第43話
「ほぉほぉ……たいそう儲けてるみたいで感心感心」
いちいち王都をめぐってあの3人を探すなんて面倒臭いんで、ルッツにすべてを押し付けて美味しいとこだけをかすめ取ろうと画策するためにルッツの店にやってきたわけだけど、随分と立派な店じゃあないか。
2階建ての建物の正面には大勢の冒険者とローブを着た研究者……商品を考えると薬師かもしれない連中が主婦層の調理器具を求める怒涛の勢いに負けている何とも情けない光景があった。
とりあえずあの中を突っ切るのは無理なんで、ふわりと浮いて2階あたりの壁の一部を魔法で変形させて侵入すると、ちょうどルッツの部屋だったみたいでめちゃくちゃ驚いた顔のルッツがそこに居た。
「やぁルッツ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど時間もらっていいよね?」
「別に構わないけど、今度からは裏口から来てほしいヨ。奴隷にもルッツ様の容姿教えてるからここまですぐ案内するヨ」
「気が向いたらね」
俺の言い方に最初から守るつもりがないと理解できたんだろう。かなり深いため息が漏れた。儲けさせてるんだからそのくらい頑張って。
「それで? 要件ってなにネ」
「実はかくかくしかじかって事で護衛に使った獣人の冒険者に依頼を出したいんだけど、どこに居るか知らない?」
「あの3人ならきっと定宿にしてる灰風亭って宿に泊まってるネ。地図描くから行くといいヨ」
「ありがと」
「お礼なら砂糖の畑を造ってほしいヨ。王都に来てる今しか頼めないネ」
砂糖畑かぁ……あれって意外と手間がかかるんだよなぁ。特にガラス部分が面倒なんだよなぁ。とはいえルッツに多大な恩を売るチャンス。すでに一代じゃあ返しきれないほどの恩を売ってる気もしなくもないんで、ここは一発ガツンと使うか。
「じゃあ魔道具の店に連れてってよ。飛び切りの高級店に」
「ワタシの力で案内できるの一般向け高級店までネ。貴族向けは無理ヨ」
「それでもいいよ。要はどんなのがあるのか見たいだけだし」
ルッツから地図を受け取り、今度はキッチリ裏口から脱出。その際に従業員らしき人たちに随分と驚いた顔をされたが、俺がそんな視線を気にするようなやわな人間じゃないんで無視を決め込んだ。
「さてと宿は……遠いなぁ」
地図を確認すると灰風亭はここから直線距離でおよそ1キロ。魔法を使って空を飛べばあっという間に到着するんだが、それをすると衛兵に目を付けられるんで、今回はキックボードもどきを土魔法で作り、それを無魔法で操作する事で手打ちとしている。
見た目は変な乗り物にしか見えないから、魔法使いでない限りは衛兵に見つかっても咎められる事はないだろう。いちいち足止めを食らうのが一番の時間の無駄だからな。
すいーっと滑るように大通りを西に駆け抜けると、道中で見知らぬガキ共が俺のキックボードもどきを見て羨ましそうな目を向けてきたが当然無視だ。
「えーっと……この辺りのはずだけど」
ある程度の距離まで来たとは思うんだけど、地図がおおざっぱすぎてここから先がさっぱり分からんし、宿っぽい建物が散見してるからいちいち中に入ってあの3人が居るか聞きだすのも面倒だよな。
「お? リックじゃん。どうしたよこんなとこで」
……ナイスタイミングでギンが現れた。
機嫌よくしっぽが揺れ、髪が濡れて表情がすっきりとして、ほほにキスマーク。これはあれだね、娼館でスッキリしてきた帰りってところか? 昼間っから元気なのか。それとも今までお楽しみだったのか。その辺の詮索はよしておこう。
「やぁ。ちょっとリーダーに用があるんだけどそこまで案内してよ」
「兄貴か? だったら宿に居るからついて来いよ」
「分かったー」
ギン先導で大通りをしばし歩くとすぐに目的地らしい建物に到着。ううむ……俺達よりいい宿に住んでんだな。
外観は俺の泊まってる宿とそう変わらんけど、内部からわずかに魔力を感じる。これは魔道具かなと中に入って辺りを見渡すとすぐに見つかった明かりの魔道具はかなりデカかった。
「お? やっぱ魔法使いだな。それが魔道具って気づいたか」
