第26話
「さて。それじゃあ行こうか」
「道中の護衛はお任せください」
俺はいつも通りのラフな格好でいる一方。リーダーは何故かフル装備でがっちり固めていた。
正直そこまでガチガチにならんくても大丈夫な魔物しか出ないんだが、かなり慎重な性格らしく、万が一が起きた時は盾になるためには必要だと頑として受け入れなかった。
「夕飯までには帰って来るんだぞ」
「分かってるって」
時間は厳守。じゃないとエレナに怒られる。これはぐーたらの次に大切な家訓。
「じゃあ行ってきまーす」
水源までは速度による。トップスピードを維持すれば10分もあれば十分だけど、そうなると隣のリーダーが使い物にならなくなるんで、仕方なく低速から徐々にスピードを上げ、時速20キロ程度で待ったが入ったので仕方なくちんたら進むことに。
「り、リック様……少々速すぎではありませんか?」
「地面から近いからそう感じるだけだよ。俺からすれば遅い遅い」
何もない荒野で走ってるのは俺達だけ。おまけに見通しがいいのに原付より遅い速度で走って事故を起こすなんてどうやったらできるんだと言いたくなるが、事実を知らん相手からするとそう見えるか。
まぁ、やめるつもりは全くないけどな。あんま遅すぎっと今度は夕飯に間に合わなくなるからな。
「しかし……本当に魔物の姿がありませんね」
「そりゃそうでしょ。こんなところに居られるのは死んでる連中くらいじゃない?」
一応村の近くには森と呼べるような呼べないような場所があり、そっちであればまだ魔物の姿が確認できる機会に恵まれてるだろうが、こっちはマジでなんもない。本当に見渡す限り荒れ果てた荒野しかないんだから仕方ない。
「とはいえ、何が現れるか分かりませんのでしっかりと護衛の任はお任せください」
「別にそこまで気張らなくてもいいと思うけど……」
とはいえ、リーダーの生き方を否定するのはお門違いだしね。やりたいようにやらせればいいでしょ。俺のぐーたらライフの邪魔になるわけでもなさそうだしね。
「しかし、ここまで遠方にある水源を探知する事が出来るのでしたら、村で作業なされたらよろしいのでは? 安全ですし」
「さすがにそれは遠すぎて無理」
多少なりとも魔法に自信があるとはいえ、探知なんかの単純な魔法であれば届かせることができるけど、地面を掘削して水路を作るなんて芸当はさすがに無理すぎるからね。
「リック様にも出来ない事があるのですね」
「色々あるけど一番は冒険者かなー。話を聞くだけで十分」
朝早く起き。
金になる依頼を探し。
必死にそれをこなし。
いくばくかの金を得て。
泥のように寝る。
ブラック企業も真っ青の労働体系は、話に聞くくらいなら大変だねーという事が出来るけど、それを実行に移せと言われると本気で嫌だ。
過去に護衛依頼でやってきた冒険者達に、俺ならあっという間に金級の冒険者になれると太鼓判を押されたが、俺は話を聞くのが好きであって実践したいわけじゃあない。
それに、ネットも漫画もない世界で大金を稼ぐ必要性がない。飯を食うに困らない程度の稼ぎがあればそれで充分よ。
「到着するまで暇だからなんか話してよ」
「話……ですか?」
「そ。冒険者をやるのは嫌いだけど、話を聞くのは好きだから」
「そういうことでしたらダンジョンの話などいかがでしょう」
おぉ……ダンジョンか。
これまでも何組かの冒険者が訪れてその手の話をしてくれたことがあったが、この世界のダンジョンの攻略難度はかなり高いっぽいってのがわかっている。訪れた冒険者たちが弱い可能性も捨てきれないけど、その辺はエンタメとして聞いてるんで真偽は割とどうでもいい。
「どんなダンジョン行ったの?」
「我々が足を踏み入れたのは大陸北部にあるダンジョンですね。主に獣系統の魔物が出現するので難度は普通といったところでしょうか」
「霊体や不死者のダンジョンは魔法使いがいないとどうにもならないって聞いてる」
「一応教会で光魔法の加護を受ければ攻略は可能でしょうが、その為のお布施など我々銅級にはとても払えませんので」
「ちなみにだけど、ダンジョンから魔物が出てくるとかないの?」
「そういった情報は今まで聞いたことはありませんね」
ふむ……そうなるとこの世界のダンジョンはスタンピードが起きないタイプのダンジョンなのかもしんないな。
「なんかいい宝物とか手に入った?」
「この盾がそれにあたりますね」
「よくそんなデカい盾振り回せるね」
リーダーの体格はかなりいいんだが、それと同程度の巨大すぎる盾は明らかに取り回しが難しい。ってか無理だろってくらい分厚いにもかかわらず、さすがに片手で持つのは無理っぽいけど両手だろうと難儀するレベルの盾だ。
「実は重量が軽くなる魔法陣が刻まれている魔道具なんですよ」
「え? じゃあリーダーも魔法使いなの?」
「いえ。これは内部に魔石が装着できるようになっておりまして、そこにアカネに魔力を充填してもらっているのです」
どれどれと盾を貸してもらうと、確かに内部にはこの領地じゃ絶対にとれないだろう大きさの魔石で作ってあるっぽいグリップ部分があるが、肝心の魔法陣はどこにも見当たらない。
「魔法陣は?」
「ギルドで鑑定してもらった限りでは内部にあるらしいです」
「分解しちゃダメ?」
「さすがにそれはお許しください。その盾は今や我々が銅級として活動するための生命線ですので」
なんでもこの盾は重量軽減のほかに、トロールっていう5メートルを超える巨人の一撃すら防いでしまうほどの防御力があるらしい。もちろんそのためには魔石にため込んだ魔力を大量に使う必要があるらしいけど、話を聞く限りだとかなりの有能アイテムだ。
「じゃあしょうがないね」
「ありがとうございます」
しかし……重量軽減に防御力増加か。これではっきりした。属性以外にも魔法陣があるってことは、ワンチャン王都に俺の持ってるのとは別の魔道具に関する本があるっぽいな。
「リーダーのおかげで国王からふんだくる物が決まったよ」
「国王陛下から物をふんだくるって……」
ひと月――いや、きっと数日滞在するだろうと考えればひと月半くらいか。正直それだけの期間村から居なくなるのは不安で不安で仕方ないが、ヴォルフは大丈夫だという。本当かなぁ?
「急だけど、あの村ってどう思う?」
「どう……とは?」
「栄えてる?」
「ええ、まぁ……正直村としてはかなり栄えているのではないかと」
「おべっかとかじゃなくて? 俺からするとまだ貧しいと思ってるんだけど」
「リック様がどの程度の生活水準を思い浮かべているのか分かりませんが、しっかりとした家屋に豊富な水源に肥沃な畑。おまけに優秀な薬師に月に一度あれだけの規模の商隊が行商にやってきて食料などが無償で提供される。これに文句を言うのは貴族くらいではないでしょうか」
思った以上に高評価だ。俺としてはまともに飯が食えなきゃ働いてくれないだろうって思っての事なんだが、この世界にとっては想像以上にホワイトな提案らしい。
「そんなもん?」
「そんなもんです。疑うようでしたら村人に聞いてみるといいでしょう」
「そうしてみるよ」
アンケート調査の結果如何では王都行きはキャンセルさせてもらおう。
「じゃあそろそろ速度を上げるよー」
「ま、まだ上げるのですか!」
「ちんたらしてたら夕飯に間に合わなくなるかもだしねー」
ってわけで倍速。
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