第45話
「終わりました」
時間にして10分ほどかね。そんな短時間で2人が戻ってきたわけだけど、その手には何個かの魔石が見える。
「なんか侵入してたの?」
「森猪が近くをうろついてた程度だな。とはいえ放っておいたら何するか分かんねぇからこうして退治しといてやったって訳よ」
「ふーん……特に何もなかったんなら帰ろ。今日はいっぱい動いて疲れちゃった」
「……動いた?」
隣のアカネからびっくりしたような表情と共に疑問の声が上がる。失礼な。
40のゴーレムを魔法で押しつぶしたし、3人を探すのにキックボードのふりをするために片足だけ結構動かしたし、そもそもルッツの店も行った上にこうして森の奥の方までやってきてるんだ。今日1日だけで相当な運動量といっても過言じゃあないというのに、それをこの程度で疲れるってマ? みたいな顔をされるのは非常に心外だ。
「とにかくここの無事が確認できましたんで、王都に戻りましょう」
「だね。やる事もあるから急がないとねー」
石像の色付けは簡単に済むけど、問題なのはあの人形だよ。道中で刻まれてた魔法陣自体はすぐに解析が終わった結果、その動きは軽く踊る程度の物だった。まぁ、それはそれで人形を作れば人目を惹くだろうけど、目立ちそうなんで作るつもりはない。
「はぁ……またこれに乗るのかよ」
「諦めろ。リック様が居なければ万が一ゴーレムに出くわした場合どうにもならないのだから」
「大丈夫だよ。通り道の魔物は避けてもらうから」
「リック様の魔法に関するあらゆる事が異常。ワイバーンも倒せそう」
まぁ、ワイバーンくらいなら倒せるけどね。とはいえそれが異常なのは十分理解してる。何せ英雄であるヴォルフが苦戦するくらいだからね。それをフェルトは軽々数十匹をぶっ殺す訳かぁ……さすが世界最強。
「ワイバーンって何?」
知ってると怪しまれると判断して普通に知らんふりを決め込む。
「竜の一種ですよ。一応最弱とされておりますが、銀級のパーティーでもなければ手も足も出ない化け物です」
「父さんでも難しいの?」
「どうなんだろうな。あの人も大概凄ぇって聞くけど、やっぱ空飛んでのは反則だろうから1人じゃ無理なんじゃねぇか?」
「おぉ……そんなに強いんだ」
「つっても、オレ等も見た事はねぇんだけどな」
まぁ、ヴォルフが苦戦するレベルの魔物を相手に、銅級でしかない3人じゃあ手も足も出ずに食い殺されるのがオチだろう。急降下からの一撃は事前知識がないと結構びっくりするからな。
「へー。そんなに危険な魔物なんだー」
そこまで恐怖の象徴だったとはね。それを相手に出来る俺って結構強いんだね。基準がフェルトしかないからあのあたりの魔物の強さとかあんまわかんないんだよな。
「2人ともさっさと乗る」
軽い雑談に花を咲かせていると、アカネがすでに板に乗ってバシバシ叩いている。すっかりスピードに取りつかれたようでその表情は鬼気迫るものがある。
「お、おう……」
「なんでお前は平気なんだよ。怖くねぇのか?」
「全然。リック様が魔力操作を失敗するなんて考えられない。だから問題ない」
全幅の信頼を寄せられてる。俺としては十分に安全マージンを取ってるだけなんだが、そんな説明をしたところで理解は得られないだろうから黙っておく。
「王都に帰るのはいいんだけどよぉ……残してきた残骸はどうすんだ?」
ギンが言ってる残骸っていうのはゴーレムの死体の事だろう。
石材と魔石はあの場に残して置いたら誰かに盗まれる可能性を考慮して一緒に運んできたわけだけど、さすがにあれをこんな狭苦しい場所まで運ぶのは魔力の無駄遣いだからな。
「リーダー達が狩った事にすればいじゃん。討伐証明だっけ? 必要な部分は切り出すから教えてよ」
それを持って帰れば銀貨1枚になる。それが40ともなると金貨4枚。俺が月に稼ぐ倍近い金額をたった数時間で稼げたし、3人もこれだけのゴーレムを狩ったとあればギルドの覚えもよくなると思うのの何が駄目なんだろうか。
