第44話
「おー。緑生い茂る森林だー」
現場に到着してみると、やはり荒廃した我が領地と違い、雑草も伸び放題だし花も木もかなり密集してる。なので、少し探索魔法を広げるだけでそこに暮らす魔物や動物の気配をビンビン感じる。
いいなぁ……平和なのもそれはそれで利点だけど、やっぱ新鮮な野菜や肉は食いたいわけよ。
まぁ、これだけの規模の森を維持するにゃあそれ相応の水と養分ってのが必要になる訳で、水は一応確保できたけど養分がなぁ。
「さて……それじゃあゴーレム退治を始めようと思うんだけど、いくら危険がないっていったってだらけすぎるのは良くないと思うなぁ」
ちらっと背後に目を向けると、アカネは詠唱短縮のための訓練を淡々と続けてるんだが、残り2人の男どもが地面に寝転がったまま起き上がる気配がない。やれやれ……まさかここまで乗り物に弱いとはね。
あれからのんびり東門まで歩を進め、王都を出るや否や魔法で全員を縛り上げて土板に。それを時速60キロ程度でぶっ飛ばしながら森へとやってきたんだが、リーダーとギンはイラつくぐらいうるさかったし、アカネもアカネで顔を真っ赤にして普段とは別人みたいな笑みを浮かべてはしゃいでた。
その結果がこの現状を生み出してる。
「無視して……大丈夫」
「あっそ。じゃあさっさと終わらせちゃおうっと。索敵・連行」
時間は有限なんでパパっと済ませるに限る。
まずは手近な魔物を探るために再び探知魔法で森の中を探ると、サイズを考えてゴーレムだろって感じの魔力があったんで無魔法で即捕獲。そのまま森の奥から引っ張り出す。
「なんだハズレか。圧縮」
目論見通り、森から出てきたのは全長3メートル越えのレンガを積んで造ったようなシンプルなゴーレムだけど、肝心のビビットカラーじゃない。どこにでもいそうな土色じゃないか。
確認が取れたところでそのゴーレムを魔力で握り潰してみると、ロクに抵抗される事なく圧縮に成功した。
「うん。楽勝だけど――ハズレかな」
ヴォルフが止める様子もなかったんで大丈夫だろうと思ってたけど、ここまで脆いとは思いもしなかった。まぁ、その方が時間も無駄に浪費しないで済むんで都合がいいんだけど、肝心の石材がない
「ハズレ?」
「そ。石材屋で綺麗なゴーレムの破片を買おうと思ってたんだけど高くてさ。こうして現地調達しようと思ったんだけど、こいつは違ったみたいでね」
「多分……石材、中心部」
「そうなの? どれどれ……掘削」
アカネの言葉を信じて丸めたゴーレムの中心部に穴をあけてみると、そこには確かにビビットカラーの石材と一緒にビー玉サイズの魔石が。
いいねぇ……これで石材取り放題じゃん。
「よっしゃ! 狩って狩って狩りまくるぞー」
——
「なぁ兄貴。ゴーレムってこんな簡単に勝てる相手だっけ?」
「そんな訳ないだろ。あれはリック様だから出来る事であって、普通の魔法使いには到底不可能に決まってるだろ」
なんか後ろで聞き捨てならない事がつぶやかれてっけど、言うほど難しいとは思えないんだよなぁ。
そりゃあ俺は詠唱を短縮はしてるけど、魔力の操作とその総量はたゆまぬ努力で身に着けた物なんで、クッソ長い詠唱を気にしないのであればアカネでもゴーレムくらい何とでもなると俺は思う。要はどれだけ目標に向かって真剣に取り組めるか。それだけだ。
「さて、こんなもんでいいかな」
1時間そこらで十分な量の石材と魔石が手に入ったし、索敵範囲の中も随分とスッキリした。
手に入った色は森だからか緑が多いけど、他の色もゼロって訳じゃない。これだけでも十分すぎるけど、やっぱり魔石もついでに手に入ったのは大きいね。
実験が必要だけど、これで長期間魔道具を動かす事が出来れば村人に魔道具を普及できるかもしれん。ぐーたらライフ前進の兆しだ。
「もう帰還しますか?」
「うーん……どうせなら綿の魔物ってのも見たいかな」
物によっては、自分で持ち込んで綿に加工してもらうなり糸に加工してもらうなりすれば安上がりになるし、服を作れば冬の寒い日でも家の中を歩く事が出来る。火魔法で暖かくしても冬は寒いんだよ。
「分かりました。それではお供いたします」
