってもらったけど、誰もぶっ倒れなかったどころか平然としてたんで、短時間であれば問題ないだろうと判断してる。長時間は怪しまれそうなんで試してないけど、あの体から何かが吸い取られるような奇妙な感覚は初見だと間違いなく反応があるから、きっと大丈夫だろう。
「なるほど。それでエリシャが反射的に石を投げたという訳か」
「魔力を増やすには空にする。俺はそれしか知りません。だけど魔法を街中でぶっぱなし続けるのもそれはそれで迷惑。だからこの石を握る。これなら静かだし、大きさである程度吸い取られる量なんかも調整できるんで、どうぞご自由に」
そういってソフトボール大の簡単石に目を向ける。サイズでいえば相当量吸い取られたと思うけど、一瞬だったこともあって目隠し金髪がぶっ倒れる事はなかった。とはいえ長時間は厳しいだろう。
「ふむ……では適量に切り分け訓練用とせよ」
「了解……です」
目隠し金髪では持てないだろうから、頑固っぽい騎士が改めて手に取るもやはり反応はないので普通に退室していった。
やれやれ。いろいろと問題はあったけど、とにかく目的は達した。魔道具の本に関してはなんでも手続きが必要らしく、数日中に届けさせるとの言質をもらったが、金貨に関してはすぐに用意してくれた。これだけあれば随分と色々買えるぜ。
「ではまた報告会で」
「うむ。今年も良き報告を期待しておるぞ」
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