第30話

「リック。ちょっと座ったままで父さんの話を聞け」

「なんか嫌な予感がするんだけど?」


 昼飯を食い終わり、さーてこれから夕方までぐっすり眠って明日への英気を養おうからなーって思ってたところに、ヴォルフから突然命令が下った。非常に珍しい。


「伝え忘れだ。今回の報告会への同行のほかに、お前には王女殿下の生誕祭への参加が義務付けられている。そこでお前の披露目もする」

「はぁ……別にわざわざ命令されなくてもそのくらいなら参加するけど?」


 どうせ王都に行ったってやる事なんかありゃしないんだ。それだったらまかりなりにも国のトップが主催する誕生日会に参加して、日ごろ食えないような豪華絢爛な食事を腹が破れるんじゃないかってくらいくらってやるのも悪くはないからな。

 しかし、そんなのは道中でいえば済む話だ。わざわざここでそれを言ってきたってことは何か理由があるのは明らか。


「参加するだけではない。王女殿下へ何か贈り物を用意するんだ」

「ちょっと待って。呼びつけられた上に贈り物までしなくちゃなんない訳? むしろ行きたくもないのに参加するんだからこっちがもらいたいくらいなんだけど?」

「他の貴族達からすれば王家に自分を知ってもらうまたとない好機だからな。どこも記憶に残るような贈り物をする」


 なるほど。つまりただの誕生日会じゃないって事か。まぁ、貴族が集まるんだからそれも当然か。しかし俺には王族に顔を覚えてもらう必要なんて皆無だからプレゼントはノーサンキューと行きたいところなんだけど……無理だよなぁ。


「じゃあ別に送らなくてもいいでしょ。知ってもらう必要なんてないし」

「そうもいかん。他の貴族連中ならまだしも、王家を相手にそんな事は出来ん。これは父親としての命令だ」


 一応抵抗してみたけど頑として受け入れない。クソ国王に対して律儀だねぇ。誰のせいでこんな辺境に居を構える事になってるのかわかってないのかな?


「はぁ……分かったよ。じゃあ予算は?」

「金貨1枚までなら出す」

「随分と大盤振る舞い過ぎない?」

「砂糖の臨時収入があったからな。この予算内で出来る事を夕飯後に発表だ」

「締め切り早っ⁉」


 やれやれ。正直言って毛の一筋ほども気が乗らんが、用意しなけりゃ俺がヴォルフに何を言われるか分からんからな。


「ちなみにだけど、王女の年齢っていくつか知ってる?」

「確か今年で7歳になる。そんなことを聞いてどうするんだ?」

「贈り物の傾向を知るため。いい年した父さんが子供用の木剣送られてもうれしくも何ともないでしょ?」

「……そうだな」


 七歳か……こうなる前でも幼女と接点はなかったからなぁ。何が欲しいのかなんてさっぱりだ。

 パッと思いつくのは着せ替え人形だったり知育玩具だったり洋服辺りかな。

 それだと服はパスだな。そもそも布が手に入らんし、相手の好みもさっぱりとくれば下手に送って逆に不興を買う可能性の方が圧倒的に高い。

 ぬいぐるみは……綿が手に入れば製作は出来る。流行りを取り入れれば子供への贈り物としては十分だろう。

 知育玩具は、積み木……知恵の輪……ルーブック〇ューブ……こんなところだが作り方を知ってるのが積み木くらいしかないが、それはさすがに子供っぽすぎるな。


「うん。ジェンガにでもするか」


 積み木よりは大人向けだし、何より石だろうが木だろうが金属だろうが関係なく造れる。そしてルールが簡単だし抜き方置き方なんかを考える事で知育になりそうだ。

 そうと決まれば早速作成。7歳の子供って事で理想であるなら木製で仕上げたいが、そんな余裕はウチにない。かと言って地面の土を圧縮して作るにしても衛生面が気になるので自然と金属一択。見た目もいい感じにすればないがしろにしてもあせんよアピールも出来るだろ。

 問題は何を使うだな。

 俺の知る限りいっちゃん高価なのはダマスカス。親方にそう聞いたしマジで産出量が少ねぇ。因みに金貨一枚じゃ研磨した時に出る粉すら買えんので速攻で却下。


「鉄でいいか」


 すぐに亜空間から鉄を取り出して土魔法で生成。子供が触るんで軽量に意識を注ぎながらも頑丈さを追求して……後は模様でも刻んどくか。ウサギ・猫・犬・鳥を側面に刻んだら少しはプレゼントっぽく見えるな。