「無茶言わないでください。我々は銅級になったばかりの半人前です。一体であればアカネが居るのでまだ誤魔化すことが可能でしょうが、これだけの数となりますとさすがに不正を疑われてしまいます」
「え? それじゃあ金が手に入らないじゃん。なら父さんだったらどう? この数を持ち込んだとしても怪しまれないかな?」
ヤバいぞ。このままだったらせっかく懐に入る予定だった金貨4枚がおじゃんになってしまう。それだけは何としてでも回避せねばならん。何せ金貨4枚だからな。それだけあれば……酒に消えそうな気がするなぁ。
「英雄なら納得してもらえるんじゃねぇか? ゴーレムを斬り壊したって吟遊詩人が歌ってんのをちらっと聞いたことがあるかんな」
「そうなんだ……じゃあ父さんを連れてもう一回来るまで地面に埋めてに戻ろうか」
これは断固抗議しなければいけないな。俺もあんま考えずに行動したけど、ヴォルフは確実にこいつ等ではギルドで清算できないと分かってたっぽい気がする。
「またそれに乗るのかぁ……」
「文句を言うな。我々だけでゴーレムがさまようこの森を移動するのは危険が大きすぎるんだ。諦めろ」
「なぁリックよぉ。もうちょいゆっくり走ってくんねぇか?」
「仕方ないなぁ……じゃあ木の上を飛ぶよ」
スピードを落とすって選択肢はない。なので目に見えての安全で手を打ってもらおう。遮るものが何もないのであれば、多少早くたって文句は出まい。
——————
「はい。これ依頼料ね」
「ん。銀貨5枚、確かに」
「じゃあねー」
シッカリとゴーレムを地中深くに放り込んでから王都に戻ると、2人は相変わらずグロッキーなんで、しばらく動けそうにないがこっちはこっちで忙しいんでアカネに護衛代として銀貨5枚を支払って別れた。
さて、綿が手に入らなかったのは残念だけど、目的の石材は大量に手に入った。後はこれでリラックスしてる熊だったり、垂れ下がったパンダだったり、ハローと挨拶する猫っぽい何かを作る事が出来るし、ジェンガもカラフルになる。
後はあの人形と同じようにするかどうかだね。とはいえ魔力がないと動かせないし、ゴーレムから手に入れた魔石は村の貴重な財産なんで使うのははなから選択肢に入ってない。
その辺はヴォルフに聞いて判断を仰ぐとす――いや、この報告をしたらやれと言われそうな気がするからやめておこう。道中で人形を分解してうんうんうなってる姿を見られて何か話したような気がしないでもないけど、黙っておこう。
「さて……宿でいいかな」
石像を作るには当たり前だけど土が要る。まぁ、ちょっと下に目を向ければ無尽蔵に存在してるからどこでだって作ろうと思えば作れるんだが、天下の往来では人の目が多い。
それに比べてあの宿屋は奥まった場所にあるから人通りはあんまないし、そっちに背を向けて作業すれば少々小綺麗な格好をした子供が土いじりでもしてんだろうと推察される程度で済むしな。
なーんて事を考えながらキックボードもどきで大通りを移動してると、少し先の方に懐かしい顔を見つけた。
「おーい。ゲイツ兄さーん」
「うん? リック⁉ どうして王都に――あぁ……報告会についてきたようだけど村は大丈夫なのかい?」
俺の登場にかなりビックリしたみたいだけど、理由が分かってほっと胸をなでおろしながらそう尋ねてきた。うんうん。やっぱり優秀なだけあってあの村から俺が居なくなるって事があの村にとってどれだけの損失かをよくわかってくれてる。
「一応はね。それよりもこんなところで何してるの?」
「ああ。ちょっと女性への贈り物を探していたんだよ」
「なん……だと⁉」
あのゲイツが女性に贈り物だと⁉ この世界は明日滅んでしまうかもしれんぞ。
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