「こんなデカデカと魔法陣が書いてあって気づかない方がおかしいでしょ」
今は昼だから起動してないみたいだけど、これだけのサイズで一体どれだけの明かりになるんだろう。正直全く期待できない。
「ほら。いつまでも見てると置いてくぞ」
「ああ。ごめんごめん」
魔石だけは立派な物を使ってたなぁとぼんやり考えながら階段を上って二回の一番奥の部屋に。
「兄貴ー。リックがなんか用があるんだって――痛ぇ!」
戸を開けるなりリーダーのげんこつがギンの脳天に振り下ろされる。別に言葉遣いを気にするような性格でもなければ高位の貴族でもないんで割とどうでもいいと思ってるんだが、他のクソ貴族共は違うから教育はしっかりしておかないとね。
「申し訳ございません。それで要件があるとのことですが……」
「そうそう。綿がとれる森でゴーレムが出るってのは聞いてるよね?」
「ええ。我々がルッツ商会の護衛としての依頼を受けるよりも前からその話題はありましたから」
「そのゴーレムを狩りたいんだけど、父さんが3人に護衛を頼んでから行けって言ってさ。依頼料はちゃんと払うから暇だったら時間もらっていい?」
「ゴーレムですか……大した事は出来ませんがよろしいですか?」
「俺がなんとか出来るだろうから大丈夫。今すぐ行こう」
一体倒すだけで銀貨1枚。ヴォルフが止めないって事は、俺の魔法で十分に対処可能なんだろう。それならこれはぼろ儲けできる旨い依頼って事になる。
とはいえ、俺が個人的に冒険者になってゴーレム退治の依頼を受けるのは確実にあっち側に止められるし、そうならなかったとしても待ってるのは将来有望な魔法使いとして囲っておきたいと考える高位冒険者からの勧誘。
こいつが死ぬほど面倒なので、この3人を矢面に立たせて俺は報酬だけがっぽりって寸法よ。
「お待ちください。リック様であれば心配はないでしょうが、決まりですので報酬の話をしたいのですが」
「それだったら父さんから銀貨5枚を預かってるけど十分?」
「普通ならそんなはした金でゴーレム退治のお供なんざお断りだが、リックが一緒となりゃあ話は別だ――ってぇ!」
「もう喋るな……力が足りず申し訳ありませんが、それで納得していただけるのであれば、お受けさせていただきます」
「ありがと」
とりあえず交渉は成立。最低でもゴーレムを5体狩らないと赤字になるから頑張るとしますか。
「ではアカネを呼んでまりますので少々お待ちください」
「へーい」
しっかし……大通りに面してる宿にしては部屋の中が随分と埃っぽいな。ベッドも綿を使ってるっぽいけどどこかかび臭い。この世界の住人であればこれが普通なのかね。俺だったら無理。そういえばひと月の間の家の掃除って誰がやるんだろう。
そんな事をボケっと考えながらリーダーを待ってるとすぐに戻ってきた。
「お待たせしました。アカネも同行するとの事です」
「よろしく」
「はいよろしく」
とりあえず3人で向かうってのが決まったんで、森に通じる門——この場合は東門らしい。そっちに向かって移動を開始。
「遠い。心が折れそうだ。魔法でパパっと移動したい」
「まだ動き始めたばかりだろうが――痛ぇ!」
「もうお前はしゃべるな。まったく……しかしリック様。王都内での魔法は原則禁止されておりますので、移動は徒歩か乗合馬車となります」
「そもそも、歩いてない」
当然だ。最低限健康に気遣った運動くらいはするが、面倒な事はどんな些細な事だろうと魔法で解決したいぐーたら人間だからな。
「乗合馬車ねぇ……」
ちらっと眼を向けた先には確かに馬車がある。乗車率はさほど高くないんで乗れるっちゃ乗れるけど、いつまでも席が空いてるとは言い難い。
「いいよ。面倒だけどこのままいく」
「そうですか」
とはいえ時間の浪費はぐーたらの敵だ。少しスピードを上げると、体力のあるリーダーとギンは駆け足で東門まで。まぁ、アカネだけはちゃっかり俺のキックボードもどきに乗っかっていたがな。
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