「こっちに引っ張ってくればいいんじゃないの?」
「綿の採取できる魔物は服飾・裁縫両ギルドが管轄なので、許可なく採取する事は罪人として裁かれてしまいます」
「今ならゴーレムのせいに出来ると思わない?」
ゴーレムが何でこの森に住みつき始めたのかはさっぱり理解できないけど、暴れてない保証なんてどこにもないし、それで綿魔物に被害が出てないなんて言いきれない。つまり、今ならちょっとパクったって証拠がない訳よ。
「まるで山賊みたいな考え方だな」
「あくどい」
「失礼な。俺はわざわざゴーレムを退治しに来たんだよ? そのついでに綿魔物が無事かを確かめて、駄目になった物を仕方なく掃除するだけじゃないか」
「物は言いようだな」
「まぁ、手出しされてなかったらその時は諦めるからとりあえず行ってみようよ」
兎にも角にも行かない事には話が進まない。まずは現地を調査してみて、それから判断しよう。
なんでいつも通り土板を作り出すとリーダーとギン二人の顔が合からまさに歪んだ。
「またあれに乗るのか……」
「諦めろって兄貴。護衛依頼だ」
「この中走るの、楽しみ」
「じゃあ行こうかー」
場所は知ってるらしいので出発。
今回は木々の間をすり抜けるように走るんで、畳みたいな形じゃなくて蛇みたいに細長い形を採用した。
「フフフ……フフフ……」
「「ぎゃああああああ‼ ぶつかる! ぶつかるううううう!」」
「うるさいなぁ……」
これでも安全マージンをたっぷりとって運転してるし、魔物に関しては魔法でどけてるから接敵もしないから安心して道案内してほしいんだけどなぁ。
「フフフ……右」
「はいよ」
どうやらアカネだけは言葉が通じるらしい。まぁ、三日月みたいに口を歪めて笑う姿は何とも不気味だがちゃんと役割を全うしてくれるならいいか。
不気味な指示に導かれる事5分で、目的地であろう場所に到着したわけだが――
「チッ! 無事か……」
「リック様……」
「欲望駄々洩れじゃねぇか」
「醜い」
綿が採れる魔物は植物タイプのようで、柵に囲われた広場には目算で100を超えるサボテン〇ーみたいな2足歩行してるその頭部にソフトボール大の綿がゆらゆらと揺れている。
柵に壊された形跡はないし、魔石やドロップ品が落ちてる気配がない。少しくらい壊しとけよ全く。おかげで骨折り損だ。
「とりあえず無事なら用はないし、さっさと帰ろっか」
綿が手に入らない以上、ここに居たって仕方がない。とりあえず石像のカラーリングは十分可能な量手に入ったし、魔石も潤沢になった。目的は十分に果たしたから良しとしようか。
「お待ちください。出来ればゴーレムが近寄らなかった理由を調査したいのですが」
「えー……面倒臭いんだけど」
「すぐに済みますので一緒に来ていただけませんか?」
「綿も手に入らないのに何でそんな面倒な事をしなくちゃいけないのさ」
綿が手に入ると思ったからわざわざここまで来ただけだってのに、何の得にもならん見回りなんてやる気が微塵も出る訳がない。
「そういった事を報告すればギルドに貢献したとして心証がよくなるんですよ」
「いい奴と思われっと旨い依頼を融通してくれたりすんだよ」
「印象……大事」
「俺には関係ないよね? 行くならここで待ってるから勝手に行ってきなよ」
ギルドの心証をよくするのは悪くない。それでうまい依頼を回してもらえるようになるのならやっておいた方が良いに決まってるけど、冒険者じゃない俺が同行する必要はない。
「……つかぬことを聞きますが、ゴーレムは近くに居ませんよね?」
あぁなるほど。つまりゴーレムが出た場合は問答無用で死が確定するから、安全面を考慮して俺が必要って訳か。
「大丈夫だと思うよ」
一回魔法で調べてみたが、ゴーレムくらいでっかい魔物の存在は感知できなかったし、他に強そうな魔力を持ってる魔物もいなかった旨を報告すると、おっかなびっくりって感じで2人は調査に行ってしまった。
あぁ、ちなみにアカネはここで待機らしい。
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