第48話
「リック。リック起きろ」
「んぅ? もう朝?」
ゆさゆさと揺さぶられて目を覚ますと、当たり前だけどガラス窓じゃないんで室内は真っ暗。無魔法で戸を押し上げながら光魔法で光源を確保。眠い目をこすりながら外を見やるとなんとまだ日が昇りきってないじゃないか。こいつぁ二度寝案件だぜ。
「おい! 寝るんじゃない!」
「なに? まだ起きる時間じゃないんだから起こさないでよ」
俺が起きるのは大体午前8時くらいなんで、見た感じ4時5時くらいの早朝とも呼べんような時間帯に起こされるような極刑を受けるほど悪い事をした記憶はない。
「馬鹿言うな。ゴーレムの回収をするんだろうが。さっさと起きろ」
「早すぎるよー。まだ日すら上ってないじゃん。門を通してくれないってー」
ほんの一瞬しか確認しなかったけど、まったくと言っていいくらい太陽が拝めなかった。こんな時間にそもそも門が空いてるかどうかも怪しい。わざわざ睡眠不足の体を引きずって向かった先で通行不可なんて言われたら気が狂うかもしれん。
「この時間であれば商隊であったり冒険者はもう動き出している。早く行かなければゴーレムを掘り起こしてる姿を見られるだろうが」
「そんなの人の目がない場所に地中から移動させればいいだけの話でしょ」
見つかると厄介っていうのはあくまで魔法が使えない連中がスコップなんかで掘り返す前提の話であって、魔法でどうとでもなる俺からすると何の不安もない。むしろ寝不足になる方が重大。なので引きはがした布団を返して欲しい。
「そうも言ってられん。ゴーレム40体分の討伐証明をギルドに提出するとなるとそれ相応の時間がかかるんだ。昼から陛下との謁見が控えてる以上、せめて討伐証明の提出までは済ませないといかんのだ」
「それでいいなら十分間に合うって」
王都から出るまでは面倒だけど、一度出てしまえば後は魔法フル活用出来れば30分もかからん。冒険者ギルドもヴォルフがゴーレムを狩って来たと言えば英雄特権で受け付けてくれるだろう。
つまり、大体1時間もあればすべてが丸く収まる。時計がない世界でぐーたらして5年。体内時計が多少は形成された今でも後4時間くらいは寝れると言っている。ならば俺は睡眠を重視すする!
「そういう訳にはいかんからこうして起こしてるんだ。幸いギルドは朝だろうと昼だろうと夜だろうと冒険者を受け入れているからな。さっさと済ませた方がエレナや娘達への土産を選ぶ時間が取れるんだ。無言の圧を受けたくなければ起きろ」
「……ふえーい」
エレナの圧は確かに嫌だ。性格なのか遠慮してるのかによって変わるけど、物欲らしい物欲があまりない。しいて言えば甘味だが、それは自作できるんでさほど心配はしてない。
問題は何を欲するかというところだ。正直言って甘味以外に欲しがるものが全く思いつかないが、それを作るには非常に手間がかかる。バター。生クリーム。果物などなど、現状の村ではどうあがいても手に入らない物ばかり。そもそもこの王都にあるかも怪しい。
それを調べるのも悪くはないか。最悪俺の氷魔法で冷蔵すれば半月なら何とかなるだろう。まぁ、王都土産とは言えないかもしんないけど構わんだろう。
「ったく……起こすだけでここまで苦労するとは……将来が心配で仕方ない」
「心配いらないよ。成人したら勝手気ままに生きるから」
「それが心配だと言ってるんだ。まったく……どうしてこんな息子に育ったんだ」
「いやー。褒められると照れるね」
「褒めてない」
軽く頭を小突かれながら部屋を出ると、こんな時間だってのに厨房の方はもう明かりがついてる。マジかよ……。
「こんな時間から労働⁉ 正気の沙汰じゃない」
「裏方はこんなモンだ。まぁ、奴は真面目過ぎるきらいがあるから自然と目が覚めるんだろう。爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいだ」