 後はヴォルフがどんな反応をするかだな。


 ——


「さてリック。何か贈り物の案は思いついたか?」

「これ」


 予定通り鉄製のジェンガをテーブルに置く。


「ナニコレ。随分と小さいレンガじゃない」

「表面に可愛らしい細工をしたのはわかるけど、これを女性の贈り物とするのはさすがのボクでも駄目だと思うよ?」

「これは遊び道具だよ。一番上以外の場所から一本抜いて、上に置く」


 やり方を示して見せてからヴォルフに次を抜けと視線と手で示す。


「随分と単純なんだな」

「子供には単純な方がいいと思ってね。それに、そう思っていられるのも今のうちだよ。次は――「アタシがやるわ!」じゃあアリア姉さん」

「こんなの簡単じゃない」


 って感じでめいめいにジェンガを引き抜いていくんだけど、3順もすればおのずとバランスが危うくなってくるわけで……


「リック。なぜそんな雑に置いたんだ」

「勝つために決まってるじゃん」

「だからってこれはないんじゃないかい?」

「そうよ。父さんが成功したら次はこっちに来るじゃない」

「知らないよそんなこと。勝つためだもん」


 あっという間にのめりこんでいるようで、3人はかなり真剣にここでもないそこでもないと言いながらジェンガを引き抜いて――


「あっ⁉」

「はい。アリア姉さんの負け」


 普段のガサツさが発揮され、アリアが見事にジェンガをぶったおした。

 速攻でもう一戦挑んできたが、こっちはまだ話の途中なんで女子達で二戦目をやってもらう。


「それで? 贈り物としてどう?」

「うーむ……一度遊んでいただければ真価をお伝えする事が出来るんだろうが、はっきり言って見た目がな」

「その辺は梱包で誤魔化すよ」


 要は見た目だけ貴族っぽくすりゃあいい。そうすれば少なくとも他のプレゼントに紛れ込ませる事が出来るんだ。後は知らん。不興を買ったところで実害はない。どうせ俺の以外にも姫が気に入らないプレゼントなんてごまんと送られるだろうからな。


「……ほかに何かないのか?」

「父さんも贅沢だね。といっても材料がないんだからなんも出来ないって」

「構想だけはあるという事だな。言ってみろ」

「ならぬいぐるみだね」


 必要なのは布と綿。どっちもこの村じゃあまり必要とされない商品だから作ろうと思っても作れるわけがない。

 一応存在してはいるらしいけど、アリアもサミィもそういった女子女子したものは好まないから余計に需要がないので実物がどの程度のものなのかってのがさっぱりわからんのが不安点だな。


「ぬいぐるみねぇ……アンタにしては普通すぎるわね」

「普通が一番だよ。それに、当たりはずれが少ない」


 よっぽどキワモノが好きって狂った趣味嗜好でない限り、7歳への贈り物としては十分すぎるほどの及第点が約束されてると思う。まぁ、そんな相手に送った事がないんだけどねー。


「ぬいぐるみか……金貨1枚で買えるのか?」

「そんなのはルッツに聞いてよ。この村から出た事もない俺に分かる訳ないじゃん」


 地球に居た頃は、小さいモンで数百円の世界だったが、この世界におけるぬいぐるみの価値など知らん。俺は歩くWikiではないのだ。


「じゃあどうやってぬいぐるみを知ったんだよ」

「本だね。後は冒険者の話とかから聞いてるよ」


 一瞬ドキッとしたけど言い訳はちゃんと用意してある。そこらへんは抜かりない。


「……他には」

「まだ必要なの? だったら絵本とかどう?」

「絵本? 絵本って何よ」

「文字通り絵を描いた本だよ」

「うん? 子供向けの本には大抵絵が描いてあると記憶しているよ?」

「ああ。あれは駄目だよ。全然子供向きじゃない。俺が言ってるのは――説明するから魔法使っていい?」

「汚したりしないなら構わないわよー」


 エレナの許可が出たんで家の外から土を引っ張ってきて板を作り、それに絵を描く。言葉で説明するのが面倒なんで、この方が手っ取り早い。


「こんな感じの絵。そして文字も大きく少なくするんだ」

「ほぉ……。確かにこれなら子供でも読みやすいな」

「絵もボクが知ってるのと違って随分と可愛らしい印象があるね」

「これなら王女殿下も気に入るんじゃないかしらー」

「ふーん……こんなのがいいの?」


 アリア以外からはおおむね好評を得た。しかしこれを作るには紙が必要だというとあっという間にヴォルフとエレナが苦い顔になった。それだけ高額なんだろう。

 とりあえずプレゼンできるのはこんなところなので、さっさとベッドにもぐりこんで夢の世界へと旅立った。何せ明日から王都に向けての長旅になるんだからな。一秒でも長く寝ておきたいんだ!

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