第49話
「はーい到着ー」
時間にして10分くらいかな。目的地であるゴーレム埋没場所にやってきたわけだけど――。
「父さん元気だね」
「そうか? いつも通りだと思うんだが?」
いつもの超スピードでの移動。経験は少ないが同行した連中で例外なく男はビビり。女は嬉々として喜んだ。その例に当てはめればヴォルフも間違いなくビビると思ってたんだけど、平然としてる。
「あの冒険者の男2人は今のに乗って悲鳴を上げてたんだよね」
「あぁなるほど。それであれば父さんは問題ないぞ。何せ大砲で敵城の中に飛び込んだこともあるくらいだからな。あの程度ではどうという事はない」
「逆にこっちが驚きだよ」
人間大砲って……しかもサーカスなんかで催されるレベルの話じゃない。マジの大砲に入って数百メートル吹っ飛んだとすればそりゃああの程度じゃ怖くはないわな。何せ着地点に敵がいるわけだし、そもそも発射の瞬間に死ぬかもしれないんだ。
それをさも当然のようにやってのける胆力は英雄にふさわしいのか。はたまた考えてないのかは当事者じゃないんで分からん。
「さて――ゴーレムの残骸はどこだ?」
「うん? ここで出しちゃっていいの?」
「構わん。周囲に人の気配もないうえに、王都からここまであの速度についてこられる馬車などありはしないからな」
「それじゃあ引き上げるね。掘削」
要求通りにゴーレムの死体——呼んでいいかどうか知らんけどそれを地中から引っ張り出し、そこら辺に「さもゴーレムが暴れたであろう窪地」をいくつかこしらえればあら不思議。ここで激戦が繰り広げられたように見えるじゃありませんか。
「……芸が細かいな」
「こうすれば父さんがやりあったっぽく見えるでしょ? それで? どの辺が討伐証明になるの?」
「頭部にある球体だ」
頭部にある球体となると目玉っぽい役割をしてるだろう物が当てはまる。
周囲を土魔法で削って取り出してみると、確かに球形の石材だ。ゴーレムの体格からすると子供の手でも片手で持てるサイズだ。重量は別だけどね。
「重っ! 肩外れるかと思った」
「それがゴーレム討伐の嫌われる要因の一つだ。本体自体も魔法使いが居ないと討伐困難なうえに、その証明部位は一つでもとんでもなく重く運搬に金がかかるのに報酬が安価。誰も手を出さないある意味災害級の魔物だ」
確かにこれは厳しいな。俺なら魔法でどうとでもなるけど、ヴォルフをもってして重いと言わしめるほどの重量は並大抵の連中には持ち上げる事すら困難だろう。そんなものをギルドまで運んで銀貨は1枚。誰も手を出さん訳だ。
しかし、聞く限りだと百害あって一利もない。まさに邪魔な代物でしかない物をわざわざ買い取る理由が思いつかない。
「なんでこれを討伐部位に指定したんだろうね」
「さてな。父さんはギルドの人間だから分からんが、これぐらいしかゴーレムの物だという確証がないからだろう」
「なるほどねー」
魔石は魔道具の燃料として使われるし、ビビットカラーの石材は貴族に人気。残ってるのは正直言ってどこにでもありそうなレンガを積み重ねただけの物を討伐証明にしたら偽装し放題。
そうなると消去法でこれになる訳かぁ……ギルドも災難だなぁ。遠慮しないけど。
なにせこれを全部持ち込むだけで2ヶ月分に匹敵する儲けになるんだ。遠慮なんかしてらんねぇっての。
「終わったよー」
「早いな。普通は幾度も休憩をはさみながらの作業になるんだが、やはり魔法は便利だな」
「だよねー。歩く必要もないし年中適温で暮らせるからぐーたらし放題。こんな才能を授けてくれた神には感謝しかないよ」
「感謝の仕方は間違ってるがな。では冒険者ギルドまで戻るとするか」
「だねー。ところで父さん。残ったゴーレムの体ってどうすればいいのー?」
「その辺に捨てて置いて構わんぞ」
捨てるのかぁ……何かしら使い道は無いのかと鑑定魔法をかけてみるも、本当にただの石材としてしか使い道がないらしい。本当に隅々まで魔法が貴重なこの世界で厄病神な魔物だな。
とはいえこのまま放っておくのも天下の往来だしね。とりあえずアリバイ作りに適当な大きさに切り分けたり、砕いたりした物をその辺にばらまく。
「随分と細かいな」
「このくらいやっておけば父さんが暴れたって言い訳が通じる。じゃあ帰ろうか」
「うーん……父さんとしては実際に戦ってみたかったんだがな」
「昼に間に合うの? ゴーレムって面倒な相手なんでしょ?」
俺としてはぐーたらライフが最上位に位置するんで、国王との謁見に遅れようが中止になろうがどうでもいいけど、国王に対して並々ならぬ忠誠心があるヴォルフの優先順位にはそれがかなり上位にある。
最悪俺が手伝えばそこで一瞬で切り上げられるけど、ギルドの具合が分かんない以上は余裕を持った行動をするのが日本人でしょ。5分前行動。これ大事。
「ならここで手を打とう。陛下を待たせる訳にはいかないからな」
「じゃあ帰ろうか」
大量のゴーレム眼球を荷台に乗せて、ささっと王都までとんぼ返り。
正直言ってここまでで30分もかかってない。やっぱり時間ギリギリまで寝ててもよかったんじゃないかなーって思いは、冒険者ギルドの戸をくぐったところでなりを潜める羽目に。
「テメェ! そいつは俺様が狙ってた依頼だぞ!」
「残念だったな! 依頼は早いもん勝ちなんだよ鈍間!」
「ちょっと! 依頼取るのにかこつけて今誰かあたしのお尻触ったでしょ!」
「馬鹿言うんじゃねぇ! お前みたいなボア女の尻なんざ誰が触るか!」
とまぁこのように、通勤ラッシュのごとくギルド内は冒険者でごった返してて、正直1メートル進むのも難儀するほどだ。
「ちょっと父さん。早い方がよかったんじゃないの?」
「そうだぞ? この混雑が後鐘が一つでも鳴るともっと混雑するんだ」
「噓でしょ」
現状でも乗車率100パー越えの電車みたいに混雑してるってのに、これよりさらに混雑って……身動き取れないだろ。
「それよりまずはゴーレム討伐の依頼書を剝がす事からだ」
「それなら問題ないよ」
昨日来てるから大体の位置は把握済みなんで、無魔法で依頼が張られてるボードからそれだけを引っぺがす。
「器用だな」
「この程度なんてことないって。それよりも進まないと」
「その辺りは任せておけ」
ドンと胸を張ったヴォルフに担がれると、ぎゅうぎゅうに詰まった人の波を何事もないかのようにかき分けてずんずん突き進むが、当たり前だけどそうするためには通行の邪魔となる奴をどかさないといけない訳で……。
「ぬお⁉ なんだテメェ!」
「悪いな。急いでるんだ」
当たり前の文句に対し、ヴォルフが凄みのある顔で応答するとすごんだ相手はもれなく怯む。これだけの迫力をもってしても怒ったエレナの前では借りてきた猫のようにおとなしい。
やがて受付までたどり着く。
「この依頼を達成した。確認をしてもらおうか」
「か、かしこまりました。それでは討伐部位の提示をお願いいたします」
「リック」
「はいよー」
言われるがままにゴーレムの眼球を受付に置く。乱暴に置くと台が壊れそうなくらい重いんでゆっくりとだ。
最初は受付も数個程度でしょ? みたいな顔をしていたが、それが10・20と増えるにしたがって笑顔が引きつり、23辺りで一度タイムが入った。
「さすがにこれ以上乗せられると机が壊れてしまいます!」
「でもまだあるんだけど?」
「いったいどのようにしてこの数を――って! あ、貴方は英雄ヴォ――」
嫌な予感がしたんで咄嗟に風魔法で受付嬢の周囲の音を完全カット。何か喋ってるみたいだけど幸い何も聞こえない。
「リック……」
「あそこで父さんの名前を大声で叫ばれてたら昼には間に合わなくなるかもしれなかったかもしれないんだからいいじゃん」
ここらでようやく無音の世界に居る事に気づいたらしい受付嬢が何かを喋ってるが聞こえないけど、その動きから落ち着いたと判断して魔法を解除する。
「あっ。聞こえるようになりました」
「こっちは急いでるからさっさと清算してもらいたい」
「えと……これだけの量となりますと本物か調査をするのにそれ相応の時間を必要と必要とするのですが……」
「どんくらいかかるの?」
「そうですね……とりあえず今日中は不可能です」
「では明日の夜に顔を出す」
そういってギルドを後にする。
ちなみに残った時間はぐっすりと眠らせていただきましたとも。
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