「そんな事をしたらゲイツ兄さんが融通の利かない頑固者になっちゃう可能性があるからやめておいた方がいいよ?」
「……」
「どうかしたの?」
「いや。何も言うまい」
なんかよく分からんが呆れられたらしい。
さて。渋々ながら宿を後にした訳だけど、やっぱ朝と違って人が少ないし太陽も出てないから寒いな。反射的に火魔法で暖を取る。
「この程度で魔法を使うな。衛兵に見つかったら事だぞ」
「なら手法を変えるまで。暖房」
火魔法が駄目なら風魔法。これで俺の周囲を25℃くらいの気温に変化させる。これならパッと見ただけじゃあ魔法を使ってるとは思わんだろう。魔法が使えて衛兵なんてやってるような奇特な奴もいないだろうし、これで大丈夫。
「じゃあ行こうか。造形」
「……あくまで歩くつもりはないんだな」
「あと3時間もすれば多少動くよ?」
寝不足の状態で叩き起こされたんだ。魔力は常時絶好調だけど肉体は7割くらい現実を受け入れないのかだるい。なのでそれまではいつも通り魔法で全てをこなします。異論はもちろん認めません。
「なら行くとしよう」
「引っ張ってくれるともうちょいやる気出るけどどう?」
「馬鹿言ってないでさっさと来い」
「ちぇー。駄目か」
結局自力で地面をけりながらのろのろとした速度で東門へ。
——————
「うわぁ……本当に開いてんじゃん」
「だから開いてるといっただろう」
てっきり俺を強引に起こすための嘘で、実際に開いてなかった場合はエレナにこの後手に入る臨時収入でしこたま酒を飲んで酔い潰れてた等の報告をする予定だったのに、早速躓いてしまった。
しかも本当にこんな日も登らない内なのに商人っぽい連中と一緒に冒険者の姿まで確認出来るじゃないか。
「こんな時間からよくもまぁ働けるもんだね。尊敬はするけど見習えないなぁ」
「父さんとしては見習ってほしいんだがな。行くぞ」
「へーい」
促されるがままに向かった先はなぜか一般用の門。そっちはこんな時間だってのにそこそこ混雑しててにぎやかだ。
「なんでこっち?」
「あっちは馬車専門でな。それにあっちは通行できるまでまだ時間がかかる」
「なるほどねー」
つまり貧乏人は日も明けきらぬうちからあくせく働けって事か。やはり貴族に転生してよかった。これが平民だったら子供も労働力に換算されてそれこそブラック企業のごとく働かされてただろう。
……まぁ、今も似たようなもんだけど、そこまで強制されないっていうのが救いだね。これで魔法を使えだどうのこうの言われてたら家出していたかもしれん。
「うげ……」
「うん? おっさんじゃないか。衛兵って聞いてたけどなんで門番なんかやってんの?」
行儀よく列に並んで順番を待ち、ようやく番が回って来たんで通行証を渡した人物は、王都観光を共にしたおっさんじゃないか。
「おれはおっさんじゃねぇ! 当番の奴が急病でな。その代わりだ」
「大変だねぇ」
「まったくだ。ってかこんな朝っぱらからなんでいるんだよ」
「お金稼ぎだよ。うちの父親は英雄だからね。ゴーレムの10や20パパっと討伐して報酬をたっぷり稼いでもらうんだよ」
「あー……確かにそうしてくれりゃおれもアンナに顔向けできるわー」
「ふふん。父さんの事を神とあがめるがいいー」
「そりゃ元からしてるっての。ほれ。迷惑かけんなよ」
「分かってるよー」
簡単な身体検査を終えて門をくぐり、ヴォルフがやってくるまでに土魔法で板を作って無魔法で浮かせてぼーっとしてるとすぐにやってくる。
「待たせたか?」
「英雄は人気者だからね。もう少し遅かったら寝てるところだよ」
「……お前なら本当に寝そうで怖いな。では急ぐとするか」
「はーい」
って訳で、全力全開でぶっ飛ばすぜー。
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