第27話
「はーい。到着ー」
片道一時間程度で到着した場所は、相も変わらず荒れ果ててるけど、水源があるっぽい場所らへんだけは小さめの木が乱立してて地面にうっすらとだけど草が生えてる。どうやらここで間違いなさそうだけど念のために地面に触れて調査してみると、確かに水の反応が確認できる。ここで間違いないらしい。
「さて……と。それじゃあ始めますか」
まずは土魔法で木をどかす。なんとなしにバラバラに配置するより密集させて配置したほうがいいかなと思うので、適度な距離にはするけど一応一か所にとどめ、次に貯水湖とするための掘削を開始。
「あ、あっという間に大地が掘り返される」
「こんなもんかな?」
とりあえず50メートルプールくらいのサイズで一旦止めて、今度は水源に向かって深く深く掘り進める。
「今度は何をしているのですか?」
「水源に向かって掘り進めてるところ。それで? 魔物は平気?」
「……一応現れましたね」
リーダーにつられて目を向けてみると、そこにはキノキノコが5匹。だけどなんかあわあわしてるように見えて特に危険を感じないな。
「多いね」
「おそらくリック様が発見された水源を求めての事でしょう。奴らはわずかな水気があれば生きていける魔物ですので」
「なるほど」
つまりあれだ。俺たちの水場がなくなった! って事に慌ててるんだろう。この地はただでさえ水場らしい水場はないからな。そんな土地でわずかながら水気を感じられる場所に人工の大きな貯水池が作られてしまったんだから。
ううむ……こうなるとなんかこっちが悪いことをしてる気になってきたな。
「ではさっさと駆除しますね」
「ちょっと待った」
「どうしたのですか?」
「放っておいていいんじゃない? 別に危険はないんでしょ?」
「それは確かにそうですが……よろしいので?」
「万が一襲ってきたら撃退してよ。なんか悪いことしてる気分になるからさ」
そういってキノキノコ達を見ると、肩を寄せ合って震えており、それを見たリーダーも何とも言いがたい表情となってしまっている。
まぁ、アリアだったら容赦なく殲滅させるだろうね。あれはそういう性格だ。
「……まぁ、確かに」
「だから放っておいていいよ。邪魔になったりしないし」
って事で、移動させた木の近くに魔法で水を撒くと、あれだけ怖がってるように震えていたキノキノコ達がスキップしながらそっちに行き、木の幹に寄り添うように腰を下ろす。
「……騙されたかな?」
「かもしれませんね。殲滅しますか?」
「いいよ。邪魔しなければ。それに、そろそろ終わる」
こうして話をしている間も淡々と掘り続け、ようやく目的の場所まで貫通した。あとは水が上がってくるの待つだけだ。
ゴゴゴ……
「来た来た。ちょっと離れようか」
「そうしましょうか」
何か起こった場合でも魔法でどうにかなるけど、だからって動かないで何かしらの被害を受けるのは嫌なんで、いつも通り土魔法の板に乗っかって10メートルほど距離を取り、何の気なしにキノキノコ達の方に目を向けると、連中もちゃっかりと距離をとってやがる。キノコのくせして抜け目のない。
「意外と知能がありますね」
「だね」
うっすらと聞こえていた地鳴りが次第に大きくなり、地面が揺れ始めて5分ほど経ったころ、念願の水が間欠泉みたいに大量に噴き出したが、ちょっと思ったより噴き出す量が多いな。
「おぉ……随分と大量の水ですね」
「だね。ちょっとこのままだと受け皿が小さすぎるね」
かなり巨大な水源にぶち当たったみたいで、雑談をしながら作った貯水池がかなりの速度で満たされていくんで急遽範囲を拡大。50メートルプールを二回りくらい大きく作りなおすんだけど、水が満たされる方が早いな。あっという間にあふれ出す。
「失礼します」
「ありがと」
リーダーがひょいと持ち上げて距離をとってくれたおかげで水にぬれずに済んだが、キノキノコ達はその水量を目の当たりにして軽く小躍りしてる。まぁ、誘われて踊りだしたりしないなら危険があるわけでもないから放っておこう。それよりも水を確保するほうが大切だ。
「こんなもんかな」
辺り一帯がかなり水浸しになったけど、とりあえず十分すぎる量の水は確保できたと思う。あとはこれを村まで運んでいくだけだけど、果たしてそこまで水が持つかどうかが不安だなぁ。
「じゃあ水路を作りながら帰ろっか」
「分かりました」
というわけで再び土のソファに乗り、村に向かって走り出しながら水路造りを同時進行で行う。
村人みんなで使用するってことを考えて、幅は2メートルくらいの深さ1メートルにする事に。
「うーん……やっぱ作りながらだと遅いね」
「普通、これだけの規模の貯水工事を行うのであれば百人規模の大事業なのです。それをたった一日で完成させてしまうのはどう考えてもおかしいとしか思えません。リック様の魔力量は常人の域をはるかに超えております」
「そりゃあたくさんないとぐーたらできないし、そもそも魔力を増やさないと生きていけなかったからね」
あの村は俺がいなけりゃ遅かれ早かれ廃村になっていた。そこから最低限人が暮らしていけるくらいの村にするためにはどうしたって魔力が必要だったから増やしただけで結果論に過ぎない。
「ぐーたらですか……いつもおっしゃっておりますがどういった意味があるのですか?」
「好きな時に起きて好きな時に好きなものを食べて好きな時に好きなだけ寝る生活を送る事をそう言うんだよ」
「そ、そうですか……。願いが叶うとよいですね」
「叶うとじゃない。叶えるのよ」
今までは遅々として進まなかった歩みだけど、魔道具の導入でそれが一気に進むはずだ。
まずは夏に向けて冷房——は村に水を引くからそこに飛び込めるプールでも作っておけば何とかなるだろうから、とりあえず麦の収穫が楽になる物でも考えるか。
「……そういえば、あのキノキノコ達はどうしましょうか」
「放っておいていいんじゃない? 別に悪さするわけでもないし、増えすぎて困ることもないでしょ?」
「まぁ、その通りですね」
あれは、魔物の中でもスライムと最底辺代表の座を争えるほどの魔物だ。正直あんな真似ができるとは全く思わなかったけど、別にあそこに居座られたとしても影響はないだろう。
万が一村にやってきたとしても、グレッグをはじめ村の自警団連中のいい戦闘訓練代わりになるのが関の山だろう。
「しかし……いつも軽々駆除していたキノキノコにあのような知性があるとは思いもしませんでしたね」
「まぁ、詰めの甘い部分はあるけど確かに。スライムやウサギと比べると圧倒的に頭よかったね」
普通に現れた時は馬鹿だなぁと思ったが、そっからの切り返しの速さったらない。一瞬のうちに弱者を演出し、こっちの罪悪感を刺激した。もともと雑魚魔物として名が知られてるのも幸いして、戦意がそがれた巧みな戦術だ。
「あれは報告なさるので?」
「一応はね。とりあえず害はないから放っておいてもいいかなって思う」
「分かりました」
そんな雑談をしながら戻ってきたのは夕方。夕飯にはギリギリ間に合ったけど、エレナの空気は若干悪かった